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『復讐バーボン』、もう一杯。

最なる時のさなかにあって 人どちは皆一様 寒立馬である

友川カズキ『家出青年』

2014年にリリースされた友川カズキの『復讐バーボン』は自嘲的な彼としては珍しく「ここ20年で最高傑作」(音楽ナタリー『友川カズキ、新アルバムで初の試み「ここ20年で最高傑作」』と言わしめる程の出来だ。一ファンとしてはリリースするアルバムいずれも素晴らしいマスターピースであるのだが本作は確かに一聴すれば友川自身の本気が隅々までゆき届いた傑作中の傑作と言える。
友川は常に怒りとそして問いを我々に投げかけてきた。今作はその怒りが如実に顕現している。というのもこのアルバムを制作した大きな要因となる事件があった。日本国を危うく亡国たらしめる未曾有の事件にして人災。それが東北大地震の福島原子力発電所事件である。その当時のライブにおいて友川はたびたび「歌なんていつ辞めてもよかったが辞められなくなった」と語っている。それはこの原発事故において日本国民の杜撰さに憤ったからに他ならない。彼はまさしく『家出青年』の一節にある様に「「このままじゃダメだ」と思った」のである。その様な背景を経て出来上がったアルバムこそ『復讐バーボン』だ。
復讐バーボンは何に対する復讐の酒なのか。それは事実を、痛みを、絶望を隠蔽した国家に対しての復讐の、その酒なのである。
収録曲は以下の通り。

順三郎畏怖
風のあらまし
兄のレコード
復讐バーボン
『気狂いピエロ』は終わった
犬は紫色にかみ砕かれて
わかば
ダダの日
馬の耳に万車券
夜遊び
家出青年

『復讐バーボン』

本記事では友川カズキ『復讐バーボン』の楽曲をいくつかピックアップして紹介する。


トラックのopを飾るのは詩人・西脇順三郎を題材に取った『順三郎畏怖』である。友川はかつてより文士の一節を歌い上げる事は多々あったがこの楽曲は西脇順三郎の詩をふんだんに引用している。そしてそれを友川の強靭なギターリフにピタリとハマっている。まるで初めから歌われる事を想定して居たかの様だ。そしてこの成功は次作、『光るクレヨン』の「三鬼の喉笛」に至るのである。

『兄のレコード』は友川が英国ツアー中に制作した楽曲である。自身の故郷たる三種川から遥か彼方イギリスのグラスゴーへ。距離を全く感じさせない。ただ進みゆく音と歌詞、それこそ決して過去を振り返らぬ友川の生涯を形にした様な楽曲だ。この楽曲の制作背景は』友川カズキ 英国ツアー2012 グラスゴー編【リオネル降臨の章】』窺い知る事が出来る。

『わかば』は『家出青年』同様に原発事故の影響が如実に出ている。非常に静かな楽曲ではあるのだが節々に入るポエトリーリーディングは起こるべくして起こった冷酷な悲劇を我々に思い出させている。国や国民に対し怒りと疑問を投げかける一曲。

アルバム最終曲は『家出青年』。3枚目のアルバムに三番を加えた本作は震災および原発事故に真っ向から挑んだ渾身の作である。東日本大震災を起きたものとして終わらせようとする我々に対しての、怒りの歌。一切の鎮魂をこの楽曲は否定している。恰も震災で被った被害は永遠に終わる事がないのだと歌い上げている様だ。この先、何代にも渡って継承される様な問題意識がこの楽曲には確かに詰まっている。

アルバム『復讐バーボン』は「家出青年」の混沌としたアウトロを以って終局する。それはまるで日本の現状を表しているかの様だ。このアルバムがリリースされてから既に八年。今の日本は、今の世界はどの様な形なのか。我々はまだまだ復讐の酒を煽る必要がありそうだ。復讐バーボン、もう一杯。

(了)



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