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ヤバイ歌を聴いた 友川カズキ 『家出青年』

それは全くの偶然であった。YouTubeにて良い音楽はないかといつも通り徘徊していた。宮本浩次のCoversでちあきなおみの『喝采』聴いた。そこまではいつも通りであった。そして何を思ったか他のちあきなおみの楽曲も聴いてみようと思った。そうして辿りついたのが問題作『夜へ急ぐ人』である。驚いた、大変驚いた。ホラーである。やや画質が悪いのも相まってちあきなおみの顔が殊更恐ろしく写っていた。彼女の冷静な狂気はとんでも無く恐ろしかった。

そしてその後しばらく『夜へ急ぐ人』を聴いた。ある時、どうやらこの楽曲は或る人がちあきなおみに提供した事を知った。歌謡曲であるならば当然であるがその時の私はわざわざ提供した人間をチェックしようとは思わなかった(勿論、それが阿久悠や筒美京平、松本隆ならば話は別であるが)。『夜へ急ぐ人』作詞・作曲 友川カズキ。誰だ。私は調べたのである。友川カズキ。秋田県生まれのフォークシンガー。

まず一番初めに聴いたのがオリジナルの『夜へ急ぐ人』である。イメージが一新された。ちあきなおみが歌っている時は大都会の東京が浮かんだ。そして友川カズキの場合はもっと荒凉たる野が想像された。次いで『生きてるって言ってみろ』である。とんでもない歌詞にとんでもない歌い方。私は一気に心を掴まれた。魂を曝け出して歌うとは正にこの事である。その後ずいぶんと彼の曲を聴いた。『トドを殺すな』や『夢のラップもういっちょ』等々素晴らしい楽曲ばかりである。最新曲『イカを買いに行く』を聴いて彼が非凡な詩人であり歌手であるということが明瞭に分かった。

夜の潮目は
驚愕の青い森につながってる
確約の赤い実は
ケモノ達の運動神経になる
上着の内ポケットには
目のぼそついた仮面がある
早出の朝にはイカを買いに行く
南部市場にイカを買いに行く
友川カズキ 『イカを買いに行く』

さて本題はここからである。私は友川カズキの『家出青年』という楽曲を聴いた。2014年にリリースされた『復讐バーボン』に収録された過去の楽曲を新録、三番を追加したバージョンである。私は文字通り打ちのめされた。ドタマがぶっ飛んだ。こんな経験をしたのは実に久しい。エレファントカシマシの『ガストロンジャー』を聴いた以来の出来事である。

私はこの楽曲の1節目から彼の歌の世界に引き込まれてしまった。私にとって良い音楽というのは何だろかと考えた時、楽しむというより箴言の如く自らを暴力的にぶん殴るような楽曲を大変好むという節がある。この楽曲は正しくそれに該当する。これは私自身を歌った曲である、そうとも思った。

蒲団にもぐる時「このままでええや」思った
蒲団を蹴る時「このままじゃ駄目だ」思った

全く私の堕落し切ったそれでいて勝利を目指さんとするそう言った背反する思いを代弁した一節である。今日性溢れる三番も必聴である。

この曲は私が経験した曲の中で全く新しい事を歌っている。私が感じているがどうしても言語化することが出来なかった思いを吐き出しているのである。この歌は一人の青年の事を歌っていることに違いはないがその青年が生きている社会のことも歌っている。個人と社会。どちらも濃密に歌っているのである。これは私が書きたかったものである。しかしどちらかを濃密に語ると片方が希薄になる。それを友川カズキはやってのけたのである。悔しさを抱くが同時に敬服した。

俺は18歳の俺は自分の内なる世界だけで完結させようと思っていたがどうやら社会というものはそうはいかないようである。そんな事をこの楽曲で覚醒させられた。

歌詞、歌唱、演奏全てが比類なき完成度である。とんでもない大名曲。今年聴いた楽曲の中で明らかにダントツである。


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