【短編】好きだけど、一緒に居られるわけじゃない。

久々に彼と会う。
彼は珍しく残業が早く済んで、私も珍しく残業があったので、同じくらいの時間になった。
お腹が空いていないので、あっさりしたミネストローネだけ頼む。
彼はもともとそんなに食べない人だから、コーヒーを頼んでいた。

近くに座っているカップルの彼女さんの方が、早くも酔っ払っていて叫んでいたので、離れた席に移動させてもらう。
彼氏さんの方は
(静かにっ!)
と諭しているけれど、嬉しそうだ。

「ねぇ、」
疲れていたので、しばらくぼぅっとしていると、コーヒーが運ばれきた。
彼が緩やかな沈黙を破る。
「やっと、私以外に好きな人ができたんでしょう」

「あら」
私のスープも運ばれてきた。
遠くのカップルは、彼女さんが彼氏さんの膝に乗ってはしゃいでいる。可愛い。
大多数のお客さんは、迷惑そう。
そりゃそうだ。
「わかった?」
私は、心地よく疲れた顔で微笑んだ。
「最近めっきり連絡こなかったから。だる絡みも少なくなったし。」
「あ…、だる絡みしてて、すみません…」
「それはいいよ、少しだけ疲れるけど」
「ありゃ、ありがとうございます」
「どんな人?」
「ん…でも、具体的な関係の人では無いですよ。まだ片想いというか、そういう小さな恋を、幾つかしているだけ」
ミネストローネを一口飲む。
あったかくて美味しい。
お肉があまり入っていないのに、スープが濃いのが嬉しい。
「ふーん、でもその方が健康に良さそう」
「ふふ。でもね、無理に貴方を忘れようとはしていないんですよ」
「それはね、無理にしなくていいよ。
こないだみたいに、泣きながら電話かけてこられると、困る」
「それは本当に…すみません」
「いいよ、可愛いから」
「…またそういうことを」
「妹みたいに」
「…振り回すなよーぅ」
「振り回されているのは君、私はただ言葉を発しただけ」
…この人、少し私と離れるのを寂しがっていないか?
可愛いやつめ。
彼女もちの彼と、相談という口実で時々デートするようになったのは、ここ一年くらいのこと。
彼女公認の、お邪魔虫だ。
先月、彼らはめでたく婚約した。
私がいい刺激になって、彼女の気を引けたのかもね、
と彼は笑うけど、多分それは、ほんの冗談で、
彼らが今までコツコツ組み立ててきた、二人だけのお城がついに完成する!
という時に、私がふらっと引っかかってしまった、ただそれだけなのだ。

「どんな人たち?その、君が好きな人は」
「こんな人たち」
と、スマホの画面を見せる。
「ん…、忘れてたわ。貴女、意外と惚れっぽかったよね」
「あら、覚えていてくださったの」
嬉しいわ、と微笑む。
彼はコーヒーのおかわりを頼もうとして、カフェ・オ・レに変えた。
「ここのカフェ、タカナシの牛乳出してくれるから」
「あ、いいですね、それ。私もお紅茶頼もう」
またスープを飲みきらないうちに、私は、時間稼ぎの方法を考えていた。

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