飲んだくれ書店員 成生隆倫(なりうたかみち)。

都内某所で働く書店員。 毎週水曜24時からゴールデン街『パノラマの夜』で店番を担当。 …

飲んだくれ書店員 成生隆倫(なりうたかみち)。

都内某所で働く書店員。 毎週水曜24時からゴールデン街『パノラマの夜』で店番を担当。 バーテンダー、舞台俳優、ユーチューバー、塾講師等を経て現在に至る。 酒と夢と華に溺れ、とっ散らかった人生の忘備録。 本のタイトルから着想を得たオリジナルエッセイを書いてます。

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【書店員の私が、2023年に読んだ本で最も衝撃的だった一冊を発表する〜成生賞2023〜】

【成生賞】 私がその年に読んだ本のなかで一番衝撃を受けた作品を発表する企画である。 本当に良かった!読んでよかった!と思う、忖度なしのベストな一冊を完全なる個人的趣向で選ばせていただく。 作品の発売年は不問であり、書店での売れ行きも選考材料とはならない。 「多くの人に本の素晴らしさを伝えたい、ゆくゆくはこの賞をメジャーにさせ、もっと多くの人に感激の輪が広がってほしい。」 という名目で作られた成生賞であるが、この企画によって「少しでも多くの種類の本が売れる世の中になってほしい

    • 【B'zに支配され続けた18年間が、ウルトラソウッ!な件について】

      受験勉強に明け暮れた小学生時代を抜け、ラジオやドラマや小説や音楽に多大な影響を受けるようになっていた頃のことである。 CDコンポのボリュームを絞って『桑田佳祐のやさしい夜遊び』を聞き、初代ドラゴン桜に出演していた長澤まさみの可愛さにメロメロになり、親から与えられた歴史小説を棚に戻して東野圭吾を読み漁る。 見たことも聞いたこともない新しい刺激たちに、無垢な中学一年生の心は踊った。五感を通り抜けていくものすべてが魅力的なものに思えた。 そのような数多くの刺激がある中、ある日私は

      • 【俺なら、有名書店員になって本屋の未来を照らせるとマジで思っている】

        神保町にできた新しい書店、『ほんまる』さんへ行ってきた。こちらは個人もしくは法人が棚主となり、POPを貼ったり電飾を付けたり等、棚の中であれば自由にカスタマイズできるシェア型書店である。 開店初日だったので全ての棚が埋まっている状態ではなかったが、それでも棚主たちの個性はじゃぶじゃぶと溢れていた。 好きな作家を詰め込んであったり、売り出したい本を並べてあったりと、まさに推し本たちのエンターテイメントパーク。 『歩く屍堂』さんのゾンビに関する書籍棚は成生的にかなりツボで、興奮

        • 【一気読み!とか徹夜本!とか、俺はナンセンスな宣伝文句だと思っている】〜書店員のエッセイ&本紹介〜桜木紫乃『砂上』

          夜の読書は優雅だ。 今日為すべきことのなにもかもが終わり、あとはだらりと体を横たえて睡魔を待つだけ。一日にわずかしかない、そのささやかな自由時間を読書に充てるというのは、なかなか気持ちがいいものである。 ベッドライトが照らすなか、ぱらりぺらりとページをめくる。静寂な夜の素晴らしいところは、圧倒的な没入感を味わえるところだ。みるみるうちに物語へと吸い込まれていく。感覚は文字の世界に溶け込み、感情はめくるめく動き回る。紙と指がこすれ合う音だけが響き、上質な時間を醸し出す。 ・・

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        【書店員の私が、2023年に読んだ本で最も衝撃的だった一冊を発表する〜成生賞2023〜】

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          「書店員やってます」と言うと 「へえ、本が好きなんだね」と言われる。 そうっすね、と答えるもののその声はなんだかフラフラしている気がしてならない。 満員電車で読書、家に帰って読書、風呂に浸かって読書、ベッドに寝ころんで読書。 そうやって『本と共に生活』している人はきっといるのだと思う。それは書店員かもしれないし、作家かもしれないし、出版社の人かもしれないし、どちらでもない人かもしれない。まあ少なくとも、彼らは無類の本好きであるということは断言できる。 だが私はそうではない。

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          【三年前まで本屋大賞の存在を知らなかった俺が、宮島未奈先生とツーショットを撮るなんて!?】 ~書店員のエッセイ&本紹介~ 花田菜々子 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

          ぶっちゃけてしまうと、三年前の四月まで本屋大賞という存在を知らなかった。 本に関する話題にものすごく疎い人間だったのである。 芥川賞や直木賞くらいは聞いたことがあったけれど、又吉直樹さんの『火花』しか読んだことはなく。それも地元である吉祥寺の居酒屋・美舟が登場していたからで、「行きつけのお店だしな」とかいうちょっとした義理的読書であった。 本は好きだけど、待ち合わせの時間つぶしで本屋に寄ってテキトーな文庫本を買う程度のライト層。 そんな私が本屋大賞の壇上で写真を撮られている

