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台湾ひとり研究室:取材メモ

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各マガジンには入らないけれども、台湾ルポライターとして見聞きした取材メモをお届けします。
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台湾ひとり研究室:取材メモ「星のやグーグァンで触れる台湾タイヤル族の今。」

台湾ひとり研究室:取材メモ「星のやグーグァンで触れる台湾タイヤル族の今。」

星のやグーグァンのある場所

高鐡台中駅から星のやグーグァンに向かう道のりで、これまでの訪問で見逃していたことに気づきました。それは、これまで星のやグーグァン自体への興味が中心だったのに対し、星のやグーグァンを取り巻くエリアに目が向きました。

グーグァンは星のやのある場所の地名で、中国語で「谷關」と書きます。台湾を縦に走る中央山脈と雪山山脈の間を流れる「大甲溪」の中間あたりに位置します。東には地

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDF2024で、個人的には最後の鑑賞作品となったのが、この《平行世界》である。

いわゆる映画祭でがっつり参加したことがあるのはTIDFと山形で、あとはドキュメンタリー作品だけ見て全体のスケジュールを把握しようとしたことがないのでよく知らないのだけれど、その2つの映画祭では、最終日に受賞作が一気に上映される。その最終日に本作を観る機会を得た。

フランス人夫の間に

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

はじめて鑑賞中に目を閉じた。観ていられなかった。「しっかり観ろ」と迫りくる映像に抗うには、それしかなかった。

本作は、昨年の映画アワード「金馬賞」でドキュメンタリー部門の最優秀賞を獲得した1本。

2017年8月31日、川べりに集まっていた人たちのもとに、パトカーに乗った複数の警官がやってきた。彼らは全員、外国人労働者で、不法滞在だった。ベトナム出身の阮國非は、タイトルにあるように「9発」の実弾

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された藤野知明監督の「どうすればよかったか?」 は、今回見た中でもTIDF2024の個人的衝撃作となった1本である。監督からは、今年の冬に日本で劇場公開予定だと伺ったので、以下、ネタバレしない形で紹介していきたい。

1983年、姉が統合失調症を発症した。医者であり、医学の基礎研究に携わる両親の下、家族はどんな25年を過ごしてきたのか。予告映像だけ

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

小田香《GAMA》
ー同時代の情景部門ノミネート作品

第二次大戦時、日本で唯一、上陸戦が行われたのが沖縄だ。隠れ場所になった洞窟では集団自殺になったものもあった。本作では、当時を伝える語り部、松永光雄さんの語りを中心に、洞窟での語り、遺骨収集の姿を伝える。沖縄で「ガマ」と呼ばれる洞窟は、いわゆる本土の防空壕とは違って、自然にできたものだそう。松永さんの語る声、水滴の落ちる音、海辺で珊瑚のカケラが

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

「これまで、台湾人に戦争責任はない、当時はともかく今の世代に戦争責任はない、という言い方を聞いてきました。けれども、私たちには、少なくとも次の世代に何があったかを伝える責任、何をどう伝えるかを決める責任はあるはずだ、と考えています」

290分という超長尺の上映時間を終え、あいさつに立った廖克發監督は、ほとばしるように、そう口にした。本作のテーマは「戦争の記憶とその継承」である。

「ある日、息子

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

今週15日、クローズアップ現代で「ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま」が放送された。アウン・サン・スーチー氏が政権を握り、2010年代中盤からの民主化が軍によるクーデターで一気に暗転したのは2021年、3年前のことだ。民主化を求めて行動する映画監督によって撮影され、先月日本で公開されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』を軸に、ミャンマーの現状を伝える内容だった。

5/10か

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台湾ひとり研究室:映像編「イチ推し映画祭TIDFがチケット販売開始。」

台湾ひとり研究室:映像編「イチ推し映画祭TIDFがチケット販売開始。」

5/10-19開催の台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)で会員向けのチケット販売が4/17からスタートしました。

オープニングは4/3に逝去した写真家・張照堂監督の「紀念.陳達」。台湾月琴の名手として知られた陳達(1906-1981)の姿を収めた作品。今回、個人的に大注目の1本です。

陳達の曲を初めて聴いたのは、去年。夜の中正紀念堂で行われたダンスパフォーマンスのBGMとして流れる曲に、

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台湾ひとり研究室:取材メモ編「台湾、ペットIDをスタート。」

