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嘘日記

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全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
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2023年4月の記事一覧

噓日記 4/30 本を読む

噓日記 4/30 本を読む

本は良い。
何者でもない私が何者かになれるから。
今日、私は朝から本を読んだ。
昨日、本屋で何も考えず無手の心で選んだ知らない作者の知らない作品。
目が覚めて、コーヒーを淹れて、文庫本を開く。
ゆっくりゆっくりとその知らない誰かを知っていく。
ストーリーは海沿いの街のサスペンス。
誰が犯人なのか、なんてことは無粋だから考えない。
それは作者が彼の筆致で教えてくれる。
それをただ眺めて、受け入れて、

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噓日記 4/29 心霊スポットと神野悪五郎と山本五郎左衛門

噓日記 4/29 心霊スポットと神野悪五郎と山本五郎左衛門

暇で暇で仕方がなかったので心霊スポットに行ってみた。
雨が降る中、一人心霊スポットに行く。
車を走らせ、40分。
県内でも霊が出ると有名な山の中の小さなトンネルにたどり着く。
時間は夜7時、日が長くなってきたものの辺りはほとんど夜中と変わらない明るさしかない。
それが更に山の中だ。
照明なんてものはないし、人気も無い。
ぽっかりと口を開けたように佇むトンネルの様子は、見るものを不安にさせる妖気を発

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噓日記 4/28 ドライフルーツ

噓日記 4/28 ドライフルーツ

ドライフルーツが好きだ。
瑞々しい果物がカサカサに乾燥しているだけで面白いのにそれがさらに美味いときたらもう嫌いになれない。
俺のようにヤンチャな見てくれの人間はどうせハンバーガーが好きなんだろと周りの人間から思われている。
だが実際のところは果物が好きなのだ。
髪にパーマを当てて、髭を生やして、ネックレスをじゃらつかせていても俺は果物を食べる。
まるで浮浪者のような佇まいだが、スーパー、ネット通

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噓日記 4/27 自転車に乗りたい春

自転車に乗りたい。
最近日増しにそう思うことが増えたように感じる。
自転車など学生時代に自動車免許を取得して、それまで乗っていた自転車を処分して以来もう十余年は乗っていないだろう。
その当時はアクセルを踏み込めば勝手に動き出す車に乗る術を手に入れたのもあり、必死こいてペダルを回す自転車とそれに跨る人間が酷く愚かしく思えた。
しかし今、その自転車に乗りたくてたまらないのだ。
自分の足でペダルを回して

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噓日記 4/26 脅迫日記

噓日記 4/26 脅迫日記

最初に記しておくがこの日記は私の意思によって書かれていない。
今、私は謎の老婆に銃を突きつけられながらこの日記を書いている。
もし老婆の意に沿わないことを書いたら、もし老婆の機嫌を損ねたら、その瞬間ズドンとあの世行きだろう。
老婆からの要求はこうだ。
これから出すお題ワード3つを使ってスカッとする小話を作れ。
お題のワードは「苦」、「豆腐」、「ヤング」。
それらを巧みに使いつつも、老婆が抱える精神

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噓日記 4/25 魂の所在とオリジナル語彙

噓日記 4/25 魂の所在とオリジナル語彙

魂が奥まっている。
これは私だけの言葉だ。
昔、読んだ本の美しい筆致や表現技巧に感化され、学生時分にどうにか自分だけの感覚を自分だけの言葉にできないかと苦心して生み出したのがこの表現なのだ。
意味としては自己の発露に向けた向き合い方が自己中心的で他罰的である、として私は使っている。
学生の私が考えたに過ぎないこの言葉だが、私の人生において強くその行先を照らしてくれた、もしくはその道程に深く影を落と

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噓日記 4/24 トレンド機能の脆弱性

噓日記 4/24 トレンド機能の脆弱性

SNSにはその時々に多く投稿されたワードを収集し、現在のトレンドとして表示する機能がついていることがある。
これがなかなかいいもので、テレビのニュースでやるには下劣なものだったり、反対に高尚すぎるものがよくそのトレンドに入ってくるのだ。
我々は自ら情報を求めようとしない限り、主体的に物事を知ることが出来ない。
こういった場合の最初の一歩である知的好奇心を喚起させる働きがこのトレンドワードにはある。

