マガジンのカバー画像

お母さんといっしょ

6
お母さんを亡くした「僕」が猫のミミに連れられて小さな冒険の旅に出る
運営しているクリエイター

記事一覧

【中編小説】お母さんといっしょ 6

その夜以降ミミが人間の言葉を話すことはなかった。きっと魂をこれ以上ぬかれるのが嫌なんだと思う。

地震はぜんぜんおさまらないし、いろんなところでナマズが暴れているみたいだった。

でもテレビはナマズのことは言わないでチカクヘンドウについてばかり言っている。ナマズもそろそろお役御免みたいだなってぼくは思う。

アミは相変わらず泣き虫だけど、ぼくがお母さんに会った話をしたら急に泣かなくなって、それで毎

もっとみる

【中編小説】お母さんといっしょ 5

ぼくが目をあけるとそこはもとの公園だった。公園はナマズに会う前と変わらずまっくらだった。桜の木だけがまだぼんやりと光っていた。ぼくは光っている桜の木の前でぼんやり立っている。

「おかえりなさい」

ミミの声が聞こえる。ぼくはあたりを見渡したけれど、ミミの姿はどこにもなかった。

「ミミ!」

ぼくが呼んでもミミは姿を見せない。ただ声だけが聞こえる。

「さあ、まだおわりじゃないですよ。これからが

もっとみる

【中編小説】お母さんといっしょ 4

どすんとおちてぼよんぼよんとはずんでぼくはなにかの上にのっかっていた。それをさわってみるとぬめぬめと濡れていて、それに少し変なにおいがした。ぼくがいつまでもさわっているとそれは小さく震えた。ぼくはびっくりして「わっ」と声をだした。するとそれも「わっ」っと声をだした。

「あなたはだれですか?」

ぼくはおそるおそる聞いてみる。それはもう一度身体を揺らすと大きく息を吐いた。

「待っていましたよ。い

もっとみる

【中編小説】お母さんといっしょ 3

それは地震がきてからずっと経って、庭にツバキの花がさいてるときだった。

ぼくは地震のことなんて忘れてたし、アミも泣かなくなっていたし、ミミのなき声はいつものことだから気にしなくなっていた。

でもその夜はミミのなき声がしなくて、べつにそれを気にしていたわけではないんだけど、なんだか急に夜目が覚めて、目が覚めるとそれから眠れなくなって、ベッドのなかで目をあけたままじっとしていた。

夜はしずかでじ

もっとみる

【中編小説】お母さんといっしょ 2

お母さんがいなくなった次の年の春にトウホクで大きな地震があった。トウキョウにも地震がきて教室がたくさん揺れた。

僕は机の下隠れて友達と手を繋いでいたから大丈夫だったけど、アミは保育園でわんわん泣いたみたいだった。

学校がしばらくお休みになってぼくとアミは毎日テレビを見ていたけど、テレビはツナミの映像がずっと流れていて、それをみているとぼくはすごく怖くなった。

テレビの人は怖い顔をして話してい

もっとみる

【中編小説】お母さんといっしょ 1

 お母さんがいなくなったのはぼくの身長が庭の朝顔を追い越した夏だった。

お母さんはずっと病院に入院していて、でも僕の顔を見るといつもにっこり笑ってくれた。

僕はお母さんに「いつ家に帰ってくるの?」って毎日聞いていたけど、お母さんは「もうすぐね」って言ってまたにっこり笑った。

お母さんはぼくが行くと毎日笑った。毎日笑ってるから、ぼくも一緒になって笑った。妹のアミはお母さんが家に帰ってこなくて泣

もっとみる