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毒蜘蛛うじゃうじゃ鳥肌MAX!差別や偏見に対するメッセージが込められた社会派スパイダーパニックムービー「スパイダー/増殖」現在上映中【ホラー映画を毎日観るナレーター】(697日目)

「スパイダー/増殖」(2023)
セバスチャン•ヴァニセック監督

◆あらすじ
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パリ郊外のアパートで暮らすエキゾチックアニマル愛好家の青年カレブは、珍しい種類の毒グモを手に入れる。心配する店員をよそに自信満々でクモを自宅に持ち帰ったカレブは、一時的にスニーカーの空き箱にクモを入れておくことに。スニーカーの転売で日銭を稼ぐカレブは、同じアパートの住人トゥマニにスニーカーを売るが、その直後、トゥマニは原因不明の突然死を遂げる。警察は未知のウイルスが発生していると判断して建物を封鎖し、住民たちは閉じ込められてしまう。一方、カレブのもとから逃げ出した毒グモは驚異的なスピードで繁殖していき、住民たちを襲いはじめる。(映画.comより引用)
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公式サイト↓

公開前から楽しみにしていたフランス発の蜘蛛盛り沢山のパニックホラーです。

個人的に虫系のホラー映画は“怖い”というよりも“キモい”を摂取するものだと思っていましたが、今作に関しては蜘蛛のキモさはもちろんのこと、移民や貧困などをテーマにした社会派な側面を持ち合わせており、非常に見応えがあって面白かったです。

詳しくは後述しますが、“その不気味なビジュアルだけで嫌われることが多い蜘蛛”“移民や貧困層が社会から受けている差別や偏見”に対するメタファーであり、『あなたは外部からやってくるモノが何かを知ろうともせずに拒絶していませんか?異物だと思い込んでいませんか?』というメッセージ性が込められており、考えさせられるものがありました。

蜘蛛と蜘蛛の巣まみれの全長数十メートルの廊下を歩くシーンは思わず目を背けたくなりました。(映画.comより引用)

また基本的にこういうモンスターパニック系の作品は、脅威の対象となる動物や虫は生物兵器にするための遺伝子操作なり、突然変異なり何かしらの方法で巨大化して暴れ回るという設定が非常に多いです。そのため、今作のように等身大の蜘蛛が大繁殖し、えげつない数となって主人公たちが暮らすアパートを占拠してしまうというのは新しさもあってすごく良かったです。

撮影のために本物の蜘蛛を200匹用意したそうです。
(映画.comより引用)

この蜘蛛が非常に厄介で、放置してたら爆速で成長して大きくなるし、潰せば子蜘蛛がウジャウジャ出てくるし、噛まれたら卵を産み付けられるし、毒もあります。こんなヤバい蜘蛛がアパートを占拠するほどの数になり、狭い隙間から侵入して住人たちを言うなれば苗床のようにしていきます。

ここまで聞くとなんかちょっとエイリアンにも見えますが、エイリアンほど好戦的ではなく、子蜘蛛や自分たちのテリトリーを守るために大きく成長するという設定や、明るい場所や光が苦手など、あくまで蜘蛛であることには変わりないため、そのあたりの差別化もしっかり図られています。

最初は一匹だったのが、まさかあんなになるとは誰も予想しなかったでしょう。(映画.comより引用)

今作の監督•脚本を務めたセバスチャン•ヴァニセック氏はフランス出身で、映像製作に興味を持ち始めた10代の頃から友人たちと短編映画を作り、数々の短編映画賞を受賞。そして満を持して2023年に長編映画監督デビュー作として今作を発表。差別や偏見に対する疑問を込めた渾身の作品は母国フランスでも大ヒットを記録し、様々な賞を受賞しました。

絵も大の得意だそうで、カメラワークやキャラクターのビジュアル等のイメージを台本に描き込んで、現場で共有するそうです。(unpfilm.comより引用)

また、“ホラーの帝王”スティーヴン・キング氏は今作を「恐ろしく、気持ち悪く、よく出来ている」と絶賛。さらには「死霊のはらわた」(’81)や「スパイダーマン」シリーズでお馴染みのサム・ライミ監督も「登場人物たちを興奮と緊張に引き込み、モンスター・ムービーを蘇らせた」というコメントを寄せており、なんと「死霊のはらわた」シリーズのスピンオフ作品の監督と共同脚本にヴァニセック氏を大抜擢しました。

これからもホラー映画界から目が離せませんね!

原題の「Vermines」は害虫という意味です。
(映画.comより引用)

◇パリ郊外の移民や貧困層が暮らすボロアパートに住むカレブはスニーカーの転売などで生計を立て、珍しい生き物を自室で飼育するのが何よりの楽しみ。ある日、顔なじみの店で珍しい毒蜘蛛を購入した彼は一時的にスニーカーの箱に移すも、その箱には穴が空いており、蜘蛛が脱走してしまう。カレブは必死に捜索するも、妹との喧嘩やいざこざもあってついついそのことを忘れてしまう。そんな折、カレブから購入したスニーカーをさっそく履こうとしたトゥマニは中から這い出てきた大量の蜘蛛に襲われ命を落とす。トゥマニの死を伝染病やウイルスによるものだと断定した警察はアパートを封鎖し、住人たちを中に閉じ込めてしまう。住人たちが不安で怯えるさなか、蜘蛛はとてつもない勢いで数を増やし、いよいよ人間を襲い始める。カレブは仲間たちと脱出を試みるが、どこもかしこも蜘蛛の住処と化したこのアパートから無事に出ることができるのだろうか…