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噓日記 4/23 大きな木

噓日記 4/23 大きな木

今日、散歩中に大きな木を見つけた。
普通にそこらに生えている木を1とすると、その木は8はあった。
思わず、世界樹、とこぼしてしまうほどに立派な木だった。
WEBサービスで写真から被写体の名を検索できると聞いたので、その木の写真を撮り、検索してみる。
インカメラで自分と一緒に写ったのが悪かったのか、検索結果には大江裕と出てきた。
改めて、木を単体で写す。
再度調べてみるとその気はガジュマルというらし

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噓日記 4/22 おしるこの亡霊

噓日記 4/22 おしるこの亡霊

おしるこの亡霊を見た。
のちにこの日記を読み返した時、なんだそれは、と私自身が文章に疑問を持つよう書き出しに今日出会ったものについて、端的に書いておく。
そうでもしない限り、きっと忘れてしまうようなそんな小さな出来事だ。
ただ、その小さな出来事をできる限り忘れないように抗いたいと思っている。
つまり何が書きたいのかというと今日、私はおしるこの亡霊を見たのだ。
気が触れたわけではない。
私は正気だ。

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噓日記 4/21 キャッチボール

噓日記 4/21 キャッチボール

キャッチボールが苦手だ。
ボールを投げ合うという単純な動作の繰り返しに私の脳は拒否反応を示す。
キャッチボールといえば、相手の胸元に向かってボールを投げ、相手はそれをキャッチしてこちらに投げ返す。
それをまたこちらがキャッチして、また投げ返す。
はっきりと疑問を呈しておく。
何が面白い?
人間は動物の中で唯一オーバースローで物が投げられると昔見たテレビで言っていた。
たしか大江裕が言っていた。

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噓日記 4/20 スニーカーを買う

噓日記 4/20 スニーカーを買う

休日には散歩をする、そんな趣味を開陳できるほど私は人間が出来ていない。
休日に何をしているのか、という簡単な職場の雑談でも一、二時間散歩をしていますと言えず口籠る。
私のような人間が散歩が趣味だと言っても、恐らくそれを聞く者の頭に浮かぶ言葉は徘徊や不審者が関の山だろう。
酷けりゃきっと、下着泥棒とまで想像するんじゃなかろうか。
これはただの被害妄想であり、私の醜く太りきった自意識の起こす幻かもしれ

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噓日記 4/19 歌いたい夜

噓日記 4/19 歌いたい夜

歌いたくなった。
どうしようもなく、歌いたい。
そんな日が月に一度くらいやってくる。
仕事終わりにスーツのまま、流されるようにカラオケ店へ向かう。
今日は初めて一人カラオケというものに興じてみた。
店員に促されるままに個室に入る。
一人には少し大きな部屋で、照明もつけずに、疲れた体が張り詰めた緊張を解いたように、その緊張という薄皮一枚が弾けるように溶けて、ソファにドシャっと座り込む。
しばし放心す

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 噓日記 4/18 情報を与えない理由

噓日記 4/18 情報を与えない理由

情報を与えられない立場に立つということに関して私と齟齬がある人間と出会った。
仕事の上で情報が共有されないことは問題がある。
しかし、情報を与えられない人間というものは少なからず存在するのだ。
私の働く会社にもいる。
情報が与えられないということは即ち、信用がないということなのだ。
その人間に情報を与える必要がない、情報を与えても意味がない、なんならマイナスになり得るという風に発信元から思われてい

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噓日記 4/17 リンゴ園に近い

噓日記 4/17 リンゴ園に近い

今日はリンゴ園に友人二人を連れ伴って行ってきた。
仕事はサボった。
3人ともサボった。
会社に我々がいなくてもさして問題ではない。
社会の広さと我々の無能さに感謝である。
さて、リンゴ園に行ったといってもリンゴ狩りのシーズンはだいたい8月頃から12月頃までだ。
今は4月。
丁度リンゴ狩りが始まる時期からも、終わる時期からも、一番遠い時期なのだが、そんなこと実はあまり問題ではない。
リンゴ狩りよりも

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