あの日の猫背 | 珈琲&文学note

読書と音楽と珈琲と旅が好きです🇮🇳🇳🇵普段は珈琲焙煎や珈琲研究に勤しんでおります☕️こちらの…

あの日の猫背 | 珈琲&文学note

読書と音楽と珈琲と旅が好きです🇮🇳🇳🇵普段は珈琲焙煎や珈琲研究に勤しんでおります☕️こちらのnoteでは主に、珈琲と文学作品の紹介、音楽と街をテーマにしたエッセイ、詩作品、焙煎日記、その他いろいろ投稿していこうと思います📚🖊️

記事一覧

固定された記事

【音楽と街】八月の背

その日は淀川の花火大会があったらしい。 八月某日、夜。 阪急武庫之荘駅の構内で、僕は花火大会へ向かう人々の混雑に巻き込まれていた。 人の群れはひとつの巨大な生物…

【詩作】春

春、風のない朝を横切って 旅の途中の猫に噂された 陽射しの香りにじゃれあって 君の行方を尋ねたら 空っぽの空を 指差した 想像の果ては広がって この街の彼方を見つけ…

【掌編小説】夜の中

 読みかけの本の続きを気にしながら、私は夜の道を走っていた。風は生ぬるく、月が鈍く光る夜だった。  アスファルトをひたすら踏み付けて進む私は、いまどこまで来ただ…

【雑記】休日の焙煎日記

こんにちは。 今日はコーヒーのお話。 noteでは文章記事の投稿がメインですが、 一方で僕は、珈琲も趣味としています☕️ ※詳細はプロフィールに! 休日には自宅で手焙…

【詩作】deep blue

まだ、隠れたままだよ 軽はずみな早起きで ジオラマみたいな街を行く 朝未だきの空、 星ひとつ 一日の手前は静かに横たわり 100円のコーヒー 値上がりの煙草 湯気と煙 ゆ…

【珈琲と文学】サマセット・モーム『月と六ペンス』

本日の文学案内は サマセット・モーム『月と六ペンス』です。 (訳:金原瑞人) あらすじ 解説1919年に発表された英文学の歴史的名作。 ポール・ゴーギャンをモデルに、芸術…

【詩作】死なない

だるい花粉の嵐に 四月がくしゃみで消え飛んだ 遠くで聞こえる踏み切りの音 汗ばむ街の匂いを連れた西陽が 黄ばんだカーテンの裾から 滲み出る 風に吠える若い犬と 冷たい…

【詩作】冬の夜

チェーン店のファミレスで 胸の小さなウエイトレスが僕に寄る しばらく僕は、目を逸らしながら考え込み ドリンクバーを頼んだ 冷たい言葉をたくさん選んでも 心の中までは…

【音楽と街】すばらしい日々

14歳、15歳。 ニキビ面の思春期真っ盛りだったあの頃、 僕は北海道の田舎の町で鬱屈した日々を過ごしながら、音楽を聞いていた。 僕は音楽が好きで、読書が好きで、 流行…

【音楽と街】散歩のススメ

歩くことが好きである。 散歩好きである。 人より些か悠長な性分で、マイペース、のんびり屋だった。 そう言えばまだ聞こえはいいかもしれない。 が、この性格は同時に、…

【詩作】月あかり

街角の低気圧と鉢合わせて 今日の私は アルマジロ のんべんだらりと 生きていたら バス停のとこに 君を見た気がするよ あれって夢だったのかな そんな時でも君は 後ろ姿な…

【珈琲と文学】宮本輝『道頓堀川』

今日の文学案内は、 宮本輝の『道頓堀川』です。 あらすじ解説 ※軽いネタバレ有り舞台は高度経済成長期の大阪、ミナミの歓楽街、道頓堀川界隈。 主人公は両親を早くに亡…

【音楽と街】梅田の片隅、あるいは世界の真ん中で

2018年、5月。深夜。 僕はその日、行くあてのない浮浪者同然で、背中を丸めて梅田の薄汚い路地裏にしゃがみこんでいた。 建物と建物の間に挟まれた暗い路は、飲み屋のダ…

