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僕らを繋ぎ合わせたもの

 二十世紀最後の十二月二十四日、当時小学生だった僕がクリスマスプレゼントとして両親にねだったもの。それは「RPGツクール4」であった。

 RPGツクール4とは平成十二年十二月七日にエンターブレインから発売された、ツクールシリーズの四作目に当たる作品であり、その名のとおりロールプレイングゲームを作ることをコンセプトとした初代プレステ用ソフトである。

 ゲーム雑誌 (おそらくファミ通であろう) でこの作品の存在を知った僕は、ページに穴が空くのではないかというくらい特集記事を凝視、端から端まで隈なく読み込んだ。

 まさかこの手で一からRPGを制作することができるだなんて……。

 そこはかとない身体の火照りと共に思いながら僕は、ソフト購入前からいっちょまえにゲームタイトルやシナリオを考案し、来るクリスマスイブを今か今かと待ち望んだ。

  十一月某日。

「俺、今年のクリスマスプレゼントはRPGツクール4をお願いしたんだ!」

 石油ストーブの匂い立ち込める昼休みの教室。その一角にて、数人のジャリボーイらを前に女子生徒のようなハイトーンボイスでもって断言したのは僕――ではなく、クラスメイトのワタルであった。

 ワタルはバスケ部所属のジャニーズ系色白イケメンであり、スポーツ万能、そのうえ成績優秀といった、まさにチートキャラのような奴だった。スクールカーストはもちろん頂点。

 片や自分はというと、何もかもが中途半端なスクールカースト万年二番手。初代ポケモン百五十一匹全てを図鑑順に丸暗記していることくらいしか誇れるものがない、なんの面白味もないボンクラ児童だった。

 そんな月とすっぽんの二人に特筆できるような共通項は見当たらず、ゆえにこの先、僕らがクラスメイトという関係性以上の繋がりを持つことはまずないだろうと思っていた。そう、思っていたのだが、しかしワタルが構想中だという作品のタイトルを知った瞬間から僕は、彼を同胞として認識し始めるようになる。

「タイトルは……ファイナル・クエスト!」

 直後、え!? と心の中で、期せずして声が漏れた。驚き過ぎて自慢のサラツヤおかっぱヘアがスーパーサイヤ人よろしく逆立ち、同時に三・五センチメートルほど身体が宙に浮かび上がった。何を隠そう、僕が密かに考えていたツク4作品のタイトルも「ファイナル・クエスト」だったのだ。

 ファイナル・クエスト――言わずもがな、RPGの二大巨頭「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」をかけ合わせたタイトルである。百人中九十九人のツクールユーザーがまず真っ先に思いつきそうな安直過ぎるタイトルではあるが、当時の僕ときたら、言うなればワタルに運命めいたものを感じ取ってしまったのである。

 その日を境に僕は、ワタルと積極的に関わるようになった。休み時間ともなればツク4や流行りのカードゲームの話題に興じ、たまの休日にはお互いの自宅や近所の街区公園などで一緒に遊ぶようになった。

「ツクールでゲームを完成させたら、お互いの作品をプレイし合おうぜ」

 ワタルが白い吐息と共に提案したのは、クリスマスもあと数日後に差し迫った、とある放課後のことだった。もちろん、断る理由など露ほども見つからない。僕は、彼の言葉に二つ返事で頷く。

 翌年。街の至るところで木々の梢が桜色に染まり始めた頃、僕らはツク4および「ファイナル・クエスト」のデータが入ったメモリーカードをお互いに交換し合った。もっとも、今となってはどんなキャラが登場し、どんなストーリー展開だったのか、その記憶は丸ごとごっそり抜け落ちている。

 ちなみにこのツク4、バグの多さや全体的な詰めの甘さからのちに、俗に言う「クソゲー」認定されることになるのだが、そんなサッドネス極まりない事実もまた、このときの僕らは知るよしもなかったのである。

 早いもので、気づけばあの日々から、もうすぐ二十年もの歳月が経過しようとしている。

 ワタルとは今でも繋がっており、年に一度地元の友人らを主体とした新年会で顔を合わせては、大いに酒を酌み交わしている。

 相も変わらずイケメン鮮度を保ったままの妻帯者ワタルに、相も変わらずボンクラ街道まっしぐらの僕。本来、交わるはずのなかった二人。

 そんな凸凹な僕らを繋ぎ合わせてくれた「RPGツクール4」に、僕は感謝してもし切れないのだ。

note × Unity Japan 「#心に残ったゲーム」にて当記事が「心に残ったゲーム 厳選記事集」に選出されました。

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