【中編小説】お母さんといっしょ 2
お母さんがいなくなった次の年の春にトウホクで大きな地震があった。トウキョウにも地震がきて教室がたくさん揺れた。
僕は机の下隠れて友達と手を繋いでいたから大丈夫だったけど、アミは保育園でわんわん泣いたみたいだった。
学校がしばらくお休みになってぼくとアミは毎日テレビを見ていたけど、テレビはツナミの映像がずっと流れていて、それをみているとぼくはすごく怖くなった。
テレビの人は怖い顔をして話しているし、お父さんは「ツナミでたくさんの人が死んだんだよ」って言うから、ぼくは地震がくるたびにたくさんの人が死んでいくのだと思ってずっと怖かった。
アミは毎晩なくし、猫のミミもずっとないていた。
ぼくはみんな死んじゃうんだと思って、お母さんも死んじゃうときはきっとこんなに怖かったんだと思って、みんなが死んじゃうこととお母さんが死んじゃったことが一緒になってなんだかすごく怖くて、アミもなくしミミもなくし、ぼくは「ああ、きっとぼくも死んじゃうんだ」って思った。
死んじゃうんだって思うと、死んじゃったらどうなるんだろうって思って、お母さんに会えるのかなって思ったりするけど、でもやっぱり死ぬのは怖くて、「死にたくない、死にたくない」ってお父さんに言ったらお父さんがぼくとアミとミミをしっかり抱きしめてくれて「大丈夫、大丈夫」って言ってくれた。
お父さんの身体は大きかったし、きっと大丈夫って思ったけど、でもやっぱりお母さんにもいてほしかった。
ぼくはシキュウケイガンと地震が嫌いになった。
地震はしばらくしておさまって、ゲンパツっていうものがたいへんみたいだったけど、学校もはじまって、友達と遊んだり先生にしかられたりするうちにだんだん怖くなくなってきた。
アミはしばらくの間、夜起きて泣いていたけど、でもお父さんと一緒に寝るようになってから泣かなくなったし、保育園にもちゃんと行くようになった。
猫のミミだけが夜になっていつまでもないていて、そのなき声がなんだかかなしくてぼくは夜起きてミミのなきごえを聞くとお母さんを思い出してミミと一緒に泣いてしまう。
でも朝になったらないてなんかいないし、お父さんに「大丈夫か?」って聞かれても「大丈夫」って答えるし、学校にだって元気にちゃんといくようにした。
だってぼくはアミのおにいちゃんだし、アミにかっこ悪いところなんて見せられないし、友達にだって弱虫なんて言われたくないし、ぼくは一人前だってお母さんに言いたかった。ぼくはアミのおにいちゃんで、つよい男なんだってお母さんに思ってもらいたかった。
ぼくはつよい男だし、頭だってそんなに悪くない。でもこの話をするとみんなぼくのことを変な人だって言うからあまり人には言いたくないんだけど、でもこれはほんとうにおこったことだし、ぼくはそれがゲンジツだってずっと思ってる。ぼくのことを信じてくれるのはアミだけだけど、でもぼくはうそつきなんかじゃない。
ぼくはお母さんに会ったんだ。
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