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淡い憧れだけで

淡い憧れだけで

 中古の小さな鍵盤は、四千円もしなかった。

 ハノンの楽譜は千円ちょっと。表紙には「大人からはじめる」と書かれている。

 恐る恐る、注文ボタンを押した。子どもの頃を思い出しながら。

 確か、小学校四年生だったと思う。

 ピアノの教室に、半年だけ通っていた。いや、半年も持たなかったかもしれない。

 教室の事は、断片的な記憶しか残っていない。叩かれた手の甲が痛かった事ばかりを、強烈に覚えてい

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胸に咲く夢

胸に咲く夢

遠い星と銀河を超えて
静かにあなたの船は往く

黒く凍る闇の狭間に
熱く刹那を刻みながら

この星に
繋がれた私には

幾億の星を超え
刻を超え旅をする
あなたが見えなくて

灰色の空
見上げて祈るの

魔法なんて使えないけど
空も自由に飛べないけど

胸に咲く夢ひとつ
歌にする

あなたに届くかな

闇の狭間で
ちいさな道標に
なれるかな

  消えない痛みは
  動力に

  消せない夢を
 

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雨の記憶 【詩と絵 〜実験の欠片〜】

雨の記憶 【詩と絵 〜実験の欠片〜】

そっと窓を開けて
雨を眺めている

街並みを洗う
幾多の雨粒

窓枠に肘をついて
ただ
眺めている

雨の匂いに
滲む記憶

ちいさな長靴と
水たまり
大きな手のぬくもり

シャツを濡らして
走る少年
渡せなかった折り畳み傘

ぼんやりと鮮やかな
幾つもの景色

今はもう失われた
幾つもの景色

そっと窓を閉じて
雨音を聴いている

屋根を叩く
不規則なリズム

灯りもつけず
ただ
聴いている

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9月のブランケット

9月のブランケット

窓の外
鈴虫の鳴き声
うろこ雲に滲む
月あかり

室温は25℃
洗い立てのシーツと
ブランケットを
独り占め

枕元に持ち込んだ
君の苦手なアールグレイ

微睡みに
熊蝉の空耳
入道雲と太陽の幻

室温は25℃
長袖のTシャツと
ブランケットが
丁度いい

ふたりの夏の名残は
指輪の跡の白さだけ



やうさんとのTwitter(現X)での会話から生まれた作品です。

 昨年7月に、やうさんから

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父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』

父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』

「この歌、何だか、お父さんを思い出した」

 私が作詞で参加した、なおがれさんとの共作オリジナル曲を聴いて、母がそう言った。

 父の事を書いた詞ではない。

 でも、確かに、父の事が無かったら、書けなかった詞だ。

 昨夏、長い闘病生活を終えて、父が旅立った。

 覚悟はしていた。

 元々、主治医から「生きているのが不思議だ」と言われていた父だ。最後の入院では、「これ以上、治療の手立ては無い」

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見えない星

見えない星

知ってるんだ
もうすぐ
朝が来る事を

だけど

信じられないんだ
もうすぐ
朝が来るなんて

ブランケットと
シーツの隙間で
震えながら

見えない星を
探してる

信じたいんだ

もうすぐ
朝が来る事を

恋の海葬【ショートショート】(お題「塩人」)

恋の海葬【ショートショート】(お題「塩人」)

「山上サクラさんのお宅ですか?」

 玄関先に訪れた塩人の少年は、貝殻を手にしている。大叔母の言った通りだ。

「サクラは、私の大叔母です。十五年前に他界しました」

 私は懐から、形見の貝殻を取り出し、少年の貝殻に重ねた。



 二枚の貝殻は、僕の手の上で、ぴったりと合った。伯父から聞いていた通りだ。

「僕は、大浜カナメの甥です。伯父は、先月亡くなりました。遺言で、遺灰を届けに来ました」

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アナログ巌流島【ショートショート】

アナログ巌流島【ショートショート】

「10分後、巌流島に着陸します」

 アナウンスを聴いた途端、夫は、防護服のグローブで、私の手を握りしめた。

「巌流島だ! アナログの巌流島!」

「痛いよ。落ち着いて」

「あ、ごめん」

 夫は慌てて手を離し、深呼吸した。こういう素直なところ、可愛いよな。



 古代、人類が防護服無しで、地表で生きていけた頃も、新婚カップルは旅に出たらしい。

 バーチャル旅行全盛の昨今も、新婚旅行は、

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週末は夢の中で生きている【30日間毎日note:その27】

週末は夢の中で生きている【30日間毎日note:その27】

3行日記

貴重な土曜日は、
物語を紡いでばかり。
合間に食事と散歩と、少しの家事。

余談(余談の方が長い)

 このnote、書き始めたのが、21:30です。今日の投稿、間に合うかなあ?

 毎日noteのチャレンジ、平日は、夕食後から翌朝までの間に書いて、19時に予約投稿、というペースが掴めてきたのです。

 おお、これなら、土日は余裕かな? だって、日中に書く時間を取れるもんね。

 と、

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同じ様な絵ばかり描いてしまう【30日間毎日note:その24】

同じ様な絵ばかり描いてしまう【30日間毎日note:その24】

星の名前を
あまりよく知らない。

なのに、
星空の絵ばかり描いてしまう。

紙と色鉛筆でも、
スマホと指先でも、
タブレットとペンシルでも、

同じ様な絵ばかり描いてしまう。

手の赴くままに
空の色を重ね、
星を散りばめて、

繰り返し、繰り返し。

きっとこの先も
何度でも描くのだろう。

見た事の無い筈の
懐かしい景色を。

(イラスト:清水はこべ)