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古典文学・古歌に関する趣味的執筆(たまに自作メモ)

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もともと古代和歌を研究していましたが、 研究以前に古文や和歌が好きなので、 ほぼ自分解釈で、感じるまま、楽しみで書いた文章。 短歌同人として活動した経歴もあり、現在、即興和歌を琴…
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記事一覧

萬葉集歌より〜雨にとじこめられて

萬葉集歌より〜雨にとじこめられて

〜藪波の里に宿借り 春雨に隠りつつむと 妹に告げつや〜
  (大伴宿禰家持 『萬葉集』巻十八・四一三八)

大伴家持が越中守として赴任していた折り、砺波郡の藪波という里の墾田地の視察に出かけ、郡司の家に宿を借りたところ、
“時に、たちまちに風雨起こり、辞去すること得ずして”と題詞にある状況となり、

「藪波の里に宿を借りて休息していたら、急な春雨に降りこめられたので、帰りが遅れる……と、妻に伝えて

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雨こもりの物思い

雨こもりの物思い

「雨ごもり 物思ふ時に
  ほととぎす 我が住む里に 来鳴きとよもす」
                  (万葉集)

しばらくは毎週金曜に予定を空けておく都合があったのですが、
夏至の金曜の今日は、特にコンタクトがなかったので、
ではせっかく夏至だし、ひとりで心を解放しつつ、どこかへひっそり奏でに出かけようかと思っていたけれど…
雨になるとは思わなかった💦屋外で奏でられない。

それなら今日

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夢かうつつか 心の闇

夢かうつつか 心の闇

かきくらす 心の闇に まどひにき
  夢うつつとは 世人定めよ  
『古今和歌集』業平朝臣の歌です。

  〘『伊勢物語』『古今和歌集』の歌物語〙

この歌を導く歌も美しく、

  君や来し 我や行きけむ 思ほえず 
     夢かうつつか 寝てさめてか
「貴方がいらしたのでしょうか、それとも私が訪うたのでしょうか、定かではないのです。
夢だったのか現実だったのか、眠りのうちなのか、目覚めていたの

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夏至の夜の 天の河原を懐かしみ…(創作短歌)

夏至の夜の 天の河原を懐かしみ…(創作短歌)

5年前の夏至の宵、
ご神前お舞台にて、琴歌奉れりを、
懐かしく思ほゆ。

〜懐かしき 遠つ社の 夏至の宵
  浮世に恋ふる みそぎ川風〜

〜夏至の夜の 天の河原を懐かしみ
  夢の鳥舟 魂のみそ翔け〜

〜神招く 縁あればこそと 人は言へど
  憂き身なればにや 塞き越え難き〜

〜たびごろも 足かせもなく おとなひし
  若き巡りの 日そ懐かしき〜

〜天つ風 琴いと ふるる 
  み歌もて 

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水無月、心に刻む「大和ことのは」の心

水無月、心に刻む「大和ことのは」の心

〜 学び得よ こひねがはしき
  みな月の 風のすがたを 大和ことのは 〜

歌人・正徹(しょうてつ)は、室町時代中期 14世紀、臨済宗の歌僧。
家歌集『草根集』、歌論集『正徹物語』。

この歌は「夏風」の表題にあり、

歌意は、
「乞い願わくは、水無月の風のあり様の如く、さらさらと身に染みて清々しい、やまとうたの言の葉を、学び得させたまえ」
というような心でしょうか。

和歌を志す者すべての心に

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天衣無縫

天衣無縫

「天衣無縫」って言葉が、急に浮かんできて、
改めて噛みしめてみて…

実のところ、私が琴歌でおろしている和歌は、古式古風のならわしは、意識しなくても踏襲されているものの、
本質はそういうものだと、改めて思う。

自由に軽やか。何ものにも縛られず、誰の批判も受けるものではない。
天からおろされ、私が歌とし、奏でる即興は、
あるべくして表れた和歌と調べなのだから。

爪弾きなき琴の響き

爪弾きなき琴の響き

このXの記事、風に触れて、琴が響きを発している、貴重な記録を公開してくださっています。

ちょっと違うかもしれませんが、

「かの緒は人もひかざるに
 自ら鳴るやうにきこゆる也
 これを境にいるといふ也」
(『胡琴教録』琵琶)

という記事を思い出しました。

また、それらとは違うかもしれませんが、
誰も触れていないのに、琴が鳴っている感覚は、私も経験があります。

自分が弾く場でなくても、氣がよ

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秋の色 
穂む田を染めし 
あかときに 
神名備大和 
恋ひし旅のと

重陽・菊…またしても?

重陽・菊…またしても?

もうだいぶ過ぎてしまいましたが、近々、能楽『菊慈童』の演目をテーマにするので、
書いておこうと思い立ちました。

  重陽の節句

9月9日は、重陽の節句でした。
1月7日人日・3月3日上巳(桃)・5月5日の端午・7月7日七夕と共に、奇数である陽が重なる、五節句のひとつ。

「菊の節句」とも呼ばれ、
菊の花びらを浮かべた菊酒を飲んだり、
菊の葉に着せ綿をかぶせ、菊の香りの氣と露を染み込ませ、それで

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琴詩酒の友 〜能楽『松虫』と、『魔道祖師』

琴詩酒の友 〜能楽『松虫』と、『魔道祖師』

能楽に、『松虫』という演目があります。

学生の頃、これを習う際、
「(今でいうところの)BLだ(笑)」と、先輩が教えてくれたことを思い出します。
その頃は、BLとは言わなかったと思うけれど。

男性同士の盟友の話で、
阿倍野の市に、酒を飲みに来る男性が語る物語。

かつて、死なば共にとさえ誓いあい、深い絆に結ばれたふたりの男性、
阿倍野の原のあたりで、松虫の声があまりにみごとゆえに、ひとりの男性

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岡倉天心『茶の本』より「芸術鑑賞」ですが、
琴について、“琴馴らし”という伝説が語られています。
琴が人を選び、人が琴と共感ひとつになる。
理想です。
#Spoon DJのしひなです。
ぜひCASTを聴いてみてね!
https://u8kv3.app.goo.gl/i9f35

琴弾き朗詠『源氏物語』桐壺(冒頭)

耳のみ傾けて、お聴きいただけましたら、幸いです。

最近、原文を琴弾き歌い、自訳文を朗読でという試みをしているので、
はじめは違う古典の朗詠動画を作っていたのですが、急に思い立って、『源氏物語』を読んでみました。

想像以上に、女性の手になる物語は、読んでいて心地良いです。

おそらくは、宮廷女官たちが女主人を囲むサロンで、声で読み聞かせることを意図して書かれたと思しき、
読みやすく、音に乗せて歌
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