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Good bye, FILM さよなら、フィルム

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写真と被写体にまつわる思考、風景標本。
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さよなら、フィルム

さよなら、フィルム

Good bye, film #1

のっけから身も蓋もないことを言うのだが、もうそれほど写真には関心がない。
いや、もう少し正確に言うと、自己表現の手段としての写真に興味が失せたのだ。
2021年の今日、写真の在り方は、すでにそんなところには無いような気がしてならない。写真というものが、個人の手からどんどん離れていくのを感じる。

世界は、確実に「非物質化」の方向へと進んでいる。
そんな流れの

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写真と意識と芸術について

写真と意識と芸術について

Good bye, film #6

今回は写真論のようなものです。少し古いですが、2021年のメモをもとにして、当時、頭の中にあったものを書きます。

・ ・ ・

一口に写真と言っても、報道写真や商業写真、記録写真と、さまざまな用途やジャンルがますが、私は「表現写真」を学んでいた時期があります。
表現写真とは、作品、いわゆるアートとしての写真を指すものです。もっとも、写真には本質的な多面性

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佐渡 ③

佐渡 ③

Good bye, FILM #5

2016.8

降り続いていた雨がようやく止んだ朝、松林を抜けて海岸へと出る。
青い夏の空。ゆるい弧を描く遠浅の浜に穏やかな波。夏の太陽はすでに高く、水面に無数の光を反射させている。波打ち際にたむろしているウミネコを追って、湿り気を帯びた重い砂を踏み桟橋まで歩く。
ここは湾の最深部で、小さな木の桟橋から眺めると、左右にせり出す陸地の中央に外海が開けている。下

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佐渡②

佐渡②

Good bye, FILM #4

森 2014.8 

峠の手前で小さな標識をたよりに横道の林道に入って、しばらく進んだ先の行き止まりのスペースに車を留め、明るい木漏れ日のブナの森の奥に続く土手を登ると、だしぬけに池が現れた。

標高1000メートルの森の空気はひんやりとして辺りは静寂。すぐそこまで車で入って来れるのが信じがたい。
10分もあれば一周することができる小さな池で、池の上空には周囲

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佐渡 ①

佐渡 ①

Good bye, FILM #3

かつての一番好きな遊びは散歩で、近所でも旅先でも、とくに何でもない場所を、ひとり気まぐれに歩くのを好んでいました。散歩をすることは一種のエスケープで、仕事や何やらに行き詰ったときのちょっとした気分転換といったことの他にも、散歩は、もっと根本的なものからの逃避する行為として、僕の拠り所になっていたのです。

その頃の僕は、現代の高度資本主義社会への強い絶望感

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ベタ焼き

ベタ焼き

Good bye, FILM # 2

前回書いたようなわけで、過去にネガフィルムで撮った写真を見返していたのだが、そんな中で改めて感じたコンタクトプリントの魅力について。

タイトルのサムネイルに使った画像は、写真の勉強をはじめて間もない頃の、写真教室の暗室に通い詰めてひたすらモノクロを焼いていた頃のものだ。
現像したフィルムからベタ焼きと呼ばれるコンタクトプリントをとるのは、結構面倒な

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