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ミステリー小説を読ませてもらえない少年との交流

【書店内をうろうろしていると(別に暇なわけじゃないぜよ)、突如声をかけられた。

「すいません、来年中学生になる男の子が読めそうな本はありませんか。」

声をかけてきたのは70代前半くらいの女性。
彼女の後ろには小学校低学年と思しき活発な女の子と、賢そうな顔をした来年中学生っぽい雰囲気の男の子がくっついている。

「君が読むのかい?」
私は腰をかがめて少年の顔を覗き込む。
「はい。」
少年はもじもじしながら無垢な瞳を恥ずかしそうに地面に向けた。
「私自身、あまり本に詳しくなくて。なにかおすすめあれば教えていただきたいのですが。」
申し訳なさそうに頭を下げてくるおばあさん。
なんのなんの!お任せください!
ここは書店員の腕の見せ所である。

「どんなものが読みたいのかな?」
「えっと・・・ミステリーとか気になってます。」

ならば、と3人を東野圭吾コーナーへ連れていく。ミステリー初心者の彼には、流行りの大人気作家からチョイスするのが最適だろう。
「東野圭吾とかどうでしょう。ストーリーも分かりやすく、人の感情に重きを置いた作品が多いのでおすすめです。私自身、中学生時は東野作品を読み漁っておりました。」
したり顔で説明をしながら、名作『変身』や『ガリレオシリーズ』を紹介する。
(実を言うと、中学生のときは東野圭吾さんをミステリー作家ではなくコメディ作家だと思っていたのであるが) ←Click! 

裏のあらすじに目をやって、ふむふむと頷く彼らを見つめる。少年は熱心に読んでいるが、一方のおばあさんは微妙な表情を浮かべている。

「・・・ミステリーは恐いからダメよ。」

少年の耳にボソリと呟いたのを私は聞き逃さなかった。
「ほ、他のジャンルだと歴史小説とかいかがですかね。ほら、勉強にもなりますし」
少年の意に反するが致し方ない。財布を出すのは少年ではなくおばあさんなのだから。こっちも商売なので、何かしらご購入して頂きたいのが本音である。
ツアーガイドのお姉さんの如く、極めて自然に、歴史小説コーナーへ誘導する。

「司馬遼太郎の本はロマンが溢れてて本当に面白いですよ。新選組とかカッコいいですし、坂本龍馬も男の子に大人気です。」

『燃えよ剣』『竜馬がゆく』を指さしながら彼らの顔色をうかがう。男の子は大体チャンバラ好きだし、私自身も「夢を追う男たちの魂」に胸を熱くした過去がある。さあ、どうだ。食いつくか。

「ねえ、見てー。」

今まで蚊帳の外にされていた女の子が、背負っているリュックを私の方へ向け、徐ろに喋りかけてきた。
「ん?」と彼女に目線を合わせ、リュックに目を移す。そのメインコンパートメントには、プリキュア的風貌の女子があざといウインクを放っている様が描かれていた。
「いいじゃん、似合ってるよ!」
「ママとパパにねー、買ってもらったの!」
「よかったね!かわいい!」
女はとにかく褒めちぎれ。
いつか誰かが言っていたこのテクニックに年齢は関係ない。
「大事に使うんだよー!」
「うん!今度はポシェット買ってもらうのー!」
「そっかー!いいね!」
小さなお客様にホストごっこをしながら、2人の様子をちらりと見る。すでに彼らの目線は歴史小説コーナーにない。

「なんか違いましたかね・・・?」
少女とのやり取りをするりと切り上げて、おばあさんにおそるおそる声をかける。
「人が死ぬのはちょっとよくないかなと・・・。あのう、違う感じのありませんか・・・。」
申し訳なさそうに背中を丸めながら、おばあさんは小さく頭を下げた。
一方、少年は何とも言えない顔をして黙りこくっている。
ラブストーリー、ヒューマン、コメディ、様々なジャンルの作品を瞬時に脳内本棚に陳列させ、再度彼に尋ねてみる。
「君はどんなのが読みたいのかな?」
少年は「うーん・・・」と言い淀み、そのまま固まってしまった。】

・・・という出来事があった!

おっとこれは
①本をおすすめすることの難しさ
②子どもの読書の自由
を提起するいい機会なんじゃないだろうか!?

「あれ?
ちょっと頭を良さげな記事書けそうじゃん、俺!」

意気揚々とキーボードを打ち込み始めた成生隆倫。しかし、②についてパパパっとお手軽に文章を作れない筆者はすぐに挫折する。
今回は潔く諦め、また別の記事に改めて書こう!
小さな克己心を持つことでお茶を濁すのは、選ばれし者にしか許されない英断である。
(エロ描写があるオトナな作品も素晴らしいんだよ!だから大人が子どもの読書枠を無理に決めちゃいけないよ!小説は最高の性教育教材だよ!って書きまくりたいだけなんですけどね)

①は自身の知識不足とリサーチ不足から発生している事象なので、日々勉強していけばある程度対応できるようになるはずである。偏った読書遍歴の壁をぶち壊し、幅を広げて精進するのみ。
とりま、①については以上。

ちなみに、彼らは(おばあさんは)中山祐次郎さんの『泣くな研修医』をご購入していった。
読んだことはないのだけれど、このシリーズはレビューサイトの評判がめちゃくちゃ良いので、きっと満足してくれるはず。

いつか本命のミステリー小説に目を通せる日が来るといいね、少年。

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