          【三年前まで本屋大賞の存在を知らなかった俺が、宮島未奈先生とツーショットを撮るなんて!?】 ~書店員のエッセイ&本紹介~ 花田菜々子 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          「書店員やってます」と言うと 「へえ、本が好きなんだね」と言われる。 そうっすね、と答えるもののその声はなんだかフラフラしている気がしてならない。 満員電車で読書、家に帰って読書、風呂に浸かって読書、ベッドに寝ころんで読書。 そうやって『本と共に生活』している人はきっといるのだと思う。それは書店員かもしれないし、作家かもしれないし、出版社の人かもしれないし、どちらでもない人かもしれない。まあ少なくとも、彼らは無類の本好きであるということは断言できる。 だが私はそうではない

          【一番好きなことは読書・・・ではないんだよ、本当は】

          【ビールの噴水がある本屋に行くと、ゴールデン街で働けるらしい】~書店員のエッセイ&本紹介~ 多崎礼 『レーエンデ国物語』

          気が付けば空は明るい。 あれからもう一軒行って、あれ、どうやって出たんだっけ。記憶の波は不規則な水しぶきをあげてあれよあれよと姿を変えていく。 重い身体を引きずって四季の路を抜けると、靖国通りではきらびやかなお姉さんがタクシーを呼んでいた。 その気だるい景色から漂う都会的な香りに、私はここが、ホームタウンから数駅離れた土地であることを改めて認識した。夜の光はすでになく、居場所を失くした影がぼんやりとアスファルトに映る。 「・・・もう帰ろう」 この時間のこの場所は、歌舞伎町

          【ビールの噴水がある本屋に行くと、ゴールデン街で働けるらしい】~書店員のエッセイ&本紹介~ 多崎礼 『レーエンデ国物語』

          【書店員ってブックカバー折るの上手すぎるだろ問題】

          私はブックカバーを折るのがとんでもなく下手だ。 元々手先が器用な方ではないというのは自覚していたのだが、この仕事を始めてから、改めて己の不器用さを認識するようになった。 勤務先の書店で使うブックカバー用紙には『文庫』『新書』『四六』などと書かれた折り印が紙の両端に小さく記載されており、それに沿って折るだけでサイズに合ったカバーが完成する仕様になっている。 これは他の書店さんのものと比べるとかなり親切なつくりだと思う(八重洲ブックセンターさんのカバーはレベル鬼)。 入りたての

          【書店員ってブックカバー折るの上手すぎるだろ問題】

          【橋本環奈が2メートル先に存在した現実は、脳に大きなダメージを及ぼす】 〜舞台『千と千尋の神隠し』〜

          彼女がすぐそばにやってきたとき、私は反射的に目を逸らしてしまった。 彼女の職業は大衆から注目を浴びるものであるし、たかだか私の眼差しなど日々接している数多の—―それも目玉が飛び出るくらい高い—―カメラと同じ類、もしくはそれ以下のものであろう。しかしこちら側としてはどうにも落ち着かない。 「エロとか金とか酒とか虚栄とか虚言とか欺瞞とかに染まった汚い目でガン見とか気持ち悪いですよね、ほんとすみませんほんとごめんなさい」 眩い光を放つ宝石のような瞳は私を惹き付け、そして、気持ち

          【橋本環奈が2メートル先に存在した現実は、脳に大きなダメージを及ぼす】 〜舞台『千と千尋の神隠し』〜

          【実際は超過酷!?本屋大賞投票のガチリアル! 〜書店員のエッセイ〜】

          埋め尽くされた全ノミネート作品のコメント欄を二度三度と確認する。 締め切り間近にヤケになったつもりで書いた文章が何だかんだで整然としていることに己の生真面目さを感じた。追い詰められれば大抵のことは出来るらしい。 三十一歳独身男性のポテンシャルは凄い。 『成瀬は天下を取りにいく』 『君が手にするはずだった黄金について』 『星を編む』 『スピノザの診察室』 『リカバリー・カバヒコ』 『存在のすべてを』 『水車小屋のネネ』 『黄色い家』 『レーエンデ国物語』 『放課後ミステリクラ

