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トリプルブッキング・ミリオンダラー (#逆噴射小説大賞2023)

「事態は最悪と言っていい」

 いや、最悪なんて言葉すら生ぬるいかもしれない。警備部長という立場でさえなければ、俺も迷わず逃げ出していたことだろう。

「このカジノは今、3つの勢力に狙われている。もっと正確に言えば、金庫にある100万ドル以上の巨額の資金が、だ」

 ひとりでも厄介な犯罪者が、よりにもよって3組同時。しかも、どれも折り紙付きの厄介者どもと来ている。
 
「まずはこいつ。先月脱獄した稀代の【詐欺師】、マーニ・フルール」
「へえ、警察用語は難解だな。正門から堂々と出ていくのも、最近は脱獄って呼ぶのか?」
「んなこと知らねえよ。俺だって、もう警察の人間じゃないんだ」

 実際、奴の脱獄事件は謎だらけだ。わかっているのは、奴が警察すら易々と騙してみせたってこと。そして、腕利きの犯罪者どもを何人も仲間に引き入れているってことだ。

「そしてふたつ目。傭兵くずれ共の武装集団、灰のクレール。こいつらは、力尽くで襲撃をかけて来るはずだ」
「うへえ、一番苦手なタイプだ」

 このカジノも、一介の民間組織とは思えない大袈裟な戦力を有してはいる。それでも、戦闘のプロを相手取るのは厳しいと言わざるを得ない。しかも、相手はただの武装集団ではない。虐殺も殲滅も実績があり過ぎる、その道の超ベテラン集団だ。

「それで? 最後はゴジラでも出てくるんじゃないだろうな?」
「残念ながらハズレだ。中を見てみろ」

 懐から取り出した封筒を投げ渡す。
 怪訝な顔で受け取った男は、中身を見てすぐに顔色を変えた。

「おいおいこれは……」
「そう、【怪盗】からの予告状だ。こいつはお前の担当だろ。な、【探偵】さん?」
「その名前で呼ぶなよ。別に好きでやってるわけじゃない。しかし、あの変態まで出てくるとなるといよいよ……」
「早速何かわかったのか?」

 期待を込めた言葉に、探偵は苦い顔で答えた。

「奴らの狙いは金なんかじゃない。もっととんでもなくヤバイ物だ」

【続く】

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