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遠距離物語

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4年間の遠距離恋愛を終えた、私と恋人のこと
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1番星をさがして

1番星をさがして

台風がくる前の夕焼け空は、なぜだかいつも信じられないほど美しい。

それがなぜなのか理由は分からないけれど、ただ台風前の夕暮れが美しいということだけは知っている。

日本列島を通過している最中の台風は、おそらく夏を連れ去ってしまうのだと思う。

雨風をどうにかできるわけじゃない私は、あんまり被害がひどくなりませんようにと、ただそう願っている。

***

これまたなぜなのかは分からないけど、私の記

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砂糖がとける温度

砂糖がとける温度

高校最後の9月、学校帰りにふたりで縁日の屋台に寄ってクレープを食べたあと、「これ記念にとっててくれてもいいよ」と私が手渡したクレープの包み紙を、恋人は今でも持っているらしい。

彼は私とはちがって、形をとっている何かには全く無頓着な男の子だ。クレープの包み紙など、すぐぐしゃぐしゃにして捨ててしまうようなタイプなのだ。

たとえばデートで一緒に見た映画の半券とか、贈りものの包装についていたリボンとか

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濡れた髪、シャンプーの香り

濡れた髪、シャンプーの香り

このまえ恋人の実家に泊まりに行った。

ごはんを食べてお風呂を借り、夜遅く、そろそろ寝るかあ、となって彼とともにベッドに横たわったとき、彼が私をぎゅうっと抱きしめて髪の匂いをかぎ、「シャンプーの匂いがする」と眠そうな声で言った。

シャンプーのにおいなど、お風呂上がりに一緒にいるときにはいつもしているだろうに、わざわざ彼が言葉にしたのがおもしろく、すこしうれしくて、「男の子というのは、やっぱり女の

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春の散歩道には

春の散歩道には

物理的な距離が離れるとこころの距離も離れてしまうとはよく聞くけれど、それをあっさりと認めてしまうのは癪なので、私と恋人は大学進学にあたって遠距離恋愛という選択をした。

そんな私と彼との4年間の遠距離恋愛が、ひとまず終わった。

ひとまずと書いたのは、せっかく彼が地元へ帰ってきてくれたのにもかかわらず、私が初夏から県外へ出なくてはならなくなったからである。

どうして県外へ出るのかということについ

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綿菓子と雨傘の夜

綿菓子と雨傘の夜

そういえば10月、恋人が地元に帰ってきていたのだった。

滞在期間1週間の間で私は彼の実家へ泊まりに行き、そして彼も私の実家に泊まりに来た。彼がやってきたのは、東京へ戻る1日前の夕方だった。

晩はみんなでごはんを食べながらお酒を飲んだ。食事を終えて、酔っぱらってお部屋に引き上げたあと、お布団の上でごろんと横になっている彼に、私はひとりで開けた缶チューハイを飲みながら、あれやこれや話しかけた。

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つかまえて、はなさない

つかまえて、はなさない

愛する誰かとずっと一緒にいるということは、たとえあたりまえに感じてしまう日が訪れるとしても、やはり特別なことなのだと思う。

連休の土曜日に保育園からのお友だちと会った。

私は昨年の夏、彼女と彼女の恋人についてのnoteを書いたから、もしかしたら記事を覚えてくれている方もいるのではないかと思う。

ふたりは中学3年生の春から付き合っていたけれど今年の夏に別れてしまった。あるとき、彼女のSNSの投

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ねてもさめても

ねてもさめても

夏が深まって、と書こうとしたけれど、果たして夏は深まるものなのだろうか。秋は深まるという表現を使うけれども、他の季節は「深まる」とは言わない気がする。

でも仮にそう言ってもいいなら、今現在夏は確実に深まっているし、それどころか盛りから少しずつ衰退していっているような気がする。

お盆が近いからだろうか。

私は昔から、胸のどこかで、お盆こそが夏の終わりの始まりを告げるものだと思っている。だっても

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お姫さまじゃなくても

お姫さまじゃなくても

物心ついてからずっと不思議に思っていたけど、いつもいつもお姫さまが王子さまの訪れを待たなくてはならないのはなぜだろう。

もし王子さまが来なかったら、お姫さまは待ち損じゃないのか。

いつ現れるかも分からないような知らない相手を待ち続けるだなんて、ある意味とても無謀なことなのに、なぜいつだって、お姫さまは甘んじてそれを受け入れるのだろうか。それがお姫さまがお姫さまたる所以なのだろうか。

ならば私

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