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友川カズキ

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生きてるって言ってみろ。
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「情緒は脈拍よりなお確かだ」―友川カズキ『イカを買いに行く』について―

「情緒は脈拍よりなお確かだ」―友川カズキ『イカを買いに行く』について―

 友川カズキの音楽生活五十年を記念して『光るクレヨン』以来八年ぶりのニューアルバム『イカを買いに行く』が五月二十五日にリリースされた。全十二曲で構成された本アルバムには新曲は勿論、過去の作品も新録されて友川の現在形を窺い知れる作品集となっている。

  一 イカを買いに行く

 友川の日常をマジックリアリズム的手法全開で描いた楽曲。以前、配信ライブにて「買い物シリーズその2」と呼称していた。その第

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死を賭ける賭博師・友川カズキの轍 第一章『裏通りの美学』

死を賭ける賭博師・友川カズキの轍 第一章『裏通りの美学』

前回は下記のリンク

友川カズキは十九で秋田県から集団就職のため上京する。当初は百貨店の接客業をするも秋田弁の訛りの為に配送系の仕事にまわされてしまう。その仕事もしばらくして辞め思索と苦心の時が続く。
彼を語る上で欠かせないバスケットとの関わりもこの時代にある。恩師・加藤氏より秋田県能代工業高校にてバスケットボールチームの講師を任されるのである。友川二十歳の時だ。
一度、秋田にコーチをするべく帰郷

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死を賭ける賭博師・友川カズキの轍 序章『その闘争の赫奕たる来歴』

死を賭ける賭博師・友川カズキの轍 序章『その闘争の赫奕たる来歴』

人間は誰しも生まれ落ちたそ瞬間から死を人質に生を享受している。時として人は、生きているという現実と死に至るという未来に恐れ立ちすくむ。
だが友川カズキは臆する事なく、生もそして死さへも賭けて勝負をしているだ。それもデタラメに、面白がって。社会という悪夢から真っ向から挑み、それにさえ慊らず自身とも闘争を繰り広げている。
死を賭けてまでも走り続ける。この賭博師を誰しも止める事はできない。

序 その闘

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『復讐バーボン』、もう一杯。

『復讐バーボン』、もう一杯。

2014年にリリースされた友川カズキの『復讐バーボン』は自嘲的な彼としては珍しく「ここ20年で最高傑作」(音楽ナタリー『友川カズキ、新アルバムで初の試み「ここ20年で最高傑作」』と言わしめる程の出来だ。一ファンとしてはリリースするアルバムいずれも素晴らしいマスターピースであるのだが本作は確かに一聴すれば友川自身の本気が隅々までゆき届いた傑作中の傑作と言える。
友川は常に怒りとそして問いを我々に投げ

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「深く闇は横たわり頷くことだけが受けつがれた」友川カズキ最新アルバム『光るクレヨン』について

「深く闇は横たわり頷くことだけが受けつがれた」友川カズキ最新アルバム『光るクレヨン』について

友川カズキの最新アルバムは2016年に発売された『光るクレヨン』である。通算33枚目となる本作はホームページにもある通り正しく「最”深”作」だ。どの楽曲も聞けば聞くほど詩人・友川カズキの源泉に触れる事さへ可能である。
前作『復讐バーボン』において原子力発電所爆発から喚起された国家への怒りが現れていた。何の楽曲(『家出青年』をピークとして)破壊力抜群だ。そして今作はその怒りをさらに煮詰めた静かなる憤

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ヤバイ歌を聴いた 友川カズキ 『家出青年』

ヤバイ歌を聴いた 友川カズキ 『家出青年』

それは全くの偶然であった。YouTubeにて良い音楽はないかといつも通り徘徊していた。宮本浩次のCoversでちあきなおみの『喝采』聴いた。そこまではいつも通りであった。そして何を思ったか他のちあきなおみの楽曲も聴いてみようと思った。そうして辿りついたのが問題作『夜へ急ぐ人』である。驚いた、大変驚いた。ホラーである。やや画質が悪いのも相まってちあきなおみの顔が殊更恐ろしく写っていた。彼女の冷静な狂

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