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噓日記 4/17 リンゴ園に近い

今日はリンゴ園に友人二人を連れ伴って行ってきた。
仕事はサボった。
3人ともサボった。
会社に我々がいなくてもさして問題ではない。
社会の広さと我々の無能さに感謝である。
さて、リンゴ園に行ったといってもリンゴ狩りのシーズンはだいたい8月頃から12月頃までだ。
今は4月。
丁度リンゴ狩りが始まる時期からも、終わる時期からも、一番遠い時期なのだが、そんなこと実はあまり問題ではない。
リンゴ狩りよりもリンゴ園に訪れること自体が目的なのだ。
それもそのはず、ただ私の実家がリンゴ園を営んでいるだけで、ゴールデンウィークに帰れそうにないから早めに帰省しただけだ。
ただ、後に思い返すとリンゴ園に行ったという事実だけが輪郭として今日を象徴するのだ。
リンゴ園は我々の住む街から車で約1時間半。
高速をかっ飛ばして向かった。
何度かサービスエリアに立ち寄り、手洗いとタバコを済ませたくらいでリンゴ園まで特に大きなハプニングやイベントは起こらない。
いい歳をした男が三人、車内で話すことなんてそれはもう下世話なものだ。
私はずっとコジコジの物真似をしていた。
友人もずっとこち亀の中川とパーシーの物真似をしていた。
物真似をしつつ好きな昆虫の話をしていたのだ。
あっという間の1時間半だった。
到着したは良いものの、シーズンではないリンゴ園はそれはもう閑散としており、枯れ薄のように貧弱なカカシが2本寂しそうに木の脇に立っているだけだった。
近くに寄ってみると、カカシではなく両親だった。
護身用に持ち込んでいるおもちゃの火薬銃を鳴らすと猿のような鳴き声をあげて、両親は山へと帰って行った。
あるべきところに帰っていく両親に私は深く頭を垂れた。
友人たちもその荘厳な雰囲気に、涙を湛えて最敬礼していた。
両親の後ろ姿が見えなくなった頃、私は友人の背負ったリュックサックから焼酎を取り出し、口に含み、そして霧のように吐き出した。
リンゴの木の下で、小さくできた虹。
我々三人はさも当然のようにその小さな天弓に手を伸ばしていた。
触れ合う手。
絡み合う指。
淫靡な雰囲気が場を支配する。
誰からともなく、口を開く。
「我ら三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん。皇天后土よ、実にこの心を鑑みよ。義に背き恩を忘るれば、天人共に戮すべし」
後にこの出来事はリンゴ園の誓いと呼ばれることとなる。

どりゃあ!