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謎の会社「出前やかた」の呪い⑤

決断

出前やかたから謎の請求書がきてから高山社長の会社ではトラブルが多く発生しているらしい。

従業員の交通事故。水道トラブル。機器の故障。売上も減少している。

偶然なのか?呪いなのか?ここはわからない。

請求書には微かな呪いを感じるしサポートセンターが呪われていたのは実感した。

高山社長は一刻も早く祓いたがっている。向こうもそれをわかってか時間稼ぎをしたり有耶無耶にしようとしている。

高山社長と落としどころを協議すると次回の電話でけりをつけろと。

呪いを祓うことを優先し取引中止つまり加盟店脱退も厭わないと。


対決

俺は少し複雑な心境だった。

そもそもこのミッションは高山社長の会社に降りかかる呪いを祓うことだ。
その視点でいえば加盟店脱退して取引を辞める。そして請求書に憑いている呪いを祓えば簡単に終わる。

だが、出前やかた本体にいる呪いを知った上で放置するのは気が引ける。

いや、オカルトハンターとしては負けを認めることだ。しかし本体の呪いを祓うのは今回のミッションではない。個人的な意地だ。

しかも請求書にすら呪いをつけられる上級の奴だ。俺の能力では真正面から当たって五分五分だろう。姿を現すことすらしない相手に対抗する手段はない。

こういう仕事をしていればよくある事だ。

解決の道は見えているのに自分の意地が邪魔をする。しかし勝算はない。
割り切れと自分に言い聞かせていると電話が鳴った。

沢村だ。

「前回の件ですが本部の回答をご報告いたします。」

相変わらず申し訳なさそうに言う。

「弊社といたしましては1%の5日後払い手数料が翌月請求になるとご説明しておりますので振込手数料は御社にご負担いただきたいとの回答でした。」

やはりそうきたか。

1%分つまり請求額20円を次回の請求の際に相殺するのはできないのかと聞いた。

そこは沢村が気を利かして問い合わせてくれたようだ。だがそれも出来ないらしい。あくまで20円をこちらから振り込ませたいようだ。

俺は意を決し高山社長の最終見解を告げた。

「20円は払う意志があります。ただしこの請求はそちらの都合により発生しております。20円を回収する経費の負担は御社側にあって弊社には経費負担の義務はないと考えますし、経費負担の合意もありません。」

「よって回収方法は御社におまかせいたします。」

「はい。そのように伝えておきます。」沢村も予想していたのだろう。覇気のない返事をした。

「今までの経緯から御社とは信頼関係が築けないので加盟店を脱退いたします。」

今度も沢村は驚くわけでもなく淡々と退会手続きを進めてくれた。ただ少し残念そうな印象が伝わってきた。

電話の最後に
「沢村さん。あなたは良くやってくれました。ありがとうございます。」と伝えた。

沢村は「こちらこそ色々とご迷惑をお掛けしました。」と応えてくれた。

俺は沢村に呪いが及ばないことを祈りながら
「沢村も俺と同じように葛藤しながら仕事だと割り切ったのだろう」
と思い心の中で硬い握手をした。


報告

結果を電話で伝えてはいたものの高山社長と直接会ったのは一週間後だった。

請求書に憑いていた呪いもこちらで祓っておいたので会社に起きていたトラブルも全て良い方に向かっているとのこと。

ミッションは無事にクリア出来たようだ。

出前やかたからの接触もなく安心しているとのこと。

まあ向こうとしても直接20円を取りに高山社長の会社に来るか裁判を起こすくらいしか手はない。現実的には無理だろう。

再度、同様の請求書を送ってくることも考えられるがそこはこちらが縛りをかけている。

すでに論点は請求金額ではなく支払い方法になっている。
こちらは支払いには合意している。支払いの経費負担が論点なので出前やかたがどう回収するかに論点を整理してあるので向こうの問題として残っているだけでこちらには問題は残っていない。

一種の呪い返しのようなものだ。


そもそも呪いが発動するには条件がある。

呪いを対象者に込め、その対象者が呪いを認識することだ。
認識することで恐怖や不安になる。
その恐怖や不安が出来事をネガティブに捉えるようになる。
さらに負の感情や悪い出来事を引き寄せるようになる。
それが呪いの本質だ。その後は様々に派生していくのだが。
具現化までしていたら相当大変だ。

だが呪いを祓うのも軽度のものなら意外と単純で呪いを認めなければいいだけだ。

ただ呪いかもと認識してしまった人は自分ではなかなか難しい。
呪いなんかない。と思っても心のどこかでもしかしたらと思ってしまう。

そこでオカルトハンターが理論的にこうですよと説明して納得させることで祓う。もしくは人間の良心に照らして自分の行動が間違ってている事を気づかせる。

今回の場合、高山社長は20円の請求書がきた時に前回のトラブルを思い出し呪いと認識してしまったのだろう。

サポートセンターの連中も不毛な業務を強いられるストレスから呪いを認識していったのかもしれない。

沢村は仕事に矛盾を抱えながらも仕事と割り切った。さらに人間としての心を持ち続けて出来る範囲で対応しようとの姿勢があったので発動しなかったのだろう。


合理化や効率化の名のもとにテクノロジーが支配していく。
それと同時に人間としての良さや柔軟な対応が非効率の名のもとに失われていっているのではないだろうか。

そんな矛盾や心の隙をついてまたどこかで呪いが発動していくのであろう。

※この物語はフィクションです。固有名詞は架空のものです。

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