_タクシードライバーは見た__60歳を越えたタクシー運転手の幸せな働き方_のコピー__56_

#タクシードライバーは見た「もう、一息」

もう一息だったのに。
タクシーは手を上げれば乗せなければならないという仕組み上、どうしても納得できない瞬間が出てくる。
回送であれば最悪言い訳がつくが、空車で目も合っているのに乗せないとなるのは乗車拒否になってしまう。
やむなく乗せるのだが、それがタイミングによっては怒りのような悲しみのような表現しようのない感情が押し寄せる。

夜の銀座は大人の街だ。
飲み屋街が軒を連ね、22時から日を跨ぐくらいまでの時間はタクシーを利用する客も多い。
そのため22時から1時までは所定の乗り場以外で客を乗せることが禁止されている。
乗り場規制される前はタクシーが入り乱れてしまう過去があったらしく、その写真を見せてもらったこともあるが本当に凄かった。
そんな銀座で、乗車禁止時間を過ぎるころに1号乗り場と言う銀座屈指の乗り場のタクシーの列に並んでいた。
既に乗車禁止とされる時間の1時は過ぎていたが、その日の人の出や、並んでいる台数によって並ぶかどうかを決める。並ぶ方を選択した。
乗車禁止時間が過ぎているということは、お客様はどこで乗っても良い、タクシー側は乗せても良いということになる。
禁止時間が明けたことで銀座に入ってくる空車タクシーが多いが、それに乗っても良いし、乗り場に並んでも良い。

1時を過ぎ、乗り場には50人以上の列があるなか、ちょうど乗り場まで5,6台となった。
どこでも乗せれる時間とはいえ、出来れば乗り場で乗せたいためにしていた回送表示を空車に戻す。
銀座からはチケットを利用する方もいるため長距離が期待できる。
僕はそれを期待していた。
ーーーーさあ、どこまで連れて行ってくれるだろう。
くじ引きの当たりを期待するような感覚で乗り場に近付くが、ちょうどその手前の信号で待っている頃、二人の女性が右から左に僕の目の前のタクシーに向かって渡ってくるのが見えた。
銀座で乗せる女性は、絶対とは言えないが長距離は期待できない。
乗車禁止時間であれば乗せられない旨を伝えることも出来るが、今はどこで乗っても良い時間だ。
そのお客様をお乗せすると並んだ先で長距離のお客様がいるかもしれないのに離脱させられる。
生憎、女性はタクシーに乗って帰るらしく目の前のタクシーが乗せることになった。


ーーーー気の毒だ。
 . . . . . なんて思っているのも束の間、二人の内一人は目の前のタクシー、そして別れたもう一人が後ろへと歩みを始める。

ーーーーゲッ!!ヤバイ!!!
確実にこちらに向かってきている。目線も合わせに来ている。
本音を言えば、乗せたくない。
見ていないフリをしていたが真横まで来て手を上げた。
ーーーーチクショー!!!
心の中では苦虫を練り潰す勢いで噛んでいるが表情は出迎える。
悔しいが一分前に空車表示に変えてしまっていた。
女性も空車だと気付いたうえでこちらに向かっていたため、急な表示変更も言い逃れも出来ない。
泥酔の様子もなく拒否も出来ない。
目の前のタクシーと共に、僕は乗り場到達の5台で長距離の可能性が低い傾向のある女性客をお乗せしてしまった。

もう一息だったのに。。。


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