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一分で読めるタクシーエピソード『タクシードライバーは見た』

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ヨナシロがタクシー運転手として乗務している時に見た、聞いたお客様のエピソードや出来事を書いています。 ちょっとクスッとできる話や、タクシーから見た世の中の話、 は?というどうでも…
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#タクシーエッセイ

#タクシードライバーは見た「銀座に入ると気性が変わる男」

#タクシードライバーは見た「銀座に入ると気性が変わる男」

銀座という街は、朝から夜まで様々な顔を見せる。

ファストファッションのお店が建ち並べば、
高級店も建ち並ぶ。
観光地かと思いきや、日本最大の繁華街でもある。

そんな場所へお送りしたり、お乗せするお客様も様々。

ある日お乗せしたのは、50代ほどの男性。

気のいい、ハキハキとした口調で
行き先を
「銀座まで、お願いします」
と申してきた。

年下と分かる私にも敬語で話す。

歩いて5分ほどの距

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#タクシードライバーは見た「もう、一息」

#タクシードライバーは見た「もう、一息」

もう一息だったのに。
タクシーは手を上げれば乗せなければならないという仕組み上、どうしても納得できない瞬間が出てくる。
回送であれば最悪言い訳がつくが、空車で目も合っているのに乗せないとなるのは乗車拒否になってしまう。
やむなく乗せるのだが、それがタイミングによっては怒りのような悲しみのような表現しようのない感情が押し寄せる。

夜の銀座は大人の街だ。
飲み屋街が軒を連ね、22時から日を跨ぐくらい

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#タクシードライバーは見た「もう、一息 中編」

#タクシードライバーは見た「もう、一息 中編」

一息というのは非常に便利なものだ。
心の乱れを治めてくれるし、緊張をほぐすことが出来る。
銀座で乗り場までもう一息だったところで乗せた女性には怒りと悲しみと驚きと愉快な気持ちと代わる代わる楽しませてもらった。

女性が乗って来たのは、銀座の1号乗り場という比較的良質な乗り場につく5台前だ。
時間にするとあと2,3分もあれば乗り場に到着する。
銀座地区の乗車禁止時間帯が過ぎ、お客様である女性はどこで

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#タクシードライバーは見た「もう、一息 後編」

#タクシードライバーは見た「もう、一息 後編」

最後まで一息だった。
銀座の優良乗り場に並んだ僕はお客様が行列し長距離のお客様を乗せるかもしれない乗り場までもう一息のところだった。
そこから離脱させられたことで生まれた雑念を払うためにも一息、深めに呼吸をした。

乗り場に並ぶところから離脱させられ、向かうのは晴海。
銀座からは2,000円ほどの場所。
その金額は悪くも良くもない。強いていうならば長距離の可能性があった乗り場に比べると悪い方にあた

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#タクシードライバーは見た「サプライズの結末はサプライズ」

#タクシードライバーは見た「サプライズの結末はサプライズ」

サプライズだと気づいた。
クリスマス前の日曜日、街には人が溢れている。
平日より休日にお乗せするお客様は穏やかだが、クリスマス前となると心が弾んでいるように見える。
そんな人たちを見て、乗せているだけでも楽しい。
これはサプライズをしようとしている男性とその彼女をお乗せした時の話。

青々としたイルミネーションが輝いている。
綺麗だが何度も見ると主張し過ぎの青い圧を感じてしまうその場所は、渋谷区の

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#タクシードライバーは見た「嘔吐くおっちゃん」

#タクシードライバーは見た「嘔吐くおっちゃん」

おっちゃんが好き。
変な意味ではなく、人間が好きみたいな意味で好き。
人間が好きっていうのもちょっと癪に障る表現だが、どういうことかというと、例えばこちらが挨拶しても無視される暗めのおっちゃんがいたとして通常なら「いい歳してあのおっさん挨拶もできないのか」となるのが普通かもしれない。でもその一回で嫌いになったり蔑んだりすることはく、相手を理解することにしている。
その挨拶しないおっさんは、挨拶をし

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#タクシードライバーは見た「右と左という大量の選択肢」

#タクシードライバーは見た「右と左という大量の選択肢」

右と左が分からなければタクシー運転手は務まらない。
それどころか日常にも支障をきたすだろう。
右と左、前と後、表と裏、一般常識のような誰もが分かるこの対称は時として非常に厄介になる。
右と左が分かるからこそ、タクシー運転手の仕事は難しい。