【音楽と街】八月の背

【音楽と街】八月の背

その日は淀川の花火大会があったらしい。

八月某日、夜。
阪急武庫之荘駅の構内で、僕は花火大会へ向かう人々の混雑に巻き込まれていた。

人の群れはひとつの巨大な生物のようで、不気味な気を放ちながら、ゆっくりと進んでいた。花火大会と無縁の僕はいつまでも前に進めないのに苛立ち、生物の腹を抉るように人混みを掻き分けて、なんとかホームに辿り着いた。
そこで目にしたのは、さらなる生物たちがうねりながら電車を

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【詩作】春

【詩作】春

春、風のない朝を横切って
旅の途中の猫に噂された
陽射しの香りにじゃれあって
君の行方を尋ねたら
空っぽの空を 指差した

想像の果ては広がって
この街の彼方を見つけるためのスニーカーが
擦り切れていくのも 止められない
桜の花びらが ひとつ落ちたら
そこが新しい季節の 始発駅
君と僕の影が 気難しい顔して
傾いたなら、
うたかたを纏った風に 縛られて生きよう
着崩れた体温を感じながら
いつまでも

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【掌編小説】夜の中

【掌編小説】夜の中

 読みかけの本の続きを気にしながら、私は夜の道を走っていた。風は生ぬるく、月が鈍く光る夜だった。
 アスファルトをひたすら踏み付けて進む私は、いまどこまで来ただろうか。ただまっすぐ、どこへ行くのかもわからないまま、走っている。

 さっきまで私は、ベッドに寝そべりながら小説を読んでいた。ママもパパも妹ももう寝静まった頃に、私だけが起きていて、小説を読み耽っていた。
 もうあと数ページで、第一章が終

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【雑記】休日の焙煎日記

【雑記】休日の焙煎日記

こんにちは。
今日はコーヒーのお話。

noteでは文章記事の投稿がメインですが、
一方で僕は、珈琲も趣味としています☕️
※詳細はプロフィールに!

休日には自宅で手焙煎を行い、
オリジナルの豆で珈琲ブレイクを楽しんでいます。

今日はその様子を写真でご紹介します!

今回使用の豆は、「東ティモール」
フェアトレードで取引きされているものを購入しています。

まずはハンドピッキング。
欠点豆(カ

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【詩作】deep blue

【詩作】deep blue

まだ、隠れたままだよ
軽はずみな早起きで
ジオラマみたいな街を行く
朝未だきの空、
星ひとつ
一日の手前は静かに横たわり

100円のコーヒー
値上がりの煙草
湯気と煙
ゆらゆらと外気の中
寂しい味を、味わった

君の好きな店の前に立って
ガラスに映る顔を見つめたら
アーバンな生活が不意をつく
後ろめたい気持ちも歌にすれば
どうにかなると思ってた
すれ違う時ほど我慢して
それが正義と思ってた
“う

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【珈琲と文学】サマセット・モーム『月と六ペンス』

【珈琲と文学】サマセット・モーム『月と六ペンス』

本日の文学案内は
サマセット・モーム『月と六ペンス』です。
(訳:金原瑞人)

あらすじ
解説1919年に発表された英文学の歴史的名作。
ポール・ゴーギャンをモデルに、芸術に取り憑かれて全てを捨てた男の生涯を、彼の友人である「私」の一人称視点で綴った物語。


平凡で安定していた生活を送っていたチャールズ・ストリックランドは、ある日突然家族の前から姿を消す。
彼の夫人から捜索依頼を受けた「私」は

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【詩作】死なない

【詩作】死なない

だるい花粉の嵐に
四月がくしゃみで消え飛んだ
遠くで聞こえる踏み切りの音
汗ばむ街の匂いを連れた西陽が
黄ばんだカーテンの裾から
滲み出る

風に吠える若い犬と
冷たい春
時代のコントラストは
やさしさと傷痕で成されて
同じ顔した人は 同じ血を巡らし
濡れた体を遊ばせる
路面に咲く季節を蹴飛ばして、往く
毎日早起きしても
僕は朝日を知らず
黴臭い畳の上で体液を零すだけ
宇宙を作ってはこわす この腕

