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眠り間【2000字のホラー】
「では薬を変えてみましょう。少し日中の眠気が強いかもしれないので、また教えてください」
事務的にそう言う主治医の顔が思い出せない。長らく、病院へは薬を貰うためだけに通っている気がする。僕も診察の時はずっと下を向いているばかりなので、その態度も良くないのかもしれない。診察室の椅子は床に固定されて、座った時にちょうど右のつま先の下あたりにある汚れは鮮明に覚えてしまった。
一包化された入眠剤と安
流転せしアングラード・ラ・オルテ
コンサート中に決して聞くことはないであろう不協和音が響きわたった。
それは曲を弾き鳴らしていた指全てが鍵盤にしたたか打ち付けられた音で、俺の手首から先は無常にも床に力なく転がっていた。
誰かのけたたましい悲鳴を皮切りに、ホールいっぱいの観客達が逃げ惑いはじめる。俺は自分の手首をただただ見つめることしかできない。
「手荒な真似をしてすまない」
不意に、背後から声が聞こえた。
少年が立っ