という流れになっております。

物語の舞台となる主人公が暮らすパリ郊外の円形アパートは日本等では馴染みがありませんが、ピカソ•アリーナという公共住宅として実在するもので、ヴァニセック監督ご自身もこのエリアで育ったそうです。

ピカソ•アリーナ(mcm-www.jwu.ac.jpより引用)

ヴァニセック監督は

「この映画は、現代社会の価値を問うナチュラル・ホラー映画です。作品中の毒グモは、郊外に住む貧しい人々や、何らかの理由で差別されてきた人々を喩えています。自分たちの生活区域から一歩外に出ようとすると、彼らは害虫扱いされます。そして怒りや憎しみが増大していくのです。これは、私の内面を映し出した映画でもあります。私が知る郊外の町を描いたこの作品は、観客の心を捉え、考えるきっかけを与えるでしょう」

unpfilm.comより抜粋

と語っており、この作品に対する並々ならぬ思いが伺えます。

冒頭から気合い入りまくりでした。(映画.comより引用)

モンスターパニック映画としても相当優秀で、大小様々な蜘蛛が所狭しと駆け回り、アパートを蜘蛛の巣まみれにして占拠する様子は圧巻の一言で、来るのが分かっていても絶妙なジャンプスケアも相まってめちゃくちゃ鳥肌が立ちます。もう換気扇とか排水溝とか家中の隙間という隙間を塞ぎたくなります。なんなら上映中も足元や首筋がむず痒い気がして不快感MAXです。それくらいレベルが高い作品です。

こんなのもうマジで嫌ですね。(映画.comより引用)

個人的に一つだけ気になったのが、全編通して主人公の成長があまり見られないという点です。

主人公のカレブは生き物大好きで仲間思いの優しいヤツ(スニーカーの転売はしていますが)なんですけども、とにかく無責任な行動が目に余ります。事の発端となる毒蜘蛛も一時的にスニーカーのボロい空き箱に入れていたことで逃げ出してしまったのに、ちょっと探しただけでそのままその日は寝て、次の日には忘れてたりもします。

主人公のカレブ(映画.comより引用)

その蜘蛛が友人の命を奪い、更には大繁殖して爆裂な被害を生んで大勢の人が命を落としているにも関わらず、どこか他人事というか、あんまり責任を感じているように見えないんです。顔見知りの住人がもう蜘蛛の苗床にされて助からないと分かるやいなや、「もう産み付けられてる!助からない!」とすぐに見捨てたり、助けを求めてきた住人を部屋に強引に押し込んで自分たちだけ逃走したりと、冒頭のいいヤツ感はどこに行ったんだろうと気になってしまいました。

親しい友人が命を落とした際には泣き崩れたり、激昂して警察に掴みかかったりと熱い一面を見せたりもしますが、前述のこともありますし、「いやいや全部オマエのせいじゃん!」とツッコみたくなりました。

主人公よりもしっかり者の妹•マノン(画像中央)の方に好感が持てました。(映画.comより引用)

カレブたちをアパートに閉じ込めた悪者として描かれている警察は、移民や貧困層の人々を拒絶し差別する人々のメタファーとなっているように思われます。確かにやり方は終始強引で、アパートを封鎖して住人を中に閉じ込めたり、地下から脱出しようとしたカレブたちを通さないようにしたり、催涙ガスを投げ込んだりと、明らかに“このアパートの住人だからこんな酷い対応をしているんだな”というのが見てとれます。

なんですけども、物語後半では『大勢の武装した警察が地下駐車場に駆けつけて、これからいよいよ蜘蛛を討伐。主人公たちも拘束されてはいるものの、一応助けてもらってる』という状況でまたもやカレブが警察に「お前たちのせいで仲間が大勢死んだ!」と食ってかかります。

分かるんですけど、何度も言うように元はと言えばカレブのせいなんですよね。「なんでそんな怒れるんだろう」と私は少々冷めてしまいました。もう少し明確にカレブが変わったなという描写が個人的には欲しいような気もしました。『アパートという狭い世界から抜け出した』というラストを成長という風に見ることもできますが。

恋人ジョルディの悲鳴を聞いて絶望するリラ
(映画.comより引用)

警察から「こっちだって仲間が被害に遭ってるんだぞ!」と言い返されるも、カレブは聞く耳を持たず。その後、実は蜘蛛に噛まれて苗床にされていたマティスが最後の力を振り絞って扉をこじ開けたことで、おびただしい数の蜘蛛が地下駐車場になだれ込んできて辺り一面蜘蛛まみれ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化します。

この混乱に乗じてカレブたちは逃げ出すんですけども、これは流石に警察に同情してしまいました。もうちょっと警察を嫌なヤツとして描いてもよかったようにも思います。

格闘技に精通しているマティス
カレブよりも頼もしかったです。(映画.comより引用)

クライマックスでは車を奪って駐車場から逃げようと試みるカレブたちの目の前に今までで一番大きな蜘蛛が立ち塞がります。こちらは車に乗っているため、轢き殺すという選択肢もある中で、カレブはゆっくり車から降り、ハイビームも消すことで敵対心が無いことを示します。そしてその蜘蛛が警戒心を解き、いなくなってから地下から脱出するというシーンには非常に胸を打たれます。

『何もしていない相手にこちらが勝手に警戒心や敵対心を持つことで争いが生まれる。何もしなければあちらも何もしない』というメッセージを感じました。

主人公にいまいち感情移入できない部分はありましたが、映画としては相当面白いのではないでしょうか。蜘蛛がある程度大丈夫な人にはオススメです!

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もしよかったら覗いてやってください。

渋谷裕輝 公式HP↓


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