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グレイテスト

ずっと考えていた、この国における大統領とは何かと。

ウェスタン・ワールドの代表、世界一強国のトップ、民主陣営のリーダーなど聞こえはいいが、現実では大統領の発言を切り取った動画がネット上に溢れ、大統領をどれほど口汚く罵っても起訴されない、自分に起こる不幸は全部大統領のせい。フィクションでは大統領は格闘家に脅され、企業の犬や秘密結社の傀儡として描かれている。まるでフリー素材扱い。誰も大統領に敬意を払っていないのが現状だ。

因みに秘密結社は本当にあった。先代大統領のジョーダンは紹介したい人がいると言って俺に目隠しをさせてとこかに連れていった。目隠しを外すと、目の前赤いフードを被った連中が大きなテーブルを囲んでいた。奴らは自分たちを賢者だとか言って、この国の真の支配者やら、紀元前から存在しているやら、どこにも潜んでいるとか、大仰なスピーチをかましてきた。そして「君はこれから我らの飼い犬だ。よく仕えよ」のところで俺は我慢ならなくてその場にいる全員を殴って、投げて殺害した。俺は空手と柔道の黒帯だ。

そのまま私兵部隊を蹴散らして賢者の砦から脱出できた。月と星座の位置からここがユタの東北部だと推測した俺はひたすら歩いた。スマホも飲み水もない。ガラガラヘビの血肉で生きながらえる極限状態だが、意外と心が安らぐ。ここに恩知らずの民衆はいない。理不尽な批評はここに届かない。あるのは天と地、そしてガラガラヘビだけ。ここ数年間初めて自由を感じた。

しかしこれも多分仮初に自由だ。賢者どもの言葉が頭によぎる。どこにも潜んでいるだと?面白い、ならば炙り出してやろうではないか。俺は心決めた。

3日目の朝、やっと民家に出逢えた。家主の厚意で水を一杯頂いたあと、国防長官に電話をかけた。

『もしもし』
「ロバート、俺だ」
『大統領!?ご無事で』
「ああ。それより頼みたいことがある。今から伝える座標にフットボールを持ってきてくれ」

(続く)


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