2022年7月に観た映画(こちらあみ子/ベイビー・ブローカー/呪詛/スパイダーヘッド)
こちらあみ子
下半期、いきなり頭ぶん殴られるような1作。ヘタに衝撃作とか謳うより遥かに大きな衝撃。自由奔放に生きて周囲を振り回す主人公あみ子。小学6年生から中学1年生へのステップの中、彼女の振る舞いへの目線は徐々に変わっていく、というあらすじ。純粋さと無邪気さと図々しさ、しかしその可愛げが可愛げでないタイミングが訪れ、取り巻く環境はドミノ倒しのように変化していく。変わるはずのないあみ子とそびえ立つ社会の壁。最悪な事態をずっと想像しながら心休まる隙がなかった。
この物語を発達的な観点から語るのは野暮な話だと思うのだけどあまりにも普段、精神科医として接する人たちとその家族の苦しさに肉薄しすぎててフィクションの話だと思いきることができなかった。ケアの場としての家族があえなく崩れ落ちていく描き方に呻きながら観てしまった。非定型発達って何なのだろう、世界が勝手に決めた“型”だからね、、そこにハマらなった時のこと、何も用意されてないという事実に絶望的になってしまった。なけなしのハートフルも僕には虚しく映った。
ベイビー・ブローカー[是枝裕和監督ティーチインつき]
伏見ミリオン座で初めて是枝監督のトークイベント付き上映会に。同じ映画を2度見ることも珍しいし、しかもこの短期間でリピートとはかなりレアケース。しかしこのペースで観たが故に発見できる描写もあってよかった。やはりこの映画はペ・ドゥナ演じるスジン刑事の変化が主軸で我々の視点と最も近いアングルにあるということを再確認。そして問いかけの行き着く先も問いであるというのも最もここで描くべきことなのだな、と。毒はないかもだけど今ここに必要な希望と提示はある。
ティーチインも豊かな時間で良かった。音楽にまつわるエピソードがとても良かった。僕は「モーテルで1人だけステーキを食い始めるソン・ガンホの何とも言えぬ可愛げ」をどう質問として投げようか考えてるうちに質問タイムが終わったのだけど、そもそもそんなにしたい質問って無いな、って思ったり。作り手は映画に全て込めてるし、こちらもこちらで勝手に解釈して納得しとくよ!っていう。そのスタンスはティーチイン向きじゃないことに気づいた。これから人の質問を楽しもう。
呪詛
Netflix配信の台湾制作ホラー。僕の愛する白石晃士監督が得意とするPOV(主観撮影の映像)を用いた作品、なおかつ台湾が舞台という物珍しさもあって視聴。そして夜に見えて猛烈に後悔する、洒落にならないレベルの怖さだった。ハンディカムによる撮影映像のみならず、車載カメラや監視カメラ、ライブ配信の映像を繋ぎ合わせて作られた手法にまず感激するし、そしてそのシネマティックでない画質だからこそ沸き立っていく不気味さが堪らない。熱帯に近い台湾のジメッとした空気も程よい。
子どもに何かが憑き、怪異が起こっていくという流れや“呪いのビデオ”の存在、容赦ない呪いの伝播というJホラー的意匠を持ちつつ、その呪いの新しさと豊富さは見もの。「歯が多い」っていう怖さ、初めてすぎ。また虫やら飢えやら様々なタイプの嫌悪感やストレスが次々襲いくるので胸焼けがすごい。極めつけは、こちら側への語りかけ方の精度。これにやられる人、多いはず。時系列の入れ替えによるミステリー性も高いし、とかく隙がない。ただ可愛げは一切ない。強烈な名作だと思う。
スパイダーヘッド
我らが雷神ソーでお馴染みのクリス・ヘムズワース。ソーは大好きだけど実はクリヘムの他の出演作を「キャビン」以外観たことなくて、ちょうどいい感じの怪しさとSF感とミステリ感がありそうな作品が公開されていたのでNetflixで観た。海上に浮かぶ牢獄、そこで行われているのは人の感情を操る薬を囚人を使って治験するという内容だった、という何ともワクワクするあらすじ。共演は「セッション」のマイルズ・テラー、監督は「トップガン マーヴェリック」のジョセフ・コセンスキー。
この間違いなさそうな布陣で、観終わった後の感想としてはウーム、だった。何だろう、全要素がどこかチグハグなのだ。明らかに非人道的な治験が行われているがどこかのんびりした空気(環境の整った刑務所なのは分かるが、にしても治験の怖さが無さすぎる)。洋画特有の音楽で場を繋ぐ手法も多すぎて間延びするし薬の名前もドラえもんの道具か(これは翻訳がキツすぎる、笑い薬が”ゲラビル“て)。クリヘムの軽薄さと狂気の表現は意外と良かった。重厚な人間ドラマとかやって欲しいな。
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