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料理雑記

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過去に別サイトにて投稿していた料理エッセイです。雑学多め。簡易レシピ付き。
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『料理雑記 その16:遥か遠き憧れのバルへ捧ぐ』

『料理雑記 その16:遥か遠き憧れのバルへ捧ぐ』

 仕事を終えての帰宅途中、いつものバルへと足が向く。若造の自分よりも年期の入った扉の磨りガラス越しに聞こえてくる酔客たちの喧騒に、疲れた心がわずかな陽気さを取り戻した。

「Hola!(こんにちは!)」
 扉を開けて声をかける。喧騒は止まず、見渡す店内の其処彼処から笑い声が上がっている。誰もがこの店の酒と料理と友人たちとの会話を楽しんでいるのが、熱気となり、肌で感じられた。

 酔っぱらいのお喋り

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『料理雑記 その15: 情熱の国のおふくろの味、トルティージャ』 

『料理雑記 その15: 情熱の国のおふくろの味、トルティージャ』 

 スペインが好きだ。

 ちょっとなに言ってるのか分からないと思うが、そもそも私の戯言など理解されなくともなにひとつ問題はないのでサクサクと話を進めさせて頂く。
 阿呆の病気がまた出たよ、とでも思って頂きたい。

 ユーラシア大陸の南西端に位置するイベリア半島にて500年以上の歴史を誇るスペイン王国。
 大西洋と地中海に囲まれた肥沃の地には古来より様々な人々が流入し、文化を育み、そして争い、歴史を

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『料理雑記 その14:ピザを美味しくする映画』

『料理雑記 その14:ピザを美味しくする映画』

あなたは映画を観るなら映画館に行く派だろうか?
それとも自宅で楽しむ派だろうか?

ちなみに私は断然、自宅で楽しむ派だ。
生来、人の多い場所が苦手なことも理由の1つ。
それに加えて、トイレの度に一時停止したり、聞き逃した台詞を巻き戻したり出来るところも自宅での映画鑑賞の大きな魅力だ。

だがそれにも増して自宅を選ぶ大きなワケがある。
私が自宅で映画を楽しむことは、美味しいピザ作りに欠かせないことな

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『料理雑記その12:アボカド狂想曲』

『料理雑記その12:アボカド狂想曲』

 先日かみさんと話していた時の、私の間抜けな発言をひとつ紹介しよう。
「豆腐の原料の大豆は植物性のタンパク質が豊富なんだ。さすがは畑の豆と言われるだけあるよね」
 ……畑の豆。そりゃそうだよ。大豆は畑で採れる豆だよ。なにも間違ってねえよ。うん、でもね、私が言いたかったことはね、ちょっとだけ違うんだよ。
 はい、そうです。それを言うなら「大豆は畑の肉」ですよね。 ……ちょっと言い間違えたんですよ? 

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『料理雑記 その11:リバイバル・りゅうきゅう』

『料理雑記 その11:リバイバル・りゅうきゅう』

 刺身は美味い。新鮮な魚の魅力をストレートに味わうには最適な食べ方の一つだろう。私も大好きだ。必然、酒の肴にすることも多い。
 しかし、たまに問題が起こる。特に自分で魚を捌いた時に起こりやすい問題なのだが、刺身用に分けた切り身の量が多すぎることがあるのだ。
 店で見た時はそんなでもなかったのに、いざ捌こうとまな板に乗せたらえらくでかい魚だったのが判明したり、一刻も早く食べなければヤバい昨日の残り物

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『料理雑記 その10:紆余曲折なりし吉列物語』

『料理雑記 その10:紆余曲折なりし吉列物語』

「吉列」
とある料理を表した漢字だが、あなたは読めるだろうか?

吉が列を成すとは、なんとも縁起の良い字面ではないか。
日本のどこぞの地方に伝えられる、祝事に供されるような伝統料理だろうか?
それとも煌びやかな中華料理?

残念ながらどちらも正解ではない。
いやまあ、元となる料理が日本に伝わった後に姿を変えて生み出された料理なので日本料理と言えなくもないのだが。

時はいまから160年ほど遡る。

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『料理雑記 その8:脆くも優しき肉豆腐』

『料理雑記 その8:脆くも優しき肉豆腐』

豆腐メンタル、という言葉がある。
某超有名カードゲームアニメにおいて、アニメオリジナル展開にみられた、とあるキャラクターの精神的な脆さを視聴者が評したことに由来するとされるネットスラングだ。