          【実際は超過酷!?本屋大賞投票のガチリアル! 〜書店員のエッセイ〜】

          【直木賞作家を信じて立命館へ入学した結果、フィクションをノンフィクションに変えることに成功した話】~書店員のエッセイ&本紹介~ 万城目学 『鴨川ホルモー』

          晴れて大学生となった私を待っていたのは、フィクションが本当にフィクションであるという現実だった。 入学前のオリエンテーションで待ち受けていた上回生にビラをもらいまくっても、館内のボードに張り付けられたサークル紹介チラシを片っ端から見て回っても、バイト先の先輩に恥を忍んで聞いてみても、そのサークルが実在するという情報は得られなかった。 まだ新しい香りのする六畳のド真ん中に座り込んで、私は誰に知られることもなくほんの少し落ち込んだ。覚えたての発泡酒をあけ、ぷはあーっと一丁前な

          【直木賞作家を信じて立命館へ入学した結果、フィクションをノンフィクションに変えることに成功した話】~書店員のエッセイ&本紹介~ 万城目学 『鴨川ホルモー』

          【死んだ父と夢の中で再会した、39度の発熱に苦しむ年始の夜】 〜書店員のエッセイと本紹介〜 筒井康隆『カーテンコール』

          リビングから聞こえるテレビの音で目が覚めた。 ゆっくりと身体を起こし、体調を確かめる。節々を蝕む痛みは昨夜より軽くなっており、首に帯びた熱もそれほどストレスに感じなくなっていた。 私はおそるおそる立ち上がる。不安定だった平衡感覚はだいぶ回復しているらしい。がちゃがちゃしたテレビの音も滑らかに鼓膜に滑り込んでくる。まだ多少のふらつきは残っているものの、意識はとてもはっきりしていた。 部屋のドアを開け、廊下を進む。明るい陽が深くまで差し込んでいて、家の中にはエアコンの暖かい空気

          【死んだ父と夢の中で再会した、39度の発熱に苦しむ年始の夜】 〜書店員のエッセイと本紹介〜 筒井康隆『カーテンコール』

          【おみくじは大吉が出るまで引かないと、本当の望みは叶わない】 ~書店員のエッセイと本紹介~小手鞠るい『私たちの望むものは』

          見上げた白い空は冬の色。部屋で最大限に温めた身体が、徐々に外気に染まっていく。どことなくだらりとした雰囲気漂う坂道は、妙な寂しさと高揚感に包まれている。 道中、横になって広がる五人家族を早足で追い越した。なにも邪魔だったからではない。むしろ彼らの方が正月らしさという意味では正しい。向かう先はきっと同じ。思いはきっと違うけれど。 境内へ足を踏み入れると多くの人がいた。と言っても明治神宮のようなすし詰め状態ではない。細い参道にずらりと行列ができているくらいだ。待ち時間は十分もな

          【おみくじは大吉が出るまで引かないと、本当の望みは叶わない】 ~書店員のエッセイと本紹介~小手鞠るい『私たちの望むものは』

          【トナカイの着ぐるみを着せられキッチンを追い出されたパティシエに降り注ぐ、クリスマスの奇跡と冷えきった恋のリアル】 〜書店員のエッセイと本紹介〜

          ゆっくりと十二月の明かりがともりはじめ、あわただしく働く私たちの職場は明日、さらなる激戦になることが予想される。 とは言いつつも、タルト・チーズケーキ製造担当の私にそこまで大きな出番はない。いつもよりほんのちょっと多めの数を作り、いつも通りの仕込みと片付けをして帰るだけ。特別な業務は、最前線で戦う女性店長とフリーターの男の子に、ほどよく立てた生クリームとカットした苺を供給し続けるくらいである。 「お二人、なにか手伝えることありませんか。」 「大丈夫やで。」 「大丈夫っす。」

          【トナカイの着ぐるみを着せられキッチンを追い出されたパティシエに降り注ぐ、クリスマスの奇跡と冷えきった恋のリアル】 〜書店員のエッセイと本紹介〜

          【青春ブタ野郎はサッカー部のマネージャーと渋谷デートする夢さえ見られないがそれでもやっぱりイチャイチャしたいよ】 〜書店員のエッセイと本紹介〜 今村翔吾 著『ひゃっか!』

          渋谷スペイン坂スタジオで行われる、公開生放送番組を観に行くのが好きだった。 当時私は高校二年生。部活がない月曜日は授業が終わるとすぐに教室を飛び出して、一目散に駅へと向かった。 「ラジオDJに俺はなる!」 血気盛んに息巻く少年は、きらきらと目を輝かせて山手線に走りこむ。 「今日もありがとう」 ある日の生放送中、憧れの小山ジャネット愛子さんが声をかけてくれた。電波に乗ったその言葉は、私にとって宝物だった。『僕も将来ジャネットさんみたいなパーソナリティーになれるように頑張ります

          【青春ブタ野郎はサッカー部のマネージャーと渋谷デートする夢さえ見られないがそれでもやっぱりイチャイチャしたいよ】 〜書店員のエッセイと本紹介〜 今村翔吾 著『ひゃっか!』