あの日の猫背 | 珈琲&文学note

読書と音楽と珈琲と旅が好きです🇮🇳🇳🇵普段は珈琲焙煎や珈琲研究に勤しんでおります☕️こちらの…

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読書と音楽と珈琲と旅が好きです🇮🇳🇳🇵普段は珈琲焙煎や珈琲研究に勤しんでおります☕️こちらのnoteでは主に、珈琲と文学作品の紹介、音楽と街をテーマにしたエッセイ、詩作品、焙煎日記、その他いろいろ投稿していこうと思います📚🖊️

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The Tower 第1話【創作大賞2024 応募作品】

あらすじ  高瀬川の水面に、木漏れ日が揺れている。  川沿いの喫煙所の石段に腰掛けて、匡之は虚ろな眼でその光を眺めていた。  ふと空を仰ぐと、緑の天井が視界に広がる。川べりに並ぶ木々が、枝葉を豊かに茂らせて作ったものだった。  ぬるい風が天井を揺らし、一枚の葉を川面に落とした。葉は、匡之の手元から昇る煙と同じスピードで、川下へと流れていった。その行方を見送ったのち、匡之は再び、水面で踊る木漏れ日を眺めた。  この喫煙所は、京都の中心街である四条通りのすぐ脇にある。都会のど

    • 創作大賞に応募する小説を投稿しました。5月から書き始めて、ようやく完成…。〆切超ギリギリになっての一斉投稿でお恥ずかしい限りですが……。読んでくれたら嬉しいです!

      • The Tower 最終話【創作大賞2024 応募作品】

         出町柳駅から商店街に向かう途中の雑居ビルの2階に、「個別指導塾Open Book」の教室はある。  匡之は物件探しから銀行の融資、設備や備品の用意などをすべて一人で行い、一年以上かかってようやく開校に漕ぎ着けた。  「Open Book」とは直訳すれば開かれた本であるが、英語で「隠しごとをしない」「異なった考えや感覚に寛大である」という意味がある。  真面目に、真っ直ぐに教えること、様々な境遇や性格の子どもたちに集まってほしいという思い、本がたくさん置いてある塾という、3つ

        • The Tower 第11話【創作大賞2024 応募作品】

           冬枯れの鴨川沿いに寝転んで、匡之は高い空を見ていた。  夏にはカップルが等間隔に並ぶ風景が見られる鴨川の河川敷だが、寒い冬にはその数も少なく、間隔もずいぶんと広い。  河原町に近い辺りだと人が多いので、三条辺りまで進んだところで匡之は寝ていた。  首に巻いていたマフラーを外して枕にし、仰向けのまま煙草を咥えた。晴れた冬空に白い煙が上っていくのを見つめながら、匡之は三島からのメールについてずっと考えていた。  三島の目から見た自分は、恥じるようなものではなく、「初めから真面

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        The Tower 第1話【創作大賞2024 応募作品】

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        • 【珈琲と文学】
          7本
        • 【詩作】
          10本
        • 【音楽と街】
          6本

        記事

          The Tower 第10話【創作大賞2024 応募作品】

           秋の風の流れる爽やかな昼下がり、匡之が向かう先はパチンコ屋だった。  無精髭が伸び、髪の毛も寝起きのままで、服装は上下ジャージという格好で、匡之は人目も気にせずに歩いていた。  平日の昼間から煙草と缶ビールといくらかのお金だけを持って、匡之は毎日のようにパチンコを打っていた。  仕事を辞めた匡之にとって、今はパチンコくらいしかすることがなかった。  石岡から、今回の一件は原の策略だったことを教えられた匡之は、もうこんな会社にはいられない、と退職の決意を固めた。それに、支部長

          The Tower 第10話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第9話【創作大賞2024 応募作品】

           京都三条教室の視察を終えて、匡之は自分の七条教室へと帰っているところだった。  電車の座席で手帳を開き、今日の内容を振り返った。  三条教室の課題は、講師同士の繋がりが薄いことだ。講師間でコミュニケーションを取り、指導方法を共有し、お互いのいいとこ取りをすれば、もっと授業の質が良くなる。   それぞれがそれぞれのやり方で授業を行っていると、成長もしにくいし、教室全体の統一感も薄れる。  そこで匡之は、三条教室の講師一覧を貰い、ベテランの講師と新人の講師の比率がバランスよくな

          The Tower 第9話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第8話【創作大賞2024 応募作品】

           季節は6月で、もうじき梅雨が訪れる頃。  新京極商店街の中にある甘味処で、匡之は石岡玲子と一緒に抹茶かき氷を食べていた。  「京都って感じでいいですね!」  石岡は顔を綻ばせて匡之に言った。  「ここは日本茶の専門店がプロデュースした店なんやって。だから、抹茶もそこらのより濃厚で美味しいって有名なんよ」  石岡は興味深そうに匡之の目を見つめながら頷いた。匡之はその理知的な目を気に入っていた。  石岡玲子は、京都の東山区にある教室の社員で、今年の4月に大阪の教室から異動になっ

          The Tower 第8話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第7話【創作大賞2024 応募作品】

           3月になり、大方の受験生の入試が終わった。  12月から始まった冬期講習も終わりを迎え、どこかピリピリしていた教室の雰囲気も和やかになりつつあった。 「打ち上げでもやりましょうか」  匡之の隣で事務作業をしていた鈴木は、手を止めて目を丸くした。  「あらっ珍しい。吉見先生からそんなこと言い出すなんて」  匡之は照れ臭くなり、鼻の頭をぽりぽりと掻いた。  「まあ、たまにはね」  「いいですねぇ。私、お店探しておきますよ。吉見先生は講師の子たちに声掛けしておいてくださいな」