意味は、精神的に非常に弱いこと。
心が弱い方の内面の繊細さを、豆腐の物理的な崩れやすさに例えたものだろう。

・用例
「さっきのお店でご馳走さまって言ったら、店員さんに変な目で見られたかもしれない。もう外食

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『料理雑記 その7:おひたせ愉快な仲間たち』

『料理雑記 その7:おひたせ愉快な仲間たち』

今日の夕食の準備も佳境に入った。
取り皿と箸はテーブルにセット済み。
ランチョンマットはお仕立て。
飲み物はよく冷えているし、グラスは曇りなく磨かれている。
サラダにドレッシングを添えて配膳した。
熱々のスープは、もう椀に注ぐだけ。
メインの肉はあと10分で焼き上がる。
さて、あと一品くらいなにか作れるか…

そんな「何かあと一品」などという、アバウトながらも3日に一度は頭にちらつく要求に幅広くお

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『料理雑記 その6:境界線上のキノコのカリカリ焼き』

『料理雑記 その6:境界線上のキノコのカリカリ焼き』

お焦げ(おこげ)は好きだろうか?

もちろん英語のスラングにおけるファグ・ハグの和名のことではなく、飯盒などで炊飯した際に容器の底にできる、米が僅かに焦げた状態のものについてだ。

炊きたての米の美味しさは云うまでもないことだが、飯盒やかまどの底にこびりついたお焦げの香ばしさもまた味わい深いものがある。

このお焦げには昔から多くの愛好家がいる。
炊飯器が普及した現在でも、あえてお焦げを作るための

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『料理雑記その5:熱を食らうはニンニク豆腐』

『料理雑記その5:熱を食らうはニンニク豆腐』

7年ばかり前の秋の話。
とある居酒屋のカウンター席にて、私は考えを巡らせていた。

大学を卒業して紆余曲折。
遊び惚けた末にようやく就職した職場は県下でも有数の、というかむしろ県下では数少ない繁華街のそば近くにあった。

そんな職場に勤めて2年目。
夜勤の回数が増え、夜間や早朝に実家から運転してくるのが億劫になった私は、職場から歩いて2分という素晴らしい立地条件のアパートに引っ越し、人生2回目の独

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『料理雑記その4:不道徳的トリエビチリ』

『料理雑記その4:不道徳的トリエビチリ』

嘘をついてはいけません。
私たちは生まれてから幾度となくそう説かれてきた。

嘘をつくのはいけないことだ。幼い頃から繰り返し教えられれば、当然のように幼い頃に疑問を抱く。

どうして嘘をついてはいけないの?
いけないことなのに、なんで嘘をつく人がいっぱいいるの?

汚れを知らない瞳で見上げながら、そんな疑問を家族や学校の先生にぶつけてみた諸兄もいるかもしれない。

素朴な疑問に彼らはなんと答えただ

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『料理雑記その3:私の信じたステーキ』

『料理雑記その3:私の信じたステーキ』

「人間は猿との共通祖先から進化した」
1859年にチャールズ・ダーウィンが出版した『種の起源』において語られるこの言葉。
当時のイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国、即ちキリスト教社会における人々への衝撃は如何ほどだったろうか?
 全知全能たる主が造りたもうた全ての生き物の姿。それは初めから完成されたものであり、変化することなどありはしない。まして主が自らの御姿に似せて命の息吹を吹き込んだ、万物の

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『料理雑記その2:また会える未来でもきっと、海のルビーは輝いて』

『料理雑記その2:また会える未来でもきっと、海のルビーは輝いて』

鮭(サケ)が不漁である。
正確には、今年(2022年に執筆した記事です)もまた鮭が不漁である。
ニュース等で聞いた方もいるだろう。
サンマやマダラ、スルメイカなどと同じく、鮭の国内の漁獲量は減少の一途を辿っているのだ。
(代わりに北海道ではブリが豊漁であり、それはそれで喜ばしい)

2000年頃には年間20万t以上、2013年頃には年間15万tだった日本のサケ類の漁獲量は、2019年には年間5万t

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『料理雑記その1:ナニモノなのか、そば稲荷』

『料理雑記その1:ナニモノなのか、そば稲荷』

 日本に住んでいながら稲荷寿司を知らない人はいないだろう。
 関東では甘辛く煮しめた油揚げに酢飯を詰めた、茶色い俵型のナイスガイ。関西では三角に切り開いた油揚げを出汁で煮て、ニンジンやシイタケ、レンコンなどの具材を混ぜた寿司飯を詰めるのが一般的だという。
 通称「おいなりさん」。
 日本国内で最も広範に信仰される農業神の1つである稲荷神は、五穀豊穣を司る日本神話のウカノミタマとも同一視されており、

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