もふもふぺろん

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才能、そしてライフワーク

「頭のよさ」を決める最大の変数は努力した時間である、という言説を最近たまたま書籍や記事で何度か目にした。いわゆる「才能」チックなものも、そうだと思う。世界的に有名な演奏家やオリンピックで活躍するアスリートと私を隔てる最も決定的な要素は、一つのことに費やした時間であるはずだ。(もちろん、身体の作りなど変数は他にいくつもあるけれど)

「才能」は先天的なものではなく努力によっていかようにもなる可能

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幸せを通過する

帰り道、バスの窓から小料理屋のほの明るい磨りガラスを見た。小さな店だけれど、夜な夜な常連客が集まってお酒を飲み交わすのだろう。

小料理屋の前を、腕を組んだ男女が通りすぎるのを見た。親しげに顔を寄せ合って笑っている。

寂れた町のあちらこちらに、両手にあまるほどの幸せが転がっている。
それは、蛍光灯が鈍く光る車内でがたがたと揺られている私の腕の中にはないものだ。
胸の奥をぎゅっと掴まれた気がして、

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きみのすきな牛乳を

秋が終わりに近づき、今年もまた、流し台にマグカップとティースプーンが置かれるようになった。
夜、家に帰ってきてそれらを洗いながら、あっという間の一年だったな、なんて感慨にふけったりする。

母親が「ココナッツの匂いがやっぱりだめで・・・」とくれたココナッツオイルは、どうやら私にも合わなかったらしい。
摂りはじめてから胃腸が重く痛む日が続き、摂取をやめたらケロリと治った。
ココナッツオイルによる腹痛

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ある秋の日の

食欲の秋。空気が澄んでいるからか、町に漂う美味しいものの匂いに敏感になっている気がする。ペペロンチーノが美味しいイタリアンの前で、インド人がナンを焼くカレー屋が佇む通りで、豚骨ラーメン屋のダクトのそばで、せわしなく鼻をひくつかせては、幸せな気持ちに浸る。

夜、駅前の居酒屋から流れてきた焼き魚の香りに、幼い頃見ていた風景をふと呼び起こされて動揺した。
端から番号の振られた団地が夕陽を遮って並ぶ、日

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こんなにもこんなにも書くことを愛してる

久しぶりに、好きなことを好きなだけ書いた。
最後に散文めいたものを書いたのは去年の大晦日だったから、もう一年の四分の三を、何も書かずに過ごしてきたらしい。

書かない、というよりも、書きたくない、書けない、だった。轟々と押し寄せる日常に足をとられて、感情は柔軟性を失い、文字にするべきものなど何も手にしていない気がした。もうすっかり、私の言葉は枯れてしまったのだと思った。

小さい頃から、時間が許す

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大さじ一杯のカイエンペッパー

幸せな夢を見ては目を覚まして泣いて、驚くほどゆっくりと明ける夜に呼吸を止められてしまいそうな夏があった。
八方塞がりの私を救ってくれたのは、きっと料理だったのだと思う。

一人で遠くに出かけては物珍しい調味料や食材を買い集め、夢中でレシピ集のページを繰った。
つやつやと光る野菜に包丁を入れ、焼いたり炒めたり蒸したり煮込んだりと忙しくしている間は無心になれた。

キッチンに、スパイスの小瓶が少しずつ

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もういくつ寝ると

朝から雨。国道の排気ガスが湿気にまとわりついて、東南アジア諸国のような濃厚なにおいがする。
空が灰色の日は特に憂鬱だけれど、今日は少し違う。後四回寝たらキャンプ、だなんて、子供みたいに胸をときめかせている。

昔からインドアを具現化したような人間だったので、これほどキャンプに魅せられるようになるとは思ってもみなかった。でも、キャンプって想像よりずっとのんびりとした遊びで、行く度に思う存分だらだらし

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冬の色を教えて

冷たい風に吹かれる度に、胸の奥がきゅっと縮む。
秋の始まりではなく、夏の終わりなのだと言い張りたい。喪失感ばかりが募って、足が止まる。

ギラギラと眩しい黄色や深いブルー、瑞々しく弾ける赤と風にはためく白、そんな色に満ちた日常がみるみるうちに遠ざかる。
冬の世界には鮮やかさがない。日本茶、灰色の薄いホットカーペット、除夜の鐘。みっしりと物が詰まった小さな部屋で、縮こまりながら夜をやり過ごす。
暖房

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