          The Tower 第7話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第6話【創作大賞2024 応募作品】

           「僕はなんのために生まれてきたのかを考えていました。  それは、誰かを不幸にし、誰かに不幸にされ、その分、誰かを幸福にし、誰かに幸福にされる。それを繰り返していくことなのだと思いました。」  20歳そこそこの学生が、何故そんなことを言える?  楠村の告白を聞いたその晩、匡之はなかなか寝付けず、缶ビールと煙草を持ってベランダに出た。  匡之の住むマンションの4階の部屋からは近くに広がる田園がよく見え、実り出した稲穂が9月の夜風に揺れていた。  ビールを煽り、ぼんやりと景色を

          The Tower 第6話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第5話【創作大賞2024 応募作品】

           ……僕は、中学一年生から、不登校になりました。  理由は、自分でもわかりませんでした。  思い当たることがあるとすれば、国語の授業の音読です。  クラス全員で順番に一文ずつ読んでいくのですが、僕が読む番になった時、つっかえてしまって、僕は黙ってしまいました。それで先生が僕のところを読んで、次の人に繋ぎました。  その時、クラスの何人かの人が、くすくすと笑っていました。僕が詰まってしまったことがおかしかったんだと思います。  それから僕は、国語の授業でまたつっかえたらどうしよ

          The Tower 第5話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第4話【創作大賞2024 応募作品】

           まだ蒸すような外気の中を、少しだけ冷たさの混じった風が抜けていった。  匡之は河原町通りを歩き、ショッピングモールの地下にあるジュンク堂書店へ向かっていた。  9月下旬のよく晴れた日で、まだ歩いていると汗が滲んでくるが、どこか夏の終わりを感じさせる匂いがした。  ジュンク堂に着くと、匡之は文庫本のコーナーに行き、小説の物色を始めた。  芥川龍之介、川端康成、志賀直哉、太宰治、夏目漱石……。文豪と呼ばれる作家の名前を見つけては手に取り、パラパラとページをめくる。  匡之は、

          The Tower 第4話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第3話【創作大賞2024 応募作品】

           7月下旬のある日、匡之は体調を崩して仕事を休むことにした。  匡之は事務員の鈴木と、講師アルバイト用の全体ラインにその旨を送った。何かトラブルがあれば連絡するように伝えているが、うちの優秀な事務員と講師はだ。よほどのことがなければ、連絡が来ることはないだろう。  それにしても、体調不良とは久しぶりだな……。  熱はなかったが、頭痛がひどく、身体がだるかった。面談を頑張りすぎたかもしれない。  夏期講習の面談をすべて終えた匡之は、過去最高の売上を叩き出していた。受験生はもち

          The Tower 第3話【創作大賞2024 応募作品】

          The Tower 第2話【創作大賞2024 応募作品】

           窓の外で、蝉が喧しく鳴いている。  こんな暑い中、世間の営業マンは汗水流しながら走り回って、ご苦労なことですねぇ。  匡之は、空調のよく効いた教室の中で、先程の面談のデータをまとめながら一人ほくそ笑んでいた。  今日は、高校3年生の子を持つ親との面談だった。  現状のままでは目指している大学の偏差値に届かない。この夏でどうにか点数を伸ばしたい。  両親と生徒、3人揃ってやってきた彼らに、匡之はなんの躊躇もなく30万円のプランを提案した。  高校3年生であれば、講習費用の相

          The Tower 第2話【創作大賞2024 応募作品】

          【珈琲と文学】太宰治『津軽』

          本日の文学案内は、 太宰治『津軽』 です。 あらすじ 解説1944年に刊行された太宰治の紀行文風小説。 第二次世界大戦の末期。 戦争の中で、“死”を強く意識した太宰は、故郷の青森・津軽への旅へと出発します。 旅の中で彼は、旧友や生家の家族、育ての親との再会を果たしていきます。 彼らとの懐かしく楽しい交流を通して、津軽の人々の温かい人情を再認識すると同時に、自己の存在を見つめ直すことにも繋がったこの旅は、太宰治の人生において重要な出来事となりました。 『津軽』は、紀

          【珈琲と文学】太宰治『津軽』

          【詩作】夏、流れて

          夢、見てた気がするけど、忘れちゃって、 下着姿のまま、ベランダ立って、 ぬるい風、崩れた日和、過ぎる時間、 気付けば午後ね、うだるよな夏、 あたしは部屋の中 フラペチーノの氷に、溶ける、噂、 興味がないから、あたしは制服脱いで、 扇風機の前、寝そべって、 パーフリ聞いて、時代を上る 女の子はいつだって、可愛くて、 未来も昔も、今も、 いつだって、 真っ青って言葉はあんまり似合わないから、 青い空、でいいの、 そう、物事はいつも単純で、 グラウンドに落ちる汗よりも、 あたし

          【音楽と街】母と僕と、スピッツと。

          中学2年生の時、スピッツに出会った。 『ロビンソン』のイントロでガーンとなって、 そのメモリーに今も醒めないままである。 (スピッツファンなら↑これ分かってくれるよね) 今やファン歴ももう15年程になる。 そんな愛してやまないスピッツ。 たくさんの思い出をともにしてきてくれたけど、 とりわけ心に刻まれている「母と僕とスピッツ」の記憶がある。 僕の故郷は北海道のど真ん中に位置する、 美瑛という小さな町。 なだらかな丘陵地帯と、延々と広がる田畑の風景が美しく、観光地として

          【音楽と街】母と僕と、スピッツと。