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かきもの

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#小説

【小説】朝、出かける準備をするだけでも。

【小説】朝、出かける準備をするだけでも。

※ウツと診断された登場人物が出てきます。症状に関する描写があるので、気になる方は読むのをお控えください。

朝、今日は出社できるかも、とヨウコは枕元のスマホを開く。目覚ましより、少し早い。

目覚ましを少し過ぎただけで、起きる気力が無くなった日もあった。今日はまだマシだ。

ひんやりした空気。

上着をひっかけ、洗面所に向かう。いつからか、顔を洗う時、手で水をすくうのではなく、両方の手のひらを濡ら

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小説を書き直す作業。

小説を書き直す作業。

今日は昨日より、どこか憂うつで。

外に生えている木々が日に照らされ、窓のブラインドに陰をつくっている。時々風に吹かれ、陰がゆらゆら揺れていて、それを眺めていると、心が外を散歩しているような、そんな心持ちになる。

以前書いた小説「蝉しぐれ。」を書き直している。読み返すうちに、物足りなくなったというか、もっと作り込みたくなった。

梶井基次郎の「檸檬」などは、京都の街並みを見て歩き、そこで過ごした

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【小説】蝉しぐれ。

【小説】蝉しぐれ。

プールの次の授業が古文というのは、どうかしている。案の定、クラスの半数は寝こけていて、その他の人も普段ほどは集中できず、ゆるんだ空気が流れている。

初夏は好きだ。まださほど蒸し暑くなく、風が心地よい。ほんの少し湿った、新緑の空気をはこんでくる。木陰にすわって、本を読みながらまどろむのなんて、最高に違いない。

朱里はふと窓辺に目をやった。学は窓ぎわの、前から三番目の席。頬づえをついて、窓のそとを

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【短編】好きだけど、一緒に居られるわけじゃない。

久々に彼と会う。
彼は珍しく残業が早く済んで、私も珍しく残業があったので、同じくらいの時間になった。
お腹が空いていないので、あっさりしたミネストローネだけ頼む。
彼はもともとそんなに食べない人だから、コーヒーを頼んでいた。

近くに座っているカップルの彼女さんの方が、早くも酔っ払っていて叫んでいたので、離れた席に移動させてもらう。
彼氏さんの方は
(静かにっ!)
と諭しているけれど、嬉しそうだ。

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【短編】信じる愛、受け止める愛。

「みなこ…」
最近の彼の寝言。知らない女の名前。
ねえ、こういうの、まじ聞きたくないんですけど。
そう思う。
広々寝たいから、とダブルでは無くおそろいのシングルベットを繋げている。
おそろいのシーツ、おそろいの毛布、おそろいのパジャマ。…枕だけは、好みが違うので別々。

同床異夢と言うけれど…誰の夢を見ているんだ!?
嫌になる。夜中にふと、起きてしまった自分を呪う。

でも正直、彼が浮気をする暇は

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