台湾ひとり研究室:取材メモ編「台湾、ペットIDをスタート。」

4月10日、ペットの日(4/11)にあわせる形で、台湾農業部(農産省に相当)が記者会見を行い、今後、犬と猫のID登録制を設けると同時に、専用サイトの設置を発表しました。

2017年にペットの殺処分ゼロに踏み切った台湾では、近年も特に猫を飼う人が増加。2021年には台湾に密輸された250匹の猫が殺処分される事件が起きました。フランスでは動物の生体販売禁止になりましたが、台湾では今も販売が続けられる

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台湾ひとり研究室:取材メモ編「求めるのは尊厳。——国際女性デー「学校における月経をめぐるヘルスプロモーション」

台湾ひとり研究室:取材メモ編「求めるのは尊厳。——国際女性デー「学校における月経をめぐるヘルスプロモーション」

2024年3月9日、国際女性デーにちなんだシンポジウムが大阪大学佐治敬三メモリアルホールで行われた。タイトルは「学校における月経をめぐるヘルスプロモーション」である。幸いなことに、オンライン配信も行うのでいかがですか、とお声がけいただき、参加した。

取材によるご縁から訪問団来台へ。

今回のシンポジウムを主催した大阪大学の杉田映理さんとは、台湾にできた月経博物館に関連して日本の状況について伺う取

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台湾ひとり研究室:取材メモ編「台北国際ブックフェア、大盛況で閉幕。」

台湾ひとり研究室:取材メモ編「台北国際ブックフェア、大盛況で閉幕。」

2024/2/20-25に開催された「台北国際ブックフェア」、最終日にようやく会場へ行ってきました。

週末で、とにかく人、人、また人! ここは東京かと思うくらいの人出と熱気を感じました。公式発表によれば参加者数はのべ55万人! 1日あたり約9.2万人が参加した計算。多いと思った!

ひと言でいうなれば「本にはまだまだ希望がある」と感じられました。さまざまな試みがなされていたので、ざっとピックアッ

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台湾ひとり研究室:本屋篇「佐々涼子著『夜明けを待つ』に見る絶望と希望のあいだ。」

台湾ひとり研究室:本屋篇「佐々涼子著『夜明けを待つ』に見る絶望と希望のあいだ。」

静かな、とても静かな、佇まいをしていた。1冊をひと言で表してしまうのは、なんだか失礼な気もして躊躇われるのだけれど、その気持ちをぐっと抑えると「静謐」という言葉がすっと立ち上がっていた。とはいえ、ただの静けさではない。真正面から生と死を見つめ、四つを組み、闘いを繰り返してきた人だけが持つ——奥に炎の見える静けさだ。

今は「エモい」文章が喜ばれるという。エモい、といわれても、すっかりピンとこない世

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台湾ひとり研究室:取材メモ「星野リゾートの会見で感じた訪日インバウンド布石の重要さ。」

台湾ひとり研究室:取材メモ「星野リゾートの会見で感じた訪日インバウンド布石の重要さ。」

4年ぶりに開催されたプレス発表

「コロナ前は毎年開催していたんですが、今回、4年ぶりなんです」

こんなふうに再開の喜びを語ってくれたのは、星野リゾートグローバルマーケティングユニットディレクターの佐藤亜沙子さんだ。聞けば、コロナ前まで、毎年、プレス発表を行っていたという。

ようやく合点がいった。というのも、星野リゾートは台湾で圧倒的な認知を誇る。海外利用者数の中でも、台湾はトップ顧客なのだそ

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台湾ひとり研究室:取材メモ「伝説のパフォーマンスに触れた夜」

台湾ひとり研究室:取材メモ「伝説のパフォーマンスに触れた夜」

日本のゴールデンウィークほどではないけれど、メーデーで3連休だったこの週末、舞台を見て「3回泣いた」という大学院の同学に連れられて、夜の中正紀念堂に行ってきました。

その舞台とは、創設50周年の舞踏集団「雲門舞集」による記念公演「薪傳」。20年ぶりの上演となった「薪傳」を、夜の中正紀念堂でナイトシアターとして無料鑑賞!という贅沢な時間でした。昼間に来たことはあったけれども、夜の中正紀念堂というの

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