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本のはなし

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小説、写真集、漫画、絵本…、本についてのあれこれ
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坂の途中の小さなパン屋

坂の途中の小さなパン屋

今月のおはなし会で読んだ絵本の中の一冊、『ネコノテパンヤ』。

属しているおはなし会ボランティア、開催場所が区立図書館の時はその区の図書館所蔵の資料を使うという制限がある。
自分が読み聞かせしたいと思った本が区内の図書館に蔵書がなければ読めない。
それで選書は図書館で毎回やるのだが、なじみのある本の他に読んだことがない本からも何かないかなーと見つけるのも、悩むけれど楽しいひととき。
手に取ったこの

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赤羽末吉が見た内蒙古

赤羽末吉が見た内蒙古

noteをやっててよかったなと思うのは、他の人から教えてもらって自分が知らない世界が開けること。
先日のmakilinさんの映画に続いて、今度は内田Sさんの記事である写真展を知り、ギリギリすべり込み。

半蔵門のJCII Photo Salonでの『写された外地』という写真展。
このサロンがある日本カメラ博物館、初めて知った。すぐ近くの半蔵門ギャラリーには行ったことがあるのに、こちらは全然気づいて

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眠れない夜に -心配事は誰かに肩代わりしてもらおう

眠れない夜に -心配事は誰かに肩代わりしてもらおう

寝つきはいい方だが、ここ数ヶ月ちょっと気がかりな事があり、夜中にふと目覚めてあれこれ考え出してしばらく眠れないことが何度か。
寝ながら考えてもしょうがないようなことだけれど、一度考え出すとそれを頭から追い出せなくなってしまう。
本当に不毛な時間。目覚ましが鳴るまでゆっくり眠りたいのに…。

先日noteでchai-lottaさんの「グアテマラの小さな6人の人形」という記事を読み、そういえばと思い出

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南の島 - 海と本屋

南の島 - 海と本屋

沖縄へ。
今年に入ってコロナも落ち着いてきた頃に計画していたが、出発前に沖縄で感染者数が急増し医療機関が逼迫との報道で、これは注意せねばと気を引き締める。

乗り物やスーパー、人が多い所では暑くてもしっかりマスク。
宿泊はキッチン付きにして、食事はほぼ自炊またはお店の持ち帰り。
旅の目的のほとんどは海だったので、外食しなくても何の不満も無し。

本島でも、移動と食事の買い出し以外は海にいた。
コロ

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出会った人たちの良心で自分はできていると思える幸せ-「水車小屋のネネ」

出会った人たちの良心で自分はできていると思える幸せ-「水車小屋のネネ」

津村記久子最新刊の「水車小屋のネネ」、とてもよかった。

タイトルや可愛い表紙と挿絵は児童書のようで、内容もほんわかしたものなのだろうと思われそうだけれど。
書いてるのがクールな津村記久子なので、甘くてラブリーなおはなしではない。
ネグレクト、貧困、いじめ、家庭内の問題、消えてしまいたいほどの絶望感、マイノリティ、震災、コロナ禍など重い話が40年の長い物語の中で顔を出す。

でも、読後感はあくまで

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電子書籍では味わえない美しい本: 二つの展示

電子書籍では味わえない美しい本: 二つの展示

以前入院していた時は、Kindleにお世話になった。消灯後ライトをつけなくても、眼鏡をかけなくても、栞を使わなくても枕元に積み上げなくても、いつでもどこでも何冊でも読めて、電子書籍って便利だなーと思った。
でも、普段はやっぱり紙の本がいい。

練馬区立美術館で『本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション』。

去年スパイラルであった展覧会で、吉野石膏美術振興財団がアーティスト支援を

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金魚または赤い魚 - 多様性とキム・チュイの話

金魚または赤い魚 - 多様性とキム・チュイの話

カナダ大使館で「多様性の時代を描く作家たち」の講演会。

ゲストスピーカーはカナダの作家キム・チュイ、楊逸、中島京子の3人。
楊逸と中島京子は好きな作家。一方、キム・チュイの本は読んだことがなく、名前は聞いたことあるという程度。
講演に行こうと思ったのも、楊逸と中島京子が話すからという理由だった。特に楊逸はインタビューでの受け応えがいつもおおらかで、楽しい。一度生で聞いてみたいと思っていた。

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祝❗️世界は五反田から始まった

祝❗️世界は五反田から始まった

 第49回大佛次郎賞が、星野博美の『世界は五反田から始まった』に。
星野博美ファンとして、とてもうれしい!
おめでとうございます!

