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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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#戦争

『「戦火のなかの子どもたち」物語』(松本猛著・いわさきちひろ絵・岩崎書店)

『「戦火のなかの子どもたち」物語』(松本猛著・いわさきちひろ絵・岩崎書店)

これは絵本「戦火のなかの子どもたち」にまつわるエピソードを綴った本である。その絵本についても、私はこのような場所でご紹介しようかと考えていたが、この「物語」に触れることで、絵本のことはお知らせできると考え、この場で一緒にお伝えすることにした。
 
絵本のほうは、もちろん、いわさきちひろ作である。同じ岩崎書店から刊行されており、1973年9月に第一刷発行となっている。大判の絵本であり、1989年の第

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『戦争と平和 田中美知太郎 政治・哲学論集』(田中美知太郎・中公文庫)

『戦争と平和 田中美知太郎 政治・哲学論集』(田中美知太郎・中公文庫)

京都の大学に行きたかったのは、哲学の都だと思ったからだった。そして、田中美知太郎先生への憧れがあったからでもある。プラトンを第一とする予定はなかったが、その研究には、よく分からないまでも、しびれるような感覚を覚えていた。
 
2024年になって、その田中美知太郎の本が出る、という知らせは、私を戸惑わせた。なぜ、いま田中美知太郎なのだろうか。それも、講談社学術文庫ではない。中公文庫からだ。哲学の方面

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『戦争語彙集』(オスタップ・スリヴィンスキー:ロバート・キャンベル訳著)

『戦争語彙集』(オスタップ・スリヴィンスキー:ロバート・キャンベル訳著)

ウクライナがロシアから攻撃を受け始めたのが2022年2月24日。もちろん紛争そのものはずっとあったのだが、大規模な攻撃が、理不尽に開始したというふうに世界は理解した。本書の日本語訳の発行は、それから1年10か月後となる。
 
日本文学者としての訳者は、メディアでもおなじみの人であり、アメリカ出身ではあるが、日本文学についてこの人よりもよく知る日本人は稀有であると言えるであろう。2023年2月、彼は

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『川滝少年のスケッチブック』(小手毬るい・川瀧喜正絵・講談社)

『川滝少年のスケッチブック』(小手毬るい・川瀧喜正絵・講談社)

表紙のイラストが、この「スケッチブック」の一例である。
 
小手毬るい氏は、多くの文芸書を出しているが、とくに児童文学の分野では大きな役割を果たしているものと見える。確か猫がお好きだったはずだ。
 
ツイッターで時折これらの絵を公開していたらしい。それらが評判になり、ここに1冊のストーリーを交えた作品となった。自身を重ねた校正で、語り手は中学生の少年としている。母親と共にアメリカで暮らしているが、

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『戦争と学院』(下園知弥+山本恵梨編・西南学院大学博物館)

『戦争と学院』(下園知弥+山本恵梨編・西南学院大学博物館)

戦時下を生き抜いた福岡のキリスト教主義学校――そのサブタイトルがタイトルの下に並び、トップには、西南大学博物館研究叢書、と掲げられている。西南カラー(テレベルト・グリーン:百道浜の松の緑と青春そして自由を象徴する)の表紙に、その色合いに収められた、モノクロの写真がある。迷彩状に塗られたロウ記念講堂である。西南女学院である。
 
本書とその企画展が成立したきっかけは、2016年の「創立百周年」のとき

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『神の国』

『神の国』

アウグスティヌスの『神の国』を読み始めた。ふと、読みたくなったのだ。あまりにも高価だと手が出ないし、大きな本の塊の購入は、家族に叱られる。これは五巻あるが、文庫本である。お許しを戴こう。古いものなので、定価よりも安く手に入るものが多い。第一巻は、少し質の悪いものしか買えなかったが、読むのには何も差し支えない。
 
これが、なかなか面白いのだ。ドイツ観念論や現代フランス哲学と比べると、あまり深く考え

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『戦争における「人殺し」の心理学』(デーヴ・グロスマン著・安原和見訳・ちくま学芸文庫)

『戦争における「人殺し」の心理学』(デーヴ・グロスマン著・安原和見訳・ちくま学芸文庫)

カントの誕生から今日で298年。その『永遠平和のために』が、NHKの「100分de名著」で取り上げられたのが2016年。それが2022年の、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、4月に一挙再放送となった。
 
カントは、理想的な国家関係を、道徳原理を踏まえた中で提言した。これが後の国際連盟、今の国際連合の理念的根拠となったことは有名である。だが私は、国家関係というよりも、人間個人の心理において、戦争

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『シャローム・ジャスティス』(ペリー・B・ヨーダー:河野克也・上村泰子共訳:いのちのことば社)

『シャローム・ジャスティス』(ペリー・B・ヨーダー:河野克也・上村泰子共訳:いのちのことば社)

題が内容のすべてを表すようなものである。「シャローム」というのは旧約聖書の原語であると言ってよいヘブライ語で「平和・平安」、「ジャスティス」は英語の「正義」というところだろう。これらが一体化するものであるというのが、本書が一貫して主張するところである。それが、理論的概念的に展開するというのではなく、副題にある「聖書の救いと平和」とあるように、聖書の理解という意味で説かれるのが特徴であると言えるし、

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