浅草駅に向かう老夫婦をお乗せした。
特に難しい道ではなく、難なく浅草駅の付近まで来るがそこからが問題だった。

―――お客様~お止めする場所は浅草駅の方でよろ

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#タクシードライバーは見た「暦の上ではオオミソカー」

#タクシードライバーは見た「暦の上ではオオミソカー」

もし暦が無かったらどうなっていたんだろう。
そんなことを思いながら大晦日の東京を走っていた。
2019年12月31日。暦の上ではそう記されているから年の瀬、年明けなんて言われたりするが実際、時間自体は普段と変わらない速さと間隔で動いていて、変わっているのは暦によって動いている人間の行動だけ。
気温だって、少々温かかったが冬の一日。
太陽も昨日と今日はほんの少しのズレはあるけど同じ位置で同じ時間帯に

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#タクシードライバーは見た「年越しそばと年明けうどん」

#タクシードライバーは見た「年越しそばと年明けうどん」

今日以外並んでるのを見たことがない。
そんなお蕎麦屋さんの行列を目にしながら大晦日の都内を走っていた。
そのとき、皮肉にも思ってしまった。
「この定番の文化、風習っていいよな」

毎日のように都内を走っていても一度も見たことない行列を大晦日だけ作っていた。
一応、老舗のお蕎麦屋さん。
お蕎麦屋さんからすると、繁盛して有難い反面忙しくて本音は嬉しくないところもあるのだろうか。
そんなことを思いながら

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#タクシードライバーは見た「途切れた記憶」

#タクシードライバーは見た「途切れた記憶」

連なっている一本のテープが所々切り取られたかのように抜け落ち、
ここまで続いている。
この仕事をしているときに感じた不思議で恐ろしい出来事。

怖くなった僕は、会社で先輩運転手たちに聞いた。
「ああ、あるよ俺も」
「俺もさ~」
と、みんな同じ体験をしている。
口を揃えて言うのが、予想できないということ。
僕もそうだった。

走り慣れた道をお客様をお乗せしたまま目的地に向かう。
深夜のことだ。
テッ

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#タクシードライバーは見た「普通じゃないお仕事」

#タクシードライバーは見た「普通じゃないお仕事」

「俺からは逃げられないけどな」
これを言われた時がマジで怖かったと話す後ろの男達は三軒茶屋で乗って来た。
深夜2時ころ、見た目厳つい二人の男性。
1人はカジュアルで1人はスーツを着崩している。飲んだあと、またもう一軒行くようだったが、それまでの車内では何やら普通じゃないお仕事のお話をしていた。

「あ、運転手さん、沖縄じゃん」
ヨナシロという名前を見てすぐ気付く。
「そうです、あ、お客様コースは下

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#タクシードライバーは見た「渋谷の場外乱闘!」

#タクシードライバーは見た「渋谷の場外乱闘!」

男性が上着を脱いでいた。渋谷区某所の線路沿い、フェンスの前に立ち上着を脱ぐと、次はパンツを脱いだ。
中に来ているのは薄い茶色のつなぎで、上に来ていたジャージを全て脱ぎ切ると一礼した。
―――ん. . . . 。
なんとなくの違和感だが、その辺りには工事している場所も草刈りの作業も見当たらない。
なぜジャージをその場所で脱いだのかが分からなかった。
年齢は60を超えた白髪まじりの癖っ毛が爆発している

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#タクシードライバーは見た「足りない」

#タクシードライバーは見た「足りない」

「おお、そういえば、ゴルフ部が沖縄行くんだってよ」
会社の先輩運転手と話した。
先輩といってももう60を過ぎるおじちゃん。
頻繁に会う訳ではないが、会うたびにいつも笑っていて「おお!」と言って会話をする。
今回は沖縄に行くと言う話がでた。
きっと僕が沖縄出身というのがあるのだろう。

「ゴルフ部が沖縄行くんだってよ」
「へー!そうなんすね!」
「ビックリしたけど今は沖縄行くのも安いんだな~」
「そ

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#タクシードライバーは見た「世界」

#タクシードライバーは見た「世界」

あ、世界中の人たちを楽しませられるかもしれない。
そんなことを思った。風景を見た。
何を言うんだと思うかもしれないが、だんだんと骨組みが見えてきているし、タクシーの面白い部分はある。
タクシーは日本だけでなく世界に存在しているし、みんな共通して知っている。
ぼったくりとか、悪いイメージがついているのが少しやっかいだけど. . . 。

タクシーエピソードも、フォースプレイスも、
写真も、絵本も、漫

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