ゾンビ・ヒロミゴ
怪談を聞くため、全国津々浦々を巡り歩いている「あなた」。「あなた」は今日も、人々が語った異様な物語を聞き返している── インタビュー形式の創作怪談小説です。
七七志信は、同学年と比べ小さい体をさらに縮こまらせた。 派手なアクセサリーやらピアスやらを十二分に着けた外星人3人に周囲を固められていたからである。 ギラギラと輝き蛾を吸い寄せる蛍光灯がランドセルを照らし、スピーカーからの重低音が腹に響く中、頭上では知らない言葉が交わされている。時折触手で出来た男がずろずろと体に手を這わすので、鳥肌が止まらない。 虎に似た容姿の女が口元をぐにゃりと歪める。志信は恐怖でどうにかなりそうであった。 どうしてこんなことになったんだっけ、と
「私、大学生の時に新聞サークルに入ってたんです」 その日Aさんは先輩の運転する車に揺られ、カメラマンとして取材に同行していた。 ちょうど季節は夏の初め頃、めいめいの大学が心霊特集を組み始める頃合いである。 Aさんのサークルも例外ではなく、2人はある程度のの時間をかけてとある山の廃神社へとやってきた。鬱蒼と茂った森の中に廃神社だけがぽつねんとあり、その場所は夜中に訪れると寒気がして幽霊が出てくるとか、ありきたりな噂のある場所であった。 Aさんが写真を撮っていると、B先
平成の中頃の話である。 ある真夜中、Cさんは玄関扉を激しく叩かれる音で目を覚ました。 眠い目を擦りながら扉の方をじっと見続けていると、その来訪者は、一定の間隔で扉を叩いてきたらしい。扉の隣にはチャイムがあったが、何故か鳴らそうとしない。チャイムが壊れている訳でもないのに、と考えながら、Cさんはボンヤリとノック音を聞いていたそうだ。 だんだんと意識がしっかりしてきた時、ふと気づく。 当時住んでいたこの学生マンションは、オートロック付きの物件であった。1階の正面玄関で
キミコは診察室をぐるりと見渡した。 白く清潔感のある壁に、分厚い本が何冊か置かれた机。アクリル製のパーテーション越しに、カルテを記入している医師の姿が見える。無駄がないインテリアだが、彩りもない。自身の、ふっくらとした柔らかい手を揉む。どうも居心地が悪く、丸椅子の上で身じろいでしまう。 「小鶴キミコさんですね。僕は凸森といいます。本日はどうされましたか」 「あ……えぇ、その、変なことを言うようではあるんですが……娘にねぇ、病院へ行きなさい! なんて言われたもんですから」
手のひら程度の大きさの少女の遺体が横たわっている。尻まである金髪には泥が絡まり、小枝ほどの細さの白い四肢は不自然に折れ曲がっている。全身を激しく打ち付けたのか、あざが酷く痛ましい。その遺体を、教会の使者は丁寧に麻布へと包んだ。 「あぁ、フレデリカ……」 憔悴しきった顔を婦人は痩せた手で覆う。ぶるぶると震えるその体を、ドゥールイット男爵は撫でた。窓のない薄暗い応接間に嗚咽が響く中、男爵は机上を見渡した。 決して狭くないその場所には、膨らんだ麻布がゆうに数十個は積まれ
「では薬を変えてみましょう。少し日中の眠気が強いかもしれないので、また教えてください」 事務的にそう言う主治医の顔が思い出せない。長らく、病院へは薬を貰うためだけに通っている気がする。僕も診察の時はずっと下を向いているばかりなので、その態度も良くないのかもしれない。診察室の椅子は床に固定されて、座った時にちょうど右のつま先の下あたりにある汚れは鮮明に覚えてしまった。 一包化された入眠剤と安定剤、その他色々な錠剤たちは、昔より随分と増えた。それを飲み下し、床に就く。枕元
