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#小説
法務庁特別審査局調査員・佐伯
ごった返す人々の放つ臭気。汗と熱気がいっしょくたになった猥雑さ。芋飴は公定価格の五〇倍の値段がついている。
闇市の飯屋で、一杯五円の肉入りうどんをその男はすすっていた。
「稼いでるんだろう? なんでこんな場末で食ってる」
「こういう場所のほうがその国の日々の暮らしがわかる」
流暢な日本語でダニエル・リーが答えた。そんなもんかね、と佐伯は言った。
妙なもんだ。佐伯の生きてきた世界では敵
路線バス 魔王城行き
かつてあまねく神の聖地と呼ばれたニネエフの高原とその都は、魔王の手により一晩にして地獄と化した。悪魔と魔獣は跋扈し、緑と土壌は汚染され、それから20年もの間どれほどの民が殺されたか見当もつかない。
そしてそんな魔境において唯一営業が続いている路線バスが存在するのだという。ならば一介の旅好きとして一度乗ってみない訳にはいかないだろう。
早速、その路線バスの途中駅のある北ニネエフ駅前のバス停
派遣で作ろうバベルの塔
突然、上から派遣社員が落ちてきた。地面に叩き付けられた衝撃で、工具がいくつか跳ね上がった。
「バカ野郎! 落ちるならもっと離れたところへ落ちろ! オイ、誰かこれ片付けとけ!」
班長が死体を蹴飛ばし、怒鳴り散らす。いつも具体的に誰にやれと言わないので、誰もやらない。結局は班長が自分でやる羽目になる。
「そっちの作業はいい! 建材の確認と選定が最優先なんだ! 塔に命を吹き込む、重要な工程なん
トリプルブッキング・ミリオンダラー (#逆噴射小説大賞2023)
「事態は最悪と言っていい」
いや、最悪なんて言葉すら生ぬるいかもしれない。警備部長という立場でさえなければ、俺も迷わず逃げ出していたことだろう。
「このカジノは今、3つの勢力に狙われている。もっと正確に言えば、金庫にある100万ドル以上の巨額の資金が、だ」
ひとりでも厄介な犯罪者が、よりにもよって3組同時。しかも、どれも折り紙付きの厄介者どもと来ている。
「まずはこいつ。先月脱獄した
もしもプラズマキャノンがあったなら
もしもプラズマキャノンがあったなら、なんだって壊せるだろう。
もしもプラズマキャノンがあったなら、世界はどんなに色づいて見えるだろう。
ある雨上がりの日、田舎道を軽トラで走っていると、道端にプラズマキャノンが落ちていた。
プラズマキャノンと言っても、然程大げさなものでもない。惑星航行艦の迎撃火器や、新式戦車に使う、変哲も無い単装式収束プラズマキャノンである。
だからと言って、田舎道に転がって
マキコの黒いサンドボックス
企画班リードの棚橋が戦線離脱して3日目。だから会議もこんな調子だ。「ですからァ、Yボタンなんです」
「ロックオンはR3で決まりだ」
プログラム班・日向寺はまだ冷静。さすが堅物。
「バインド変えるだけっしょ? 何そんな渋ってンすか」
棚橋の相棒だった彼は、たぶん潰れるだろう。
仕方のないことだ。
「これが通ったらしまいにゃコアコードに手がでかねん。時期を考えろ。デバッグへの伝達も面倒だ」
「
なぜクトーニアンを殺さなかったのか
リングの中央で、半裸の男が2人、がっちりと組み合っている。
したたる汗と血が、マットの上に、大きな血だまりを作っている。
観客はいない。
否、いなくなっている。
打ち捨てられた鞄、片方だけの靴、踏みつけにされた新聞……それらの痕跡が、ここに超満員の観客がいたことを物語っている。
今は、誰もいない。
がらんとした会場に、男たちの荒い息遣いと、リングの軋む音が、惨憺として響いている。