【短編小説】浄夜 5

私と彼がそういう関係になったのは去年の春頃からだと思う。私はあなたとの関係に少し不安を感じていた時期だったの。

あなたは優しいし真面目だし、これといって不満はなかったわ。ただなんとなく気づまりになってしまったの。

あなたと居るとつまらないってわけではなくて、たぶん私自身に問題があったんだと思う。それで彼に相談したの。最近セックスレスだって。

あなたもそうだと思うけど、私にしてもセックスがないことなんて大した問題じゃなかった。体の関係がなくても愛情は薄れなかった。あなたを愛していたわ。

でもね、これは私自身の問題なの。それを誰かに相談すること自体が間違っていたのかもしれないけど、誰かに聞いてほしかったの。あなたではない、だれかに。

私はセックスレスの悩みを相談しながら私の問題についても少しずつ彼に相談していった。いつもは饒舌な彼も黙って私の話を聞いてくれた。それで、あなたには言ったか?と私に聞いた。

私はあなたには言えないと答えた。彼はしばらく考え込んでいたわ。それから急にオレとセックスしようって言ったの。

私は笑ってしまったわ。彼とセックスするなんて考えたこともなかったから。変な冗談言わないでよって。彼も笑ってたわ。二人で大笑いして、それでその後ホテルに行ったの。

私はあなたに悪いなんて考えなかった。彼の方は全てが終わった後、急に気になりはじめたみたいで、ごめんねって何度も謝ってた。しつこいくらいに本当に何度も何度も謝るから私、困ってしまって、それでやっとあなたのことを考えるようになったの。もしあなたにこれがばれたらどうなってしまうんだろうって。少しわくわくしたわ。

彼はあなたとの友情に傷をつけてしまったことを本当に後悔してた。私はなるべくしてなったんだって思った。三人は微妙なバランスで結ばれていたの。あなたと私が結婚してその微妙なバランスが崩れてしまったの。バランスが崩れたまま無理に三人一緒にいたから、いつか崩壊してしまう運命だったってそう思った。

彼との関係を続けながら、彼の名誉のために言っておくけど彼は最初の冗談以外私を誘うことはなかった、私から誘ったの。そう、彼との関係を続けながらあなたに全て話そうと私は何度も考えたわ。なにかも壊れてしまって、三人ともボロボロになってしまえばいいと思ったわ。私が望んでいたことはまさにそれなんだって思ったわ。

でも、あなたにはなかなか言い出せなかった。やっぱり三人の関係が壊れてしまうのが怖かったのかもしれない。いざとなると自分がかわいくなってしまうの。そんな自分を壊したかったはずなのに。

彼は私と関係を持つたびに、あなたに悪い、これで終わりにしようって言ってた。どんどん顔がやつれていくのがわかった。本当に悩んでるんだって思ったわ。

でもね、最後に私のことを好きだって言ってくれたの。愛してるって。

そして彼は亡くなったの。

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