takayama

会社員 少し古くさい小説を書いています。お暇な方は是非読んでみてください。

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マガジン

  • 真夜中の森を歩く

    昔に書いた小説です。重め、暗めの近代小説です。お暇がある方は、読んでみてください。

  • 浄夜

    昔に書いた短編小説です。ちょっと退屈ですが、お暇な方、どうぞお読みください。

  • 父の手紙と夏休み

    高校生の奈々子が偶然読んだ父の手紙をきっかけに父の過去を巡る冒険に出ます。ノルウェイの森と共にぜひお読みください。

  • Case1:雨宮雪子の場合

    自分の経験と映画や小説で得たイメージをあわせて実験的な物語を書きました。お暇な方はぜひ!!

  • 父を燃やす

    長編小説「父を燃やす」を連載しています。お暇のある方は是非読んでください。

最近の記事

【短編小説】浄夜 9

携帯のアラームが耳に響いた。私は枕もとにあった携帯を開き、スイッチを押した。そしてベッドから出ると大きな欠伸をした。 後ろを振り向くと妻はまだ眠っていた。私は静かに洗面所に向かった。顔を冷たい水で洗い、髭を剃った。鏡に映った自分はひどい顔をしていた。 リビングへ行って食パンをトースターで焼き、お湯を沸かしてコーヒーを作った。食パンにマーガリンを塗り新聞を読みながら一人で食べた。コーヒーを飲み終えると食器を流しに持っていき、洗剤とスポンジで丁寧に洗った。 部屋着を脱ぎ、ワ

    • 【短編小説】浄夜 8

      携帯の画面は三時を示していた。妻はすでに眠りについたようだった。規則正しい寝息が微かに聞こえる。 私は先ほどからずっとあるイメージに悩まされていた。そのイメージはどこからかふつふつと湧きあがり、いつしか私の頭を侵していた。 夢ではない。私の意識は確かに覚醒していた。ものを考えることもできた。しかしそのイメージは私が目を閉じようと開こうとおかまいなくそこにあった。 私はそのイメージを振り払おうと何度も他のことを考えてみたが、結局は無駄だった。イメージは映像となり、同じ情景

      • 【短編小説】浄夜 7

        寝室にはシングルベッドが二つ並んで置いてある。私はなんとなく一方のベッドを動かして二つのベッドの間に隙間を作った。妻がそのことで傷つくかもしれないと考えたが、今日は隣で眠れる気がしなかった。 携帯のアラームを確認して枕もとに置いた。今日は友人の告別式で一日有休をとった。明日は通常通り会社に行かなければならない。私は明日の仕事のことを考えた。やるべきことを頭の中で整理をして、一日のスケジュール組み立てた。 朝、営業会議に出席し、午後一番で取引先に向かう。夕方戻ってきて書類を

        • 【短編小説】浄夜 6

          妻は話し終えると長い溜息を吐いた。時間が止まってしまいそうなほど長い長い溜息だった。 私は壁に掛かっている時計を見た。いつのまにか日付が変わっていた。夜は音もなく更けていく。私はすっかり薄くなってしまったウイスキーを飲みこんだ。喉が大袈裟な音を立てて鳴った。頭がうまく働かなかった。少し飲みすぎなのかもしれない。 私は空っぽのグラスにウイスキーを注いだ。そしてそのまま口にした。 「子供は産むつもりなのか?」 妻は黙ったまま頷いた。 「オレも一緒にその子を育てろと?」

        【短編小説】浄夜 9

        マガジン

        • 真夜中の森を歩く
          32本
        • 浄夜
          9本
        • 父の手紙と夏休み
          30本
        • Case1:雨宮雪子の場合
          13本
        • 父を燃やす
          70本
        • お母さんといっしょ
          6本

        記事

          【短編小説】浄夜 5

          私と彼がそういう関係になったのは去年の春頃からだと思う。私はあなたとの関係に少し不安を感じていた時期だったの。 あなたは優しいし真面目だし、これといって不満はなかったわ。ただなんとなく気づまりになってしまったの。 あなたと居るとつまらないってわけではなくて、たぶん私自身に問題があったんだと思う。それで彼に相談したの。最近セックスレスだって。 あなたもそうだと思うけど、私にしてもセックスがないことなんて大した問題じゃなかった。体の関係がなくても愛情は薄れなかった。あなたを

          【短編小説】浄夜 5

          【短編小説】浄夜 4

          食器のぶつかるカチャカチャという音がリビングに響いている。私は二本目のワインを開け、グラス一杯分だけ飲んだ。なにかもの足りなかった。もう少し強い酒が飲みたかった。 私は春に買ってそのままになっていたウイスキーのことを思い出し、あちこちを探してみた。妻は私がウイスキーを探してうろいついているのに何の関心も示さず食器を洗い続けていた。 食器棚の中にそれはあった。私はグラスに氷を入れ、そこにウイスキーを半分ほど注いだ。茶褐色の液体が氷の周りを満たしていく。指でかき回して一口飲む

          【短編小説】浄夜 4

          【短編小説】浄夜 3

          いつの間にか眠ってしまったようだった。妻の声に起こされ、私は目を覚ました。 すでに夜ははじまっていた。電灯の光が部屋の中を暖かく包んでいる。 「顔を洗ってきたら」との妻の言葉に従い、私は洗面所へ行き、冷たい水で顔を洗った。リビングへ戻ると、テーブルの上には夕食の準備ができていた。 「あなたの好きなものを作ったの」 妻はそう言って微笑んだ。テーブルの上にはコロッケとマカロニサラダときゅうりとワカメの酢の物と焼き茄子と冷や奴が載っている。 コロッケは買ったものではなく、

