![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/120108696/rectangle_large_type_2_91fec4e761dc5942491c93df798cc0a3.jpeg?width=800)
トリプルブッキング・ミリオンダラー (#逆噴射小説大賞2023)
「事態は最悪と言っていい」
いや、最悪なんて言葉すら生ぬるいかもしれない。警備部長という立場でさえなければ、俺も迷わず逃げ出していたことだろう。
「このカジノは今、3つの勢力に狙われている。もっと正確に言えば、金庫にある100万ドル以上の巨額の資金が、だ」
ひとりでも厄介な犯罪者が、よりにもよって3組同時。しかも、どれも折り紙付きの厄介者どもと来ている。
「まずはこいつ。先月脱獄した稀代の【詐欺師】、マーニ・フルール」
「へえ、警察用語は難解だな。正門から堂々と出ていくのも、最近は脱獄って呼ぶのか?」
「んなこと知らねえよ。俺だって、もう警察の人間じゃないんだ」
実際、奴の脱獄事件は謎だらけだ。わかっているのは、奴が警察すら易々と騙してみせたってこと。そして、腕利きの犯罪者どもを何人も仲間に引き入れているってことだ。
「そしてふたつ目。傭兵くずれ共の武装集団、灰のクレール。こいつらは、力尽くで襲撃をかけて来るはずだ」
「うへえ、一番苦手なタイプだ」
このカジノも、一介の民間組織とは思えない大袈裟な戦力を有してはいる。それでも、戦闘のプロを相手取るのは厳しいと言わざるを得ない。しかも、相手はただの武装集団ではない。虐殺も殲滅も実績があり過ぎる、その道の超ベテラン集団だ。
「それで? 最後はゴジラでも出てくるんじゃないだろうな?」
「残念ながらハズレだ。中を見てみろ」
懐から取り出した封筒を投げ渡す。
怪訝な顔で受け取った男は、中身を見てすぐに顔色を変えた。
「おいおいこれは……」
「そう、【怪盗】からの予告状だ。こいつはお前の担当だろ。な、【探偵】さん?」
「その名前で呼ぶなよ。別に好きでやってるわけじゃない。しかし、あの変態まで出てくるとなるといよいよ……」
「早速何かわかったのか?」
期待を込めた言葉に、探偵は苦い顔で答えた。
「奴らの狙いは金なんかじゃない。もっととんでもなくヤバイ物だ」
【続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?