再生開始 こんな大晦日まで、ご苦労やなぁ。暇なんか、アンタ。 オレみてぇなルンペン相手に、よくずかずか入り込めるなぁ。大したもんや。うん。近頃の若ぇ奴らン中にゃ、わざわざ電話かまえて、オレらを見せモンみてぇにパシャパシャ撮る輩もおるもんやから、どうもこうやってなぁ……対等ぉーに、話してもらえると、みょーに嬉しぃんや、これが! へへ! 飲めや! 飲めや! ハァ……アンタ、怖い話が好きなんやってな。茂ちゃんから聞いたわ。あの、ハゲの歯無しのジジイや。昨日、言いふらしと
「90年代の、終わり頃の年の話なんですけど」 当時大学生だったAさんは、夏休みのある晩、友人や後輩と共に廃病院を訪れていた。 その病院は、関東の肝試しスポットとして学生間で有名であったそうだ。 広い駐車場に車を停め、ぞろぞろと男ばかりが降りてくる。勢いに任せた肝試しだ。 「肝試しとか別に興味ないっすよ」 「ヤバそうならすぐ帰ろうぜ。カメラ、よろしく!」 「はい……」 この時代はまだ携帯電話の普及が一般的でなく、写真を撮る際はもっぱらインスタントカメラを持ち歩いて
再生開始 ……あ、もう話していいんですか。わかりました。 えっと、四倉敦也です。██市の███で、████として働いています。 5年前の話です。 僕は、県内からの学生がほとんどを占めるような、地方の大学に通っていました。別にやりたいこともなくて、適当に推薦で入った大学です。 たくさんバイトして金稼いで遊んでやろう、って思ってたんですけど、1年生は全員、どこかサークルや部活に所属しないといけなかったんですよね。中学校ならまだしも、大学ですよ? そんな制度があるな
インターホンは、良くない。 ある夏の日の夜、一人暮らしのAさんの部屋のインターホンが鳴った。 時刻は午後10時。この日、約束をしている知人等はいなかったが、Aさんは迷うことなく玄関へと向かったそうだ。 というのも、Aさんの住むマンションの付近には、友人達が多く住んでいたらしい。酔っ払ってアポ無しで訪ねてくる者もいたのだという。これから飲みに行くのも悪くない……そう考えながらAさんは、ドアの覗き穴を覗いた。 真っ暗で、なにも見えない。 おおかた、ドアの向こうで酔
コンサート中に決して聞くことはないであろう不協和音が響きわたった。 それは曲を弾き鳴らしていた指全てが鍵盤にしたたか打ち付けられた音で、俺の手首から先は無常にも床に力なく転がっていた。 誰かのけたたましい悲鳴を皮切りに、ホールいっぱいの観客達が逃げ惑いはじめる。俺は自分の手首をただただ見つめることしかできない。 「手荒な真似をしてすまない」 不意に、背後から声が聞こえた。 少年が立っている。目深に被ったローブの内からは、金色の毛髪と、同じ色の瞳が見えた。いつ触れ
「ちょっと相談したいことがあるんだけどさぁ」 Aさんが中学生の時の、ある秋の日のことである。学校からの帰り道で、突然友人のBからこう話を切り出されたそうだ。 「悩みって?」 「うーん、あの〜その……」 「なんだよ、言ってみろよ」 照れているのか、口をモゴモゴと動かしている。若干気持ち悪いBの様子を訝しみながら、Aさんは聞き返した。 「……やっぱり明日でいい?」 「はぁ? まぁ、いいよ」 「ありがと! 明日頼むな!」 礼を言うと、Bは一人でさっさと帰っていった。
人の家に泊まるのはよくない、という話だ。 昭和の頃。 当時小学生だったAさんには、Fくんという友人がいた。 彼は物静かで、クラスの中心的な立ち位置にいたAさんとは正反対の性格だった。大変仲が良く、お互いの家を行き来するような仲だったという。 小学校の内外問わず、他の友人らを交えて共に遊んでいたそうだ。 夏休みということもあり、その日もFくんの家に泊まりにきていた。和気あいあいと食事、入浴を済ませて、いつものように2階のFくんの部屋に向かう。 「あ、そうだ。1階