数奇ニシロ

ぼちぼちやってます。

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トリプルブッキング・ミリオンダラー (#逆噴射小説大賞2023)

「事態は最悪と言っていい」  いや、最悪なんて言葉すら生ぬるいかもしれない。警備部長という立場でさえなければ、俺も迷わず逃げ出していたことだろう。 「このカジノは今、3つの勢力に狙われている。もっと正確に言えば、金庫にある100万ドル以上の巨額の資金が、だ」  ひとりでも厄介な犯罪者が、よりにもよって3組同時。しかも、どれも折り紙付きの厄介者どもと来ている。   「まずはこいつ。先月脱獄した稀代の【詐欺師】、マーニ・フルール」 「へえ、警察用語は難解だな。正門から堂々と

    • 斯くして背徳の街は滅びを賜り (逆噴射2022用)

       夜の雨は嫌いじゃない。濡れた地面に映る、淫靡なネオンの街並み。このイカれた街が硫黄と火に沈む日も、そう遠くないに違いない。  物思いに沈みながら窓の外を眺めていると、隣から水を差された。 「なんだよ、もう飲んでんのか?」  呆れた声を出すその男、名前はなんだったか。覚えちゃいない。どうせ一週間も持てばマシな方だ。 「飲んでねーよ。これは聖水だ」 「アルコール入りの、か? そもそも、聖水は飲むもんじゃねえ」  細かい奴だ。もっとも、神経質な人間の方が、この仕事には向い

      • 流れ落ちる  (#2000字のホラー)

         体が重い。予定外の仕事に、随分手間取られてしまった。もう日付も変わる時間に、ようやく家に帰り着く。息を吐きながら玄関の扉を開けると、途端に水の流れる音が耳に入った。慌てて洗面所に入ると、栓の開いた蛇口から、水が出続けている。 「嘘でしょ。朝からかな」  朝使った時には、たしかに閉めたはずだ。そう思うけれど、確信はない。多少慌てていたから、閉め忘れたのかも。それにしたって、家を出る時に、音で気がつきそうなものだけど。  最近は、こういうことが良くある。ひとつひとつは小さな

      トリプルブッキング・ミリオンダラー (#逆噴射小説大賞2023)