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生物多様性をめぐる冒険

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生物多様性についての研究内容を紹介しています。
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記事一覧

生物多様性"見える化"アプリ

生物多様性"見える化"アプリ

沖縄は、生き物の豊かな地域です。しかし、自然界に暮らす野生生物の姿を、私たちが認識するのは、なかなか難しいです。そういう、人知れない状況で、多くの生き物たちが人間活動によって消失しています。生物多様性の消失、つまり”自然資本”の劣化に伴う経済的な損失を、私たちは気づかない間に被りつつあるのです。

沖縄の自然の豊かさを未来に受け継いでいくアクションを起こすためには、多くの人たちが生物多様性の価値を

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ジュゴンズアイ(DugongsAI)の使い方

ジュゴンズアイ(DugongsAI)の使い方

皆さん、「地図」を初めてみた時のことを覚えているでしょうか。山や川や平野など、地形の特徴を表した地図は、標高が高いところは茶色、標高が低いところは緑色で表示されています。日本の地形図を見ると、「日本の内陸の多くは茶色で、緑色の平地はわずかで、日本は山の多い国なんだな〜」ということが、直感的にわかるわけです。地図帳を見ながら、各地の自然に思いを馳せて、旅する気分を味わった人は多いのではないでしょうか

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西表島の亜熱帯林の森林調査の様子

2020年の10月から12月にかけて実施した西表島の森林調査の様子を、ナレーション付きで紹介した動画です。

関連文献:この調査地の研究で発表した論文一覧

Maeshiro R., Kusumoto B., Fujii S., Shiono T. & Kubota Y. (2013) Using tree functional diversity to evaluate management i
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日本全土の樹木種の個体数:約1200種で約210億本!

日本全土の樹木種の個体数:約1200種で約210億本!

生物の個体数を把握することは、生物多様性の起源と維持の仕組みを理解する上で基本的なことです。また、生物多様性の保全計画でも、種個体数は必須の情報です。

しかし、野生生物の個体数を数え上げることは、実際には(一般の人々が想像する以上に)とても難しいのです。

私たち生態学研究者にできることは、ある調査区を設置して、調査区内の個体数を数え上げることくらいでした。まして、日本全土にわたって生物種の個体

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サンゴ礁の生物多様性ホットスポットを探せ!

サンゴ礁の生物多様性ホットスポットを探せ!

私たちの研究チームは、サンゴ礁生物多様性の保全計画を分析しています。

まずは、サンゴ礁の基盤を造っているイシサンゴ類の種多様性の分布を把握することから、研究をスタートしました。

前の記事で解説したように、イシサンゴの種分布は、海洋保護区(MPA: marine protected areas)を設計するときの基本情報になりますから。

先日、私たちはサンゴ礁の種多様性に関する2つの論文を発表し

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日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  保全重要地域を把握するための分析

日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  保全重要地域を把握するための分析

生物多様性の国家戦略や地域戦略に基づいて、日本の生物多様性を保全するには、どこにどのような生物が分布しているのか、正確に把握する必要があります。

生物の分布情報の整備各種の分布記録を網羅的に収集して分布データを編集して、種の分布地図を作成します。生物の分布記録は、学術論文・標本・調査報告書・地域の生物誌など様々な媒体に記載されています。さらに、国の行政機関が実施した生物分布に関するセンサス記録も

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日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  動物編

日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  動物編

前記事の植物の種多様性地図に続いて、今回は動物編です。

日本の脊椎動物の種数日本の哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類などの脊椎動物の種数は、以下の通りです。植物と同じように、動物もかなりの割合が日本だけに分布する固有種です。

哺乳類の種数 101種 (日本固有種 46種)                鳥類の種数 337種 (日本固有種 12種)
爬虫類の種数 73種 (日本固有種 45種

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日本の生物多様性の”実際の分布”を予測する

日本の生物多様性の”実際の分布”を予測する

生物分布モデル(生息適地モデル)に関する図書を翻訳しました。

この図書は、生態学的ニッチに基づいた生息適地モデルの構築、評価および予測に関する分析手順を解説しています。「どこにどのような生物や生態系が分布しているのか?」把握することは、生態学の基本的な問いです。ですので、生息適地モデルは便利な分析ツールです。また、地球温暖化や生息地改変による生物分布の変化や、各種の分布予測を重ね合わせて生物多様

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生物多様性の恩恵:民族植物学情報で生態系サービスを可視化

生物多様性の恩恵:民族植物学情報で生態系サービスを可視化

生物多様性保全の重要性を、一般の人たちに理解してもらいたいときに、生物多様性の経済的な価値(自然資本としての価値)を理由にすることがあります。

人間社会にとって生物多様性は重要な資源を供給してくれる、という説明です。

しかし、このような説明は、環境問題に懐疑的な人たちに批判されることもあります。人類が実際に利用している生物資源は、地球全体の生物多様性のごく一部に過ぎない、という反論。

ですの

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日本の魚類多様性を魚釣り情報で地図化する(アングラーズサイエンスの可能性)

日本の魚類多様性を魚釣り情報で地図化する(アングラーズサイエンスの可能性)

日本は海洋生物多様性ホットスポット日本の領海は海洋生物多様性のホットスポットとして知られています。

しかし、海の生物多様性の地理的パターンは十分に分析されていません。海洋生物多様性パターンの把握は、海洋保護区の配置デザインを検討する場合の基本になります。

日本の魚類多様性を地図化する
そこで、私の研究室では、日本領海に生息する魚類3193種について約35万件の分布情報を収集し、沿岸魚種の分布の

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世界自然遺産登録候補地 奄美・沖縄の森: 生物多様性保全を考慮した森林生態系管理

世界自然遺産登録候補地 奄美・沖縄の森: 生物多様性保全を考慮した森林生態系管理

世界自然遺産登録に向けて
IUCN(国際自然保護連合)による現地視察が終わり、琉球諸島の奄美大島・徳之島・沖縄島北部(ヤンバル)・西表島の世界自然遺産の登録へ向けた活動が、大詰めを迎えています。

私も世界自然遺産登録に関する科学委員会のメンバーで、奄美の国立公園指定関連の委員会から含めて、10年以上の関わりになります。環境省「背水の陣で臨んでいる」とのことなので、来年には世界自然遺産登録が成功す

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西表島の森林生態系調査の様子

先週は、西表島で1週間の森林調査でした。

モニタリングサイト1000(通称モニセン)と呼ばれている、環境省のプロジェクトがあります。

http://www.biodic.go.jp/moni1000/moni...

日本各地の森林生態系を長期観測して、気候変動に関係した生態系や生物多様性の変動を察知するのが目的です。

世界自然遺産に登録される予定の西表島の亜熱帯林も、今年から長期観測サイト
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イリオモテヤマネコ:その偶然と必然

イリオモテヤマネコ:その偶然と必然

西表島は、ネコ科の動物が生息する島として、世界で最小の島です。以下のグラフに示したように、ネコ科の種のほとんどは、大陸に分布しています。グラフの横軸はネコ科の各種の体の大きさ(体重)で、縦軸は各種が生息している面積です。

イリオモテヤマネコは、ネコ科の中も体重が小さくて、小さな島に分布していることがわかります。ちなみに、トラはかつてバリ島にも生息していたのですが、バリ島のトラは、今では絶滅してし

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