          【短編小説】浄夜 3

          【短編小説】浄夜 2

          家に着くと妻はシャワーを浴びたいと言って風呂場に入っていった。私はエアコンを点け部屋着に着替えた。冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し、半分ほど一気に喉に流し込んだ。ソファに座り、テレビを点け、あちこちチャンネルを変えてみた。ニュースの時間らしく、どのチャンネルも内閣不信任案の行方を報じていた。 私はテレビを見るともなくぼんやりと眺めながら、シャワーを浴びている妻のことを考えた。妻の裸を見たのはもうどのくらい前だろう。裸の妻のイメージが浮かんでは消えた。 愛情が消えたわけでは

          【短編小説】浄夜 2

          【短編小説】浄夜 1

          車内は平日の昼間だというのに、いささか混雑していた。 私は空いている席を見つけ、腰をおろしネクタイを緩めた。隣の席に妻が座り、小さなため息を一つ吐く。きっとこの暑さのせいだろう。今年の夏は例年比べて一層暑くなる、昨日の天気予報ではそう解説していた。 電車は御茶ノ水から水道橋へと向かっていた。ビルに掲げられた看板が窓の外をゆっくりと通り過ぎていく。妻はもう一つ、ため息を吐いた。 「疲れたか?」 私の問いかけに妻は無言で首を振って窓の外をぼんやりと眺めていた。窓の外の景色

          【短編小説】浄夜 1

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 13

          以上を読めば、なぜ私が雨宮雪子をサンプルのCase1にしたのかがわかってもらえると思う。 この報告書のなかには多くの私たちが知らなければならないことが書かれている。 彼女を注意深く観察すれば私たちが抱えている危機に対してなにかしらのヒントを得られると信じて、私はこれを書いた。 危機の大きさに比べればとても小さな情報だと自分でも認識している。しかし、私たちがやるべきことは小さなことの積み重ねではないだろうか。突然危機が消え去ることなどない。この報告をどう扱うかはそちらの判

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 13

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 12

          雨宮雪子の目の前にはキャンバスがある。なにも描かれていない長方形の白いキャンバス。それは常にある。雨宮雪子が存在するありとあらゆる場所にある。 彼女は鉛筆を持つ。右手が眠りから覚める。彼女の頭に渦巻くあらゆる言葉と思考のネットワークに右手は接続する。 イメージを創るのは私だ。 右手は一人つぶやく。そして動きはじめる。緩やかな曲線が少しずつ形を作っていく。 「そうだ、これは陶器だ」 色彩のない陶器が姿を現す。 「誰かが見ている、誰かが見ている」 キャンバスには視線

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 12

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 11

          【問三】 私の作法とは 私の目は私が過ごしてきた時間の中で様々なモノを見てきた。日常の風景、映画、アニメ、漫画、そして夢。それらは私の頭の奥にしっかりと記憶されている。それらは私の作法のもとに組み合わされ私のイメージとなる。 ここに大きな鍋がある。私はそこに私の頭の中に蓄積された映像をすべて放り込む。火を点け、強火でよく煮込む。煮込んでいるうちに一つ一つの映像は形式が崩れおち、お互いが混ざり合う。個々の原型をなくした映像のスープを掬い取るとそこには私のイメージがある。

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 11

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 10

          ここに一つのテクストがある。雨宮雪子によって書かれた雨宮雪子の考えが現れたテクスト。 読み物としての完成度は決して高くない。論理の飛躍やつじつまの合わない箇所も散見される。しかし私たちはこのテクストを重要視している。雨宮雪子という存在を知るための貴重なデータとして扱っている。 彼女は言葉によってどう思考し、どう自分を表現するのか。絵でなく、言葉という記号をどう選択するのか、どう配列するのか。 ここではその一部を転記するにとどめる。        ● 私は考える。すす

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 10

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 9

          千葉はマフラーをいじりながら必死に言葉を探している雨宮雪子を嬉しそうに眺める。 絵によって自分を表現する人間が言葉を使ってなんとか他者に理解してもらえるように奮闘している。それがどんなに拙い言葉であっても深い溝を飛び越えるための必死の跳躍であるならば、受け止める方も真剣にならざるをえない。 柔らかな表情を浮かべながら千葉は雨宮雪子の言葉をゆっくりと咀嚼した。 「無限まだら地獄。きみは『世代』を描きながら地獄めぐりをしたわけだ。水平な時間の中にきみは深さを見つけた。写真に

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 9

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 8

          「まさにぴったりの天気だね」 千葉は窓の外を眺めて嬉しそうにそう言った。 「なにがぴったりなんですか?」 「雨」 「雨?」 雨宮雪子は遠くに見える窓ガラスを眺める。いくつもの水滴が遠い記憶を喚起し、微かな頭痛をもたらす。 「そう、雨」 「私が雨宮だからですか?」 頭痛が大きくならないように雨宮雪子は視線を千葉に戻す。そしてマグカップに両手を添える。じんわりとした暖かみが皮膚を通して頭に伝わる。頭痛が少しずつ和らいでいく。 「そう。雨宮雪子と冬の雨。ぴったりだ

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 8

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 7

          今、雨宮雪子の目の前にキャンバスがある。長方形の白いキャンバス。そこにはまだなにも描かれていない。 白い化学繊維の布は開け放たれた窓から差し込む光を浴びて、うっすらと光っている。ウールのような風が部屋を包み、微かなざわめきをそこにもたらす。 雨宮雪子は空白のキャンバスをじっと見つめる。頭の中で完成されたイメージをキャンバスに投影する。空白の中に少しずつイメージが浮かび上がってくる。 それははじめからキャンバスに刻み込まれていたかのように自然な姿をしている。自分はただそれ

          【実験小説】Case1:雨宮雪子の場合 7