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【詩作】冬の夜

【詩作】冬の夜

チェーン店のファミレスで
胸の小さなウエイトレスが僕に寄る
しばらく僕は、目を逸らしながら考え込み
ドリンクバーを頼んだ

冷たい言葉をたくさん選んでも
心の中までは冷やせなかった
そびえ立つ妥協の壁に
安くて苦くて熱いコーヒーをぶちまけた
泥水みたい
ねえねえと甘ったるい声で彼女
ねえ、ねえ、湿っぽい関係を続けられるなら
誰かの尺度で生きるのも楽しいのかもね
しがない日々にロマンスは要らなかった

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【音楽と街】すばらしい日々

【音楽と街】すばらしい日々

14歳、15歳。
ニキビ面の思春期真っ盛りだったあの頃、
僕は北海道の田舎の町で鬱屈した日々を過ごしながら、音楽を聞いていた。

僕は音楽が好きで、読書が好きで、
流行ってるとか 皆が聴いてるとか読んでるとか、そんなことはまったくどうでもよくて、自分が好きだと思ったら胸を張って好きだと言っていた。

音楽は90年代のロック。
94年生まれの僕にとっては、自分が生まれる前後の時代の音楽。
スピッツが

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【音楽と街】散歩のススメ

【音楽と街】散歩のススメ

歩くことが好きである。
散歩好きである。

人より些か悠長な性分で、マイペース、のんびり屋だった。

そう言えばまだ聞こえはいいかもしれない。
が、この性格は同時に、要領が悪かったり、効率的に考えることが苦手だったり、周囲のペースに合わせることが難しいという面もある。

仕事でもプライベートでも、あらゆる場面でイライラされたし、たくさん怒られてきた。

なかなか苦労の多い性格で、治そうと思っても難

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【詩作】月あかり

【詩作】月あかり

街角の低気圧と鉢合わせて
今日の私は アルマジロ
のんべんだらりと 生きていたら
バス停のとこに 君を見た気がするよ
あれって夢だったのかな
そんな時でも君は 後ろ姿なのね

人が死んだニュースを見たとき
安吾の文庫を手にとって
新しい気持ちに堕落した
Xの中に 埋もれた自由を
真っ当してるだけで、可笑しいかしら

新月と三日月の間の頃に
セーラー服を翻し、
スニーカーの踵を踏んだら
無灯火で自転

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【珈琲と文学】宮本輝『道頓堀川』

【珈琲と文学】宮本輝『道頓堀川』

今日の文学案内は、
宮本輝の『道頓堀川』です。

あらすじ解説 ※軽いネタバレ有り舞台は高度経済成長期の大阪、ミナミの歓楽街、道頓堀川界隈。
主人公は両親を早くに亡くし、喫茶店「リバー」に住み込んでアルバイトをしている学生、邦彦。絶賛就活中だが、書類選考で落ちる日々が続く。
金なし、コネなし、彼女なしの彼の生活は、孤独と哀愁を帯びている。

そんな彼を優しく見守る「リバー」のマスター武内が、もう一

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【音楽と街】梅田の片隅、あるいは世界の真ん中で

【音楽と街】梅田の片隅、あるいは世界の真ん中で

2018年、5月。深夜。

僕はその日、行くあてのない浮浪者同然で、背中を丸めて梅田の薄汚い路地裏にしゃがみこんでいた。

建物と建物の間に挟まれた暗い路は、飲み屋のダクトから吐き出される油の臭気と熱気に満ちていて、僕の額に嫌な汗を浮かばせる。あちぃ、くせぇ。

目の前の通りを、茶髪にスーツ姿の男たちがゲラゲラと笑いながら通り過ぎていく。あれはホストか何かだろうか。
ああいう人たちって、どんな生活

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