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【2つめのPOV】シリーズ

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回「しがみつく」パターンA〈ユスタシュの鏡〉[side:D] まとめ記事 (No.0240)

 ジリジリジリジ

私は時間通りに鳴り始めた目覚ましを素早く止めた。

現在マルロクマルマル時。

この長く使っている古めかしい目覚まし時計は、今朝もきちんと努めを果たしてくれた。

頭にベルが付いて赤い塗料がぶ厚く塗られたこのドッシリと重いゼンマイ式目覚まし時計は、本日も私の期待に応えて問題なく努めを果たしてくれた。

まだまだ使える。

私は新しい物よりも、きちんと使える事が証明されている中古

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回「しがみつく」Part.11 (No.0239)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.11

(Part.5: こちら Part.6 : こちら  Part.7 : こちら Part.8 : こちら 

Part.9 : こちら Part.10 : こちら)

私は大通りへ出てそのまま駅の方向へと進む。
同じように駅へ向かう人たちがチラホラと見えるが、改札入り口へと吸い込まれる人たちを他所に、私はそこを通過して裏側のバス

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回「しがみつく」Part.10(No.0238)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.10

(Part.5: こちら Part.6 : こちら  Part.7 : こちら Part.8 : こちら Part.9 : こちら)

こうした重たい罪の振り子に振り回されている残党たちが、今でも時折攻撃を仕掛けてくる。
しかしその攻撃には、もはや威力は無い。

組織が破綻し、現場への資金も滞って士気も下がっているし、これまで隠

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回「しがみつく」Part.9 (No.0237)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.9

(Part.5: こちら Part.6 : こちら  Part.7 : こちら Part.8 : こちら) 

そのすれ違う1秒間に、お互いの攻撃は終了した。

ジョギング男は通り過ぎていった。それで終わりである。

この "攻撃" は、私にはもう懐かしさを覚えるものになっていた。

これはあの向かいに住んでいる老夫婦の使ったもの

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく」 Part.8(No.0236)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.8

(Part.5: こちら  Part.6 : こちら  Part.7 : こちら)

こうした『上級国民軍』の下部組織の敗走という結果を受けた敵国司令部は、今度は上層部の中でも顔の知られた人材を直接 "前線" に派遣する方向に切り替えた。

この作戦変更には、下の者の責任を取る意味もあるが、しかしこれはこれで理のある作戦だった。

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく」 Part.7(No.0235)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.7

(Part.5: こちら Part.6 : こちら)

彼ら『上級国民軍』に所属する下等兵士たちの正体は、カルト宗教の信者たちだ。

なるほど。
それなら納得できる。
これだけの汚らしい攻撃を無差別に実行出来るのも当然だ。

長年に渡って散々狂った『悪』の教えに付き従い続けてきたのだから、何の抵抗も感じない理由も分かる。
カルトに

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく」 Part.6(No.0234)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

Part.6

(Part.5 はこちら)

まだ初夏と呼ぶには早い時期にも関わらず外はもうすっかり明るかった。古びたにも程があるこのアパートの二階角部屋。
玄関を開けると目の前には腰程度の高さしか無い鉄柵があり、一歩前へ出るとそのガバガバの隙間から階下の自転車置き場が足元に見える。

私は目線を自転車置き場の手前から右に折れたすぐにその先、ア

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく」 Part.5(No.0233)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

 ジリジリジリジ

私は時間通りに鳴り始めた目覚ましを素早く止めた。

現在マルロクマルマル時。

この長く使っている古めかしい目覚まし時計は、今朝もきちんと努めを果たしてくれた。

頭にベルが付いて赤い塗料がぶ厚く塗られたこのドッシリと重いゼンマイ式目覚まし時計は、本日も私の期待に応えて問題なく努めを果たしてくれた。

まだまだ使える。

私は

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく」 Part.4 (No.0227)

パターンB〈ラウディのサングラス〉

[Put on sunglasses]

 木の家が燃えたのなら、直すには木材が要る。
レンガの家が壊れたのなら、直すのにはレンガが要る。

当然のことである。

もし木材を売りたいのなら、木の家を燃やせば良い。
レンガを売りたいのなら、地震で壊せば良いのだ。

そうやって必要になる状況を作ってやればいい。

食べ物を売りたいのなら、それと同じように腹を空かせ

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく 」 Part.3 (No.0221)

パターンB〈ラウディのサングラス〉

[Remove sunglasses]

 これまでの私の人生は苦しいことの連続だった。

他の多くの人と同様に誰も助けてはくれず、私も誰も助けなかった。

そんな余裕は全く無くその考えさえ浮かばなかった。誰もがそうであるように自分のことしか考えられなかった。

私は人よりも学が無い。だから社会に出ても最底辺の仕事を続けるしかなかった。単純で幼稚で、危険で汚い

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく 」Part.2 (No.0219)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

 だいたいは7月頃から本格的な暑さがやってきて、それと同時にセミたちが騒ぎ出します。
仲間を求めて、パートナーを求めて、永い時間暗い土の中で過ごしてきた鬱憤を晴らすように、共感を求めるように元気いっぱいに夏を、命を堪能します。

彼らは暗い土の中で、その日を今か今かと待ち構えております。
時々、土の中に掘ったトンネルの中から出口へとよじ登り外界の

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【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく 」Part.1(No.0212)

パターンD〈ホロウマンのネガフィルム〉

ミステリーを終わりから読んだ方がいいよ。

先に動機とか犯人が分かってから、細かく読んでいくと、いかにどうでもいい思わせぶりな情報で読み手を撹乱させているかよく分かるよ。

こういうのは色んな作り方があるけど、その一つが「終わりから考える方法」なんだ。

最初に犯人、動機、ゴール、答えを設定してそこに行くように道筋を作っていくんだ。

この方法を使うときに

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【2つめのPOV】シリーズ 第5回 「実り 」Part.3 (No.0205)

パターンB〈ラウディのサングラス〉

[Remove sunglasses]

野菜などは形が不揃いで見栄えが悪いと売り物にならず捨て値で取引される。農作物などは不揃いのほうが本来自然なのだが見た目が悪いと容赦なく価格は下げられるため生産者側も形の均一化に努力をする。それによって得られるものは効率と商業性と見た目だ。確かに一理あるが自然のものは建築やコンピュータの部品ではないのだから形が不揃いで当

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【2つめのPOV】シリーズ 第5回 「実り 」Part.2(No.0204)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

Part.1のつづき

私はその固く黒い足元の土にクチバシを突き立てて、その土を食らった。
ひどい味だった。なんの旨味も無くとても臭い。どれだけ噛んでも砂やら砂利やらの感触と、いつまでも粘りつく粘土の塊だけが口に残り続けた。

とても飲み込めない。私はすぐさま吐き出した。

ーー違う、これはひどい。これは食べ物じゃない。これは柿とは全くの別物だ。土と柿は全く違う。土

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