大宅壮一ノンフィクション賞の『転がる香港に苔は生えない』から、著作が出るとずっと読んでいる。『コンニャク屋漂流記』では星野家のルーツが、『島へ免許を取りに行く』では父親と運転練習をする五反田近辺の道路のことが詳細に描かれていて、他の本にもたびたび登場する著者の実家や

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クリスマスの小さなおはなし - 曲芸師、ドラマー・ボーイ、マリアの小鳥

クリスマスの小さなおはなし - 曲芸師、ドラマー・ボーイ、マリアの小鳥

 12月になると、図書館や児童書・絵本書店にはクリスマス関連のコーナーができる。
私も学校司書をしていた時は特設コーナーを作ったり、読書の時間に関連本を読んだりしていた。読み聞かせおばさんをしている区立図書館の親子おはなし会でも、今年はどの本にしようかと選ぶのが楽しみ。

 ある年の12月、6年生の教室で読んだのはバーバラ・クーニーの「ちいさな曲芸師 バーナビー」。

中世の装飾写本のようなクラシ

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マフィアもジョージもベンジャミンも好きなお菓子、カンノーリ/ カンノーロ

マフィアもジョージもベンジャミンも好きなお菓子、カンノーリ/ カンノーロ

カンノーリは複数形、単数形だとカンノーロ。
リコッタチーズのクリームをたっぷり詰めたシチリア生まれのこのお菓子、大好きなのだが皮は揚げてあるので、甘さ控えめでもカロリーは高い。あぶないあぶない。

コロナ以降、録画して以前よりよく観るようになったNHK BS「世界ふれあい街歩き」、昨日はシチリアのカルタジローネの再放送だった。土地の人のおすすめNo.1ドルチェとして、カンノーリが紹介されていた。

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又三郎がやって来そうな午後

又三郎がやって来そうな午後

 今日の午後はものすごい風で、又三郎が転校してきそうな日だった。落ち葉が地面から渦を巻いて吹き上がっていたが、暖かい南風で風速不足だったのか、木枯らし1号認定にはならず。
高田三郎が嘉助や一郎たちの分校にやってきたのは夏休み明けの九月一日だけれど、宮沢賢治の物語はなんとなく秋から冬というイメージがする。

都内で見つけた宮沢賢治な看板。

 宮沢賢治の本はいくつもの出版社からたくさん出ているが、絵

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れんげ、すみれ、たんぽぽ、しろつめくさ、クローバー、カラスノエンドウの野原で - 山脇百合子さんのこと

れんげ、すみれ、たんぽぽ、しろつめくさ、クローバー、カラスノエンドウの野原で - 山脇百合子さんのこと

 画家・絵本作家の山脇百合子さんが先月29日に亡くなられていたとの報道。80歳。

山脇百合子さんといえば、文章を書いた姉の中川李枝子さんとのコンビ『ぐりとぐら』シリーズ。この絵本、ほとんどの日本人が知っている/目にしたことのある国民的絵本なのではないか。我が家も二代にわたりお世話になった。
『ぐりとぐら』シリーズだけでも何冊もあるが、その他にも姉妹で出した児童書や絵本はたくさん。
中川李枝子さん

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デカパンを履いた神- 片山健の油彩

デカパンを履いた神- 片山健の油彩

 今日はまだ暑かったけれど、朝の雲は秋。

武蔵野市立吉祥寺美術館で片山健の油彩画展。

片山健は、自分にとっては武蔵野の人、そしてデカパンをはいた神の人だ。「デカパンをはいた神」は片山氏自身が画集で言っていた言葉。長男が小さかったころ、お鉢が大きな我が子がデカパンをはいて大きな砕氷船みたいな頭に加速度つけてどんどんどんどん歩いていく…みたいなことを書いていた。

展覧会にも、全く同じではないけれ

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さよなら、サンペ

さよなら、サンペ

 ジャン=ジャック・サンペが8/11に亡くなっていた。89歳。母と同い年とは知らなかった。

フランスの国民的漫画家、イラストレーター。長谷川町子みたいな感じ?50年近く前に
文春文庫版の『わんぱくニコラ』でその軽妙洒脱な絵に魅了されて以来、ずっとファン。

 盟友ルネ・ゴシニの文章にサンペが挿絵をつけた、小学生ニコラの日常を綴ったシリーズはその後『プチ・ニコラ』とタイトルを変えて偕成社から何冊も

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