読書感想『悪いものが、来ませんように』芦沢 央
不妊治療に励むも子供に恵まれない紗英。
何も長続きがせず、うまく回りとも溶け込めない紗英だが、彼女にはなんでも共有できる親友・奈津子がいた。
なっちゃんがいてくれれば大丈夫…何もかもうまくいかなくてもなっちゃんが味方だから耐えられると本気で思っている。
奈津子は奈津子で所属するボランティア団体にはうまく馴染めず、今ここに紗英がいてくれればいいのに、と心の支えにしていた。
べったりとお互いに依存する紗英と奈津子、やがて彼女たちは取り返しのつかない事態を巻き起こす…
べったりと依存しあう紗英と奈津子に最初はものすごく違和感を感じるのだが、それさえもこの本の仕掛けなのだから面白い。
子供が欲しい、子供さえ産めれば…と母親になることを強く望む紗英だが、彼女の言動はとても子供じみていて自分勝手で、本当に母親になりたいというよりは母親というものに夢を見ている感がある。
彼女から受ける印象はいい年をしても成長出来ていない幼さが終始漂っていて、はっきり言ってわがままな子供のようだ。
そしてそれを加速させるのが、彼女の親友である奈津子だ。
幼い子供の世話をしながら、夫に不満を抱き、そして、自分にべったりな紗英をどこまでも許容するのである。
彼女たちの異常なまでのお互いへの執着が終始違和感を醸し出しながら物語は進み、ある時その理由が明かされると急激な納得感に変わるのである。
や、やられた……とか言ってるけど実は再読でその違和感の正体を知ってたんですが、知ってただけにじっくり色々考えることが出来てやっぱり、や、やられた…って感想になるのがすごい…。
この作品はですね、その仕掛けを知ってて読むと色々見え方が変わるので、再読オススメな一冊です。
最初の印象では紗英のほうが一方的に奈津子に依存してるのかな?と思わせられるのだが、すぐにそれが間違いであり、むしろ奈津子が紗英には自分がいないとだめなのだと思わせたいのだということが見え隠れしだす。
そんな奈津子のとる行動は、えぇ?親友のためにそこまでするの!?と思わせるような行動なのだ。
何々、この二人の共依存具合めちゃくちゃ気持ち悪いんだけど…とその違和感をかみしめながら読み進めて欲しい。
二人の真実と事件の真相どっちにも驚ける一冊に仕上がっている。
これはなかなか、小説ならでは…な、気がしますね、映像化は難しそう。
随所にちりばめられている違和感の正体が、真実とともにすとんと落ちてくる読み応えのある一冊です。
こちらもオススメ
・辻村 深月 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
・歌野 晶午『葉桜の季節に君を想うということ』
・東野 圭吾「悪意」
読んでる間に感じる違和感や気持ち悪さの正体が分かった瞬間もう一回読んでみたくなる本はやっぱり面白い。
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