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三番サード大滝

俺がキャプテンになり、このチームは変わった。良くも悪くも。

優勝候補と謳われる強豪校に思いの他接戦をする理由は何か、一つはうちのバッテリーにある。ストイックな真澄、狡猾の鷲尾、このコンビは所謂ホンモノだ。上位打線も良い。安定の白星に技巧派の藤谷。そして俺の後ろに控えるスラッガー金子。高校生と思えぬ強靱な肉体が放つ威圧感は強豪校のピッチャーをも萎縮させる。その後ろには秀才、桑田も控えている。

白星が出塁し現在ツーアウト一塁。藤谷と俺が満塁で金子に繋げば……この試合、本当に可能性があるかもしれない。弱小校と馬鹿にされ続け三年間、ようやく悲願の時が来た。一年二年と大して上手くも無い先輩が年功序列を理由に試合に出てナアナアなまま夏を終える……この因習を変えたのは俺だ。目指すは『勝利』そのお陰でスタメン落ちした三年生も一人いる。檜山、誰よりも努力家で、誰よりも野球が下手な男。苦楽を共にした、昔馴染みの俺の親友。

……迷うな。後ろに道はない。振り切れ、迷いを、敗北を。俺がキャプテンになり、何人部活を辞めた?迷うな、全て背負え、報いの形は『勝利』しかない。藤谷、繋げ。俺たちは勝つ。『俺たちの代で、甲子園を目指します』キャプテン就任の挨拶で、先輩達は笑ったよな。あの時の嘲笑をかき消す、高笑いをしてやろうぜ!

スパンッッ

キャッチャーミットに響く乾いた破裂音。現実は非情だ。ピッチャーの球威はやっと本腰といったところ、その球速は最速146kmとの噂がある。「チェンジ!」高らかな宣言が球場をかき乱す。……挫けるな、迷うな、突き進め。俺はキャプテンなんだから。

自分で選んだ道は、自分の手で正しい道にするんだ。


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