読書感想『六月のぶりぶりぎっちょう』万城目 学

京都―――それは、今と昔の境目があやふやな場所…

今から20年ほど前、大学生になった私は京都で女子学生寮に入った。
そこは今考えるとちょっとおかしい古い言い回しが横行しており、寮生は女御(にょご)と呼ばれ、相部屋の仕切りは御簾とされていた。
学生の間しか住めないその寮には、いつからいるかわからないお局様的存在「きよ」がいた。(三月の局騒ぎ)
京都で研修旅行に訪れた滝川は、気づけば見知らぬホテルで密室殺人事件に巻き込まれてしまう。
銃で撃たれた死体は「織田信長」だといわれ、その場にいる人たちは皆「本能寺の変」の関係者と同じ名前をしており…
現代のホテルで挑むのは「本能寺の変」の真相解明??(六月のぶりぶりぎっちょう)
京都を舞台に万城目ワールドの炸裂する「静」と「動」の2編が収録された一冊。

『八月の御所グラウンド』と同じ世界軸で展開される万城目式京都摩訶不思議譚第二弾である。
若干の登場人物のつながりはあるものの、一話一話が完全に独立しているのでこちらから読んでいただいて全く問題がない。
京都を舞台に、表題作では万城目先生が「本能寺の変」に挑んでいる。
…万城目学先生が本能寺の変をホテルを舞台に書いてらっしゃる!!!それだけで大興奮してしまうのだが、今とりあえずその話は置いておいて…
いったい、万城目学と森見登美彦は京都をなんだと思っているのか(笑)
いや~…京都って何なんでしょうね、涼しい顔して当たり前みたいに怪異を混ぜてもサラッと馴染んでしまう包容力…これが積み重なった歴史というものか…と思わされる。
奈良だとね…なんか微妙に廃れた感が拭えなくて繋がってる感は薄いのよ…(超失礼だけど奈良県民の意見なので許して)
一話目の『三月の局騒ぎ』は、女子寮に住む謎のお局様「きよ」と主人公が短い期間同室になったことで彼女の運命が大きく変わる話である。
どこの大学に通っているかも、現在何回生かもわからない、寮の一番いい部屋を長年独占しているきよ。
そんな彼女がその部屋を出て、まさかの相部屋へ移動し、そして同室になってしまった私だが、同じ部屋になっても彼女からは壁を感じる。
だがある時そんな彼女が『猫の耳の中』というブログを綴っていることを知ってしまう。
そのブログの面白さに衝撃を受けた私は、のちにある可能性に思い至るのである。
謎めいたきよの正体に思わずにんまりしてしまうし、きよの超絶不遜な物言いにひれ伏すしかないのもよかった。
謎に古い言葉が残る寮も京都にならあるかもしれないと思ってしまうのがすごい。
そして表題作は、何故信長は殺されないといけなかったのか、という歴史ミステリーに真っ向から挑む一話である。
明智に打たれた信長…そこには第三者の思惑があったのか、信長が死ぬことを望んでいたのは誰で、得をしたのは誰なのか…。
日本の歴史の中でも長年ミステリーとされるその疑問に、一番真相を知りたいと望んでいるのが誰なのかが肝になる。
突然現代で再現された本能寺の変、そこに巻き込まれた主人公の困惑と事件の謎解き、そして本能寺で討たれた信長の無念に思いをはせてしまう一話である。
いやほんと、万城目先生が本能寺をホテル舞台で書いてらっしゃる…!!!!!!!って胸アツな万城目ファンはきっと僕だけじゃないはず。
いや、もう、形にしてくださったことにまず感謝だし、手元に届いたことに感動だわ…
…なんのこっちゃわからない方は、あえて調べなくていいです、胸糞悪いだけなので…。
でも同じように胸アツの方はいっぱいいると思うと、それもまたうれしい…!!
どちらの話も、万城目ワールド全開で非常に面白く、そしてどこか京都的哀愁の漂う一冊である。
十二月、八月、三月、六月と4か月の物語が展開されてきたが、これは残り8カ月も書かれる予定なのかしら???
ぜひ残りも書いていただきたいなぁ…。

こんな本もオススメ


・万城目 学『八月の御所グラウンド』

・森見 登美彦『四畳半神話大系』

・森見登美彦 他『城崎にて 四篇』

どうしても森見作品か万城目作品しか浮かばない…稀有なお二方だわ…大好き。

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