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読書感想文

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記事一覧

車輪の下〜大人と子供の狭間で〜

ドイツの片田舎で神童と言われ育った主人公ハンスは全国のエリートの集まる神学校への合格を二番という席次で掴み、周囲の期待を背負い進学する。その中で多くの挫折を味わい、神経症を患い退学し敗北感とともに帰郷する。しかし、故郷に彼を理解しようとする者はおらず、機械工として働き始めた矢先彼は酒のために誤って河に落ちてしまい、あっけなくこの世を去るーー

ヘッセをはじめとしてトマスマンらのドイツ文学の金字塔

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バビロニアのくじ〜全ギャンブラーに告ぐ〜

人生を語る上で、偶然というものは非常に大きな役割を担っている。私たちは生誕から死まで、確実性を持ち保障されることは何一つない。生まれた瞬間から、国籍、性別、容姿、貧富の差などをはじめとする努力や人智を超えた偶然の格差の元で生まれ、その後も終わりのない偶然の繰り返しの中で我々は一生を終える。この偶然という自然的な性質はカオス的な宇宙の性質の一つの表層であり、そこにひとつの我々と宇宙を繋ぐ物理学的な性

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脂肪の塊 〜概念が人を殺す日〜

私がこの小説に出会ったのは高校の世界史の授業であった。世界各地域の文学作品を時代ごとに作者名と共に頭に叩き込むことにうんざりしている最中、この本のタイトルは強烈な印象を私の胸に残した。当時、一体どんな物語なのか想像を巡らしたものの実際に本を手に取るには至らなかった。

時は流れ、先日古本屋でこの「脂肪の塊」を見つけ内容に触れるに至った。

舞台は普仏戦争の最中のフランス。プロシャ軍の占領地から脱

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イワン・イリッチの死 〜芸術とかけ離れた死〜

自分自身の死を想像したことは誰しも一度はあるのではないだろうか。そしてその時人は往々にして突然で劇的なものを想像しがちである。

天文学者であるChris impey氏の著作“How It Ends“に次のような一節がある。
「人生がコンサートのようなものであったとしても、その結末はクレッシェンドで終わることはなく、大抵の場合は楽器の調子が外れ、演奏家達が列を乱し、音楽が次第に消えていくものだ。

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金閣寺 〜狂気と死に至らしめられた美〜

1950年7月、ある一人の僧侶の放った炎によって金閣寺が全焼しその他文化財6点も失われるという衝撃的なニュースが日本全国を駆け巡った。

この金閣寺放火事件は多くの小説家達に多大な影響を与え想像を駆り立てた。そしてその動機を探った。日本を代表する文豪三島由紀夫もその一人であった。今回はヘーゲル美学を交えながら本作「金閣寺」を考察していきたい 。

金閣寺放火事件について、水上勉が著書「金閣炎上」

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