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斯くして背徳の街は滅びを賜り (逆噴射2022用)

 夜の雨は嫌いじゃない。濡れた地面に映る、淫靡なネオンの街並み。このイカれた街が硫黄と火に沈む日も、そう遠くないに違いない。
 物思いに沈みながら窓の外を眺めていると、隣から水を差された。

「なんだよ、もう飲んでんのか?」

 呆れた声を出すその男、名前はなんだったか。覚えちゃいない。どうせ一週間も持てばマシな方だ。

「飲んでねーよ。これは聖水だ」
「アルコール入りの、か? そもそも、聖水は飲むもんじゃねえ」

 細かい奴だ。もっとも、神経質な人間の方が、この仕事には向いている。注意の足りない馬鹿が死ぬ光景は、もう飽きるくらい見てきた。

「そんな調子で大丈夫か? おい、まさか聖粉もキメてないだろうな!?」
「このくらいで丁度いいんだよ……着いたぞ」

 痛む頭を抑えながら、目的の店で車を降りる。店の前には、もう馴染みの面子が顔を揃えていた。
 扉の前に立つ少年が、俺に囁きかける。

「神父様、裏口は抑えてあります」
「オーケー。早速始めよう」

 扉を開け、店に雪崩れ込む。裸の女たちが逃げ惑い、黒服の男たちが向かって来る。無数の弾丸が飛び交い、幾つもの骸を築く。数十秒も経てば、情勢は決する。黒服の亡骸を跨ぎながら、少年の囁きに耳を貸す。
 
「奥の部屋で市長を捕らえました」
「見に行く。潜伏反応は?」
「ありません」

 またハズレだ。舌打ちを漏らしながら、部屋の扉を蹴り開ける。

「そうまでしてこの街が欲しいのかっ、悪魔どもめ!」

 縛りつけられたまま怒鳴り散らす男。醜く肥え太った身体は、なるほど市長に間違いない。
 だが、男の推測は見当違いも甚だしい。こんな背徳に満ちた街を欲しがるのは、それこそ本物の悪魔くらいなものだ。
 無駄口に付き合うつもりは無かった。ひとつ十字を切り、男のこめかみに銃口を押し当てる。

「お祈りは済ませたか?」

 濁り切った目が、こちらを向いた。

「地獄に堕ちろ」
「お前の後でな」

 乾いた炸裂音が響いた。

【続く】

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