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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その13


13.   ロックだましぃ〜


一週間が過ぎた。
もう先輩は側にいない。
私はひとり立ちした。


隣人の坂井みたいに青白い顔になることもなく
両手で両膝を掴んで倒れないように
上半身を支えるようなポーズをひたすらすることも
しなくて済んだ。


そしてビールを飲む量が増えた。運動しているからだろうか。
元の自分の調子に戻ってきたようだった。
絶好調である。


向いてるのかも知れない。
いや、向いている。
完全にこの【新聞配達員】という仕事は。
私は一人で暗い夜道を相手に仕事を
することに・・・向いているぅ!


太陽よ、さようなら。
潮風が吹く青い海岸よ、永遠に。
海のような青々とした草原が波打つように爽やかな風の中、
白いワンピースを着た女の子と
シロツメグサの首飾りを作るなんてのは永遠の憧れに終わった。


私はモグラのように地下でなら
大きく息を吸い込める。
目に力が宿り輝きを増す。
一緒にこの暗い土の中を潜ってくれる
女の子を見つけなければならない。


昼間は単なる夜の準備時間へと変わっていった。
つまり就寝時間になった。
【夜に備えて昼に寝る】
【昼に備えて夜に寝る】の逆だ。
全く問題ないはずだ。


しまった!私は学生だった!
学校は真昼間だ!


学校で学ぶ音楽はクソかも知れない。
ロックは学ぶものではない。
学びにツバを吐くのがロックだ!
ありとあらゆる既存の存在に
中指を立てるのがロックだ!


だから夜のロックの為のネタでも
仕入れに学校に行くとしよう。
反抗するべきものを見に行こう。
それが無ければロックは生まれない。
それくらいの気持ちで行くとしよう!


私は多分ビール臭い息を吐きながら
電車に乗った。
学校に行くためだ。


最寄りの早稲田という駅から高田馬場で乗り換えて
野方という駅で降りた。
目の前に牛丼290円!とある。
食べるとしよう。


夜はずっと起きて
深夜にひと仕事を終えて
朝ご飯をたっぷりと食べたその後で
部屋に帰ってビールをたらふく飲んだのに
まだ牛丼が食べられた。


もう満足だ。
これ以上なにもする気になんてなれない。
眠気が襲ってくる。
学校で寝れるだろうか。


私は牛のような顔をして
学校の中に入った。


小さなテーブルと椅子が何個か置いてある
休憩室のような部屋を見つけた。


ケースに入れたままのギターを壁に立て掛けて
話に夢中な奴らが5人いた。


その近くの椅子に座り
缶コーヒーを振って泡立ててから
聞き耳を立てて飲んだ。

音の話はなく、
詞の話でもなく、
音楽家やアーティストの話でもなく、
音楽業界についての話が聞こえてきた。


こうすればデビューできるかも知れない。
こうすれば売れるかも知れない。
こうすれば人気者になれるかも知れない。
売れたらこうする、ああする話。


そんな話ばかりだった。
淀んだ空気が部屋を包んでいる。
誰も煙草を吸っていないのに空気が白っぽくなる。


白い空気の中から、どっちが髪の毛でどっちが髭か
よく分からないオッサンが微笑んだ。葉巻を吸っている。


「よくよく考えるんだ直樹。
この学校には先生も学院長も含めて誰も
音楽家として世界に名を馳せた者も
売れっ子になった者も有名な者は
一人もいないのだぞ。

ほんの少しの基本を学んで
音楽の技術を学んで
行く末は音楽学校の先生になる。
これがこの学校の目的だ。
上手く付き合うんだ。

学校に自分の理想の音楽を求めるのは
やめるべきだろう。

音楽と音楽学校は別物だ直樹。
そのスタンスで行け直樹!
GO!なおきぃー!!」


やたらと私の名前を叫んで
去っていった白い空気のオッサン。
あれがロックの神様なのだろうな。


オッサンのその言葉を聞いて
音楽家を目指して音楽に反抗すると言う
なんとも矛盾なロック魂が発生してしまった私。
アルコールが多いのか、それとも少ないのか
よく分からなかった。


雑居ビルのようなコンクリート作りのその
冷たい学校に良い予感は全くしなかった。


私だけ手ぶらだった。


ここが私の通う学校。
私が所属している学校。
私の属性。
私の肩書きだ。
私は【新聞配達員】ではなく【学生】なのだ。
ここに私の席があり、
私は生徒として出入りを許されている。
でも居場所は無かった。


なんでこんなにも冷めてしまうのか。
ワクワクしないのか。


ふと新聞配達のことを思った。
あれ?
ワクワクしているではないか。
明日の配達こそ何か起こるかもしれないと
期待しているではないか。


わたしはもう
家族のように温かいあの近藤新聞店に所属している。
それだけで十分だ。


きっとそのうち
素晴らしい曲が仕上がるだろう。
泉のようにポロポロと湧き出すに違いない。
そんな予感しかしない。


楽しい配達は1日に2回もある!
夕刊が午後2時半には来ている。
早くお店に帰ろう。


ドラマチックな配達の旅が
待っているに違いない。


〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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