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後編。絶対に零細転職エージェントと付き合おう。転職業界の裏街道を吐露 by転職定着マイスター川野智己

 転職をエージェントする転職先紹介(人材紹介)会社は、中小・零細がお薦めです。大手エージェントが掴んでいない魅力的な求人案件を隠し持っています。
 そして、転職後のフォローも手厚いのです。

1 前編のあらすじ

  田江忍(たえしのぶ:女性・37歳)は大手転職エージェント「ビリルート㈱」をリストラされました。
 再就職先の「松本紹介㈱」は、従業員わずか2名の零細転職エージェントです。

 その社長ゲンさんは、元はと言えば大手冷凍食品会社の開発部長でした。
 食品関連の協力会社と協働し、餃子を初めて冷凍食品化したという、業界では伝説的な人物でした。
 その後、協力会社の担当者は、各々協力会社の社長に出世したのです。 
 彼らは、人材紹介会社を起業したゲンさんの、今や大切な顧客となっています。
 それらは、いずれも無借金経営の業界では知る人ぞ知る隠れた優良企業に成長していたのです。

 詳細は、前編「意外。転職紹介(人材紹介)会社は、零細がねらい目。転職紹介業界のからくりを暴露」をご一読ください。

https://note.com/soshikidukuril/n/n1476ccc7c856


2 確実に入社させる零細エージェントの手腕

  紹介した求職者の採用面接の場に、なんとゲンさんも同席しているのです。しかも、求人企業の面接官からの質問に、求職者ではなく、ゲンさんが回答しているのは驚きでした。

 「(隣の求職者を指して)口下手ですが実直です。」と言い切り、求職者の織田照代(おだてるよ)さんを無試験で入社させました。
 同様に、「責任感がある人物です。」といって中田留美(なかだるみ)さんを、「利発的で機敏です。」といって芳賀結衣(はがゆい)さんを、「言葉遣いが丁寧です。」と言って織田真理(おだまり)さんを、そして、「砂糖や塩を使わずに素材の味を引き出す専門家です。」と言って佐藤利夫(さとうとしお)さんを入社させました。

 まるで、手品のように、多くの人材を、採用という狭き門からすり抜けさせているのです。
 ゲンさんにかかれば、どんな人材も魅力的に紹介されます。

 3 零細エージェントと顧客企業との蜜月


 実は、絶大なる信頼を得ているゲンさんは、まるで、求人先である顧客企業の人事担当役員であるかのように、自ら企業の採用計画を作成し、その計画に沿って人材を入社させています。
 いわば、マッチポンプ、自作自演で意のままに入社させているのです。

 まるで、腹話術の「いっこく堂」のようなものです。
 二人の違いは、「いっこく堂」は声が遅れて出ますが、「ゲンさん」は筋肉痛が遅れて出てくること、および、「いっこく堂」は連れてきた隣の人形ですらしゃべらせますが、「ゲンさん」は連れてきた隣の人材にはしゃべらせないことくらいです。

  ゲンさんが、「御社では、次は法務部長が必要ですね。」と言えば、そのまま商売に繋げられるのです。

 自作自演、ここに極まれり。
 こんな楽な仕組みはありません。

 ゆえに、松本紹介㈱は、顧客企業の新規開拓などする必要が無いのです。  
 現在十数社ある既存顧客企業との取引・ビジネスモデルを、粛々と回していくことで、ゲンさんの松本紹介㈱は十分採算が得られるというわけです。
 私の知る限り、新規開拓をする必要がないのは、零細エージェントと葬儀屋さんくらいなものです。

  加えて、顧客企業に最初に送り込む人材を、人事総務課長のポジションとして入社させます。これにより、まるでトロイの木馬のように、ゲンさんが顧客企業の内部から実務を牛耳ることを可能としています。 
 これは、facebookでの美しい外国人女性からの友達リクエストを思わず承認してしまうことくらい、求人先からすれば、知らず知らずに、内部環境を乗っ取られる危険性を意味します。

 4 求職人材が喉から手が出るほど欲しい零細エージェント

  一方、この収益構造を未来永劫維持させる為に、ゲンさんは失敗できないことが二つあります。

  一つは、ミスマッチな人材を絶対に顧客企業に紹介しない。入社させないことです。絶えず、顧客企業の社風に合った人材を送り込むことが求められるのです。

 もう一つは、紹介し入社させた人材が、自ら退職しないように、引き留めることです。
 早々に自ら退職してしまったら、紹介手数料の数百万円も返金しなくてはなりませんし、何よりもゲンさんの信用問題となってしまいます。

  必然的に、わが社、松本紹介㈱のような零細転職エージェントは、「良質な求職人材の確保」が、その経営存続を左右する重要なカギになります。
 ところが、零細エージェンのお粗末なホームページに、満を持して求人案件を掲載しても、求職者は誰もアクセスして来ないのが実情です。
 何故ならば、大手転職エージェントである、リクルート、enジャパン、アデコ、ビズリーチならいざ知らず、誰も「松本紹介㈱」などの零細エージェントの存在など知らないからです。

