読書感想『彼女が生きてる世界線!』中田永一

神(シナリオライター)が用意していたはずの、生存ルートを探し出す!

普通のサラリーマンだった『僕』は交通事故で命を落とした。
…はずなのだが、全くの別人として意識を吹き返してしまった。
それも、生前に好きだったアニメ「きみといっしょに歩きたい」の悪役・城ヶ崎アクトとして…
アニメとして描かれた数年前に目を覚ました『僕』は、ヒロイン・葉山ハルが白血病で死ぬエンディングを変えることを決意する。
設定資料集まで読み込んでいた僕なら、葉山ハルを救うことが出来るはずだ―――
サラリーマンとして奮闘していた『僕』は、葉山ハルの声を演じた声優を心の支えにしていたのだが、残念ながら【彼女】は病気で亡くなっており新しいコンテンツが増えることはなかった。
この世界に【彼女】がいる、失うわけにはいかない。
史上最悪の悪役・アクトの奮闘が幕を開ける。


所謂、転生ものである。
僕はあんまり読んだことないのでどういう展開がオーソドックスなのかはちょっとわからないのだが、今作は非常に面白かった。
悪魔のような見た目と圧倒的財力を誇り、人を虐げることを喜びとしているという強烈な設定の城ケ崎アクト…その中に入った『僕』はいたって普通…いやむしろ苦労人…そして若干天然なサラリーマンである。
アクトの中身が変わったことでキャラクターの性格や相関図が変化していくのだが、葉山ハルはアニメと同じように白血病を発症してしまう。
アクトは、この世界の神(シナリオライター)が葉山ハルが生き残るエンディングも用意していたはずだと信じ奮闘するのである。
アニメ設定ならではの財力と権力を持ち、なかなか癖の強い友人を引き連れ、本来ならば敵対するはずの主人公とも仲良くなりながら、アクトは好きだったアニメの中でそのシナリオを変えようとするのだ。
アクトのキャラ変が凄すぎて、アニメでは嫌な奴だった取り巻き二人がまわりの憧れになった時点で若干気付いてほしい、すでに主人公の座はアクトに変わってるよ!と…
あくまで元々のアニメを重視するアクトは、本来の主人公とヒロイン・葉山ハルの交流が進まないことを不思議がってる節があるんだが、そりゃぁあんた、こんだけ設定かわりゃぁそこもズレるでしょってツッコミ入れてあげたい。
そう、『僕』はめちゃくちゃ色々努力して奮闘しているくせに、いつまでも好きなアニメの視聴者でありオタクの目線でいるのである。
すでに自分となっている『城ケ崎アクト』のこともどこか第三者目線で分析し、本来なら傷ついてもいいようなあれやこれやにも仕方ないな、アクトだし…と片付けてしまえる鈍さを持ち合わせ、社会人だったころに鍛えられたビジネスマナーと理不尽への対応力でものすごく達観した謎のキャラクターへと変貌しているのである。
そして『僕』からにじみ出ているのは、生来のいい奴オーラである…。
誰もが恐怖を覚える、という設定を持つアクトの見た目で、中身は庶民的なサラリーマン…
アニメや漫画をよくみてる人にはすでに『見た目は悪魔で中身は天使』な主人公が見た目で誤解されながらも仲間を増やしていく学園物を思い浮かべているのではないだろうか…(笑)
ぼくは終始「エンジェル伝説」の北野君思い出してたよ…
果たしてアクトは記憶にあるアニメの裏話や物語を構成しているあらゆる場面や小物から葉山ハルの生存ルートを探し出すことが出来るのか?
アニメ1クール分しっかり楽しめる一冊になっているので気になった方は是非読んで欲しい。
やっぱり中田永一作品面白いわ…

こんな本もオススメ


・浅倉 秋成『フラッガーの方程式』

・森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』

・八木教広『エンジェル伝説 』全10巻

最後のはジャンプの古いギャグマンガなんですが今読んでも最高に面白いのでマジオススメ

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