 5 零細エージェントと求職人材の接点

 現在は、新型コロナ感染症の蔓延もあって、業界天気図が土砂降り(景気悪化)という指標でもあるくらい、厳しい転職市場です。
 人材の登録自体も減っているし、仮に登録するにしても大手エージェントの独自サイトに集中していまいます。
 もっとも、例え、業界天気の天候が良くなり、雨が上がったとしても、吉本興業やyoutuberのヒカルから解雇された宮迫博之氏ですら、登録しに来ないでしょう。
 これほど、零細エージェントはその知名度の低さゆえ、求職人材を集めることが経営上の大きなカギとなっています。

  そこで、良質な求職者の確保に困った零細転職エージェントは、転職のポータルサイトに求人の広告を掲載します。
 転職ポータルサイトとは、「イーキャリアFA」や「日経ビジネス」など、大手・零細を問わず多くの転職エージェント社が自らの求人を掲載する、いわば相乗りバスのようなサイトのことです。
 販促費用が限られている零細エージェントが、唯一、ここぞとばかりに高い掲載料金を払い、社運をかけて出費する場なのです。

 彼らにとって、鉄砲の弾(良質な人材)さえあれば、商売は成立したようなものです。
 人材さえいれば、数百万円の紹介手数料が手に入り、ゲンさんは近くの築地のフグ屋でも、料亭でも、宮迫博之氏が経営する焼肉屋でも、これ見よがしに宴(うたげ)を開けるでしょう。

 
6 求職者にとっての大きなメリット

  実は、このビジネスモデルに乗っかることは、求職者にとっても大きなメリットがあります。それは、4つあります。

 まず一つ目は、求人先の企業が非常に魅力的であるということです。
 次から次へと中途採用が出来るということは、企業の業績が好調であるということを意味します。

  二つ目は、その求人企業の情報を、零細エージェントは豊富に持っていることです。先のゲンさんと取引先の例のように、長年にわたる蜜月関係にあり、社内の業務内容や仕事の進め方、社風、社長の人柄まで知り尽くしているのです。求職者からすれば、問いかければ、即座に正確な情報を得ることが出来ます。
 一方、大手エージェントは、登録窓口担当は基本的に、求人企業を訪問すらしたことがありません。自社の営業からの求職案件の社内書類をそのまま求職者に渡しているに過ぎません。情報は、その書類に書いてあることだけで、それ以上のことは知りません。それが実情です。

  三つ目は、零細エージェントが過去に紹介し入社させた「先輩方」が、企業内に主要ポストで既に何人か在籍しているということです。例え、彼らと求職者が面識が無いとしても、入社後には、貴重な相談相手、情報源となり、転職者にとっては大変心強い存在になります。
 
 最後に、万が一、転職者が転職先で悩んだとしても、零細エージェントは相談に乗ってくれます。
 入社後、早々に辞められたら、自分に対する大切な顧客企業からの自社の評価が著しく損なわれるからです。その点、大手エージェントは、極めてドライで、最悪その企業との取引を止めれば良いことです。そもそも、辞めた事への責任感など感じていません。
 しかし、零細エージェントにとっては、固定した顧客企業を失うことは死活問題ですので、必死になって間に立って調整してくれます。

 

7 零細エージェントとの良質な出会いの為に

 皆さんが、零細エージェントとの良質な出会いをするためには、いくつかのポイントがあります。

  まずは、出会う機会を意図的に作ることです。
 先にご紹介した転職サイトに登録した自身のキャリアシートは、彼らとのお見合い写真です。
 スキルや経験がわかりやすく書かれていますか。
 強みや人柄が浮き彫りになるように書かれていますか。

 自身のキャリアシートを公開し、魅力的なものであれば必ず彼らから連絡が来ます。
 逆に、サイト上で、彼ら、全ての転職エージェントに自分から送信しても良いでしょう。

  隠れた魅力求人案件は、必ずしも公になるわけではありません。
 特に、企業の幹部クラスであれば公募などしません。
 既存の社員にバレたくないからです。
 エージェントの胸の内に隠されています。
 それは、零細のエージェントが密かに抱え込んでいることが多いのです。

  6600万年前に、今のメキシコのユカタン半島に、大きな隕石が落下しました。
 大型の恐竜は絶命し、地球上の殆どの生命は死滅しました。 
 しかしながら、小さな小動物である、私たちの祖先である哺乳類は生き延びました。
 身体の大きさではないのです。

  現に、従業員三人の松本紹介㈱は、ここ築地の干物屋の二階で立派に生き延びています。
 「一旦、干された身であっても」
 「腹を割って話せば」
 「日の光を浴び」
 「賞味期限も伸び」
 「味わいも深くなる」

 帰宅時に、築地の夕日に映えるこれらの干物たちに、自分の姿を照らしあわせている田江忍(たえしのぶ)でした。       (完)

※巻末コメントに、読者の皆様との交流の場のご案内がございます。宜しければご一読いただきご参加いただくと幸いです。

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※毎回、ご一読いただき誠にありがとうございます。書き記した内容は、私川野が大手人材紹介会社の教育研修部長時代に、見聞き、体験した「実話」です。よって、個人名や企業名が判明しないよう若干の表現上の工夫をしたり、現代風にアレンジしております。何卒ご了承願います。

 

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