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「深く闇は横たわり頷くことだけが受けつがれた」友川カズキ最新アルバム『光るクレヨン』について

「今の今こそ 光れクレヨン」——友川カズキが現在に向けて撃ち放つ「最”深”作」。
詩人、歌手、画家、俳優、酒豪、ギャンブラー……。 いくつもの「顔」を持つ、異形にして孤高のシンガー・ソングライター=友川カズキが通算 33枚目となるアルバムをリリースする。 「最高傑作!」と絶賛された前作『復讐バーボン』から2年10カ月。 つねに「現在」しかない表現者が、紫煙の中であっけなく自らを超越し更新してゆくそのサ マを、いま再び私たちは目撃する。 40余年をかぞえる友川のキャリア史上、最もディープで最もドープな44分!

友川カズキ『光るクレヨン』紹介文

友川カズキの最新アルバムは2016年に発売された『光るクレヨン』である。通算33枚目となる本作はホームページにもある通り正しく「最”深”作」だ。どの楽曲も聞けば聞くほど詩人・友川カズキの源泉に触れる事さへ可能である。
前作『復讐バーボン』において原子力発電所爆発から喚起された国家への怒りが現れていた。何の楽曲(『家出青年』をピークとして)破壊力抜群だ。そして今作はその怒りをさらに煮詰めた静かなる憤怒という言葉適切なのかも知れない。静かなるが故に聞き手に傾聴を促している。
当記事は『光るクレヨン』よりいくつかピックアップして紹介する。気になった方々は是非ともアルバムを購入されたい。


収録曲は以下の通り

01  光るクレヨン
02  飛ぶための空
03  愉楽
04  死んだ男に
05  ユメの番人
06  「楕円の柩」アラカルト
07  革命の朝
08  つつじ
09  透谷をきく
10  思惑の奴隷
11  三鬼の喉笛

『光るクレヨン』収録曲

表題曲「光るクレヨン」は真骨頂たる私小説的表現をふんだんに用いている。母の死、そして普段の日常。公園にいる友川の目に映る様々な情景。彼は母親の死を「ヴラマンクの彼方へ母は逝った」と表現する。ここで友川はフランスの画家、モーリス・ド・ヴラマンクを引用する。詩人にして画家の友川はそこの楽曲において彼の目に映る絵画的な日常をデッサンしている様に思う。その目に映る忙しない色彩の変容はまさしく光るクレヨンで彩られた日常の様だ。

「死んだ男に」。全編にわたってシベリヤ流刑の詩人・石原吉郎の詩『五月の分かれ 死んだ男に」が引用されている。友川は文筆家の一節を自身の楽曲に引用する事が他のアーティストと一線を画す程巧みである。それはその作家に対して深淵な敬愛があるかに他ならない。その証拠に彼にとって石原吉郎は(彼の出発点とも言える様な)中原中也以上に好きでだ、という発言をしていた。かなり以前から好んでいたにもかかわらずこの楽曲において初めて自身の作品に昇華させたのは時が未だ熟していなかったからと言えるだろう。本アルバムにおいて作品と化せたのは正しく今の今こそ石原吉郎だからだ。

かつての楽曲をブラッシュアップした「ユメの番人」。この楽曲は詩部分は2010年に発売された『青いアイスピック』に収録されている「あれは兄達」においてほとんど完成している。本楽曲は実際に交友があった中原中也の実弟・中原思郎に捧げられたらしい。このアルバムにおいて付け加えられた詩はさらに友川のおさえきれない怒りが込められている。

矜持を語るは愚鈍の極みさ  国家とは一体誰なんだ

ユメの番人

門太郎の世界を歌う「透谷をきく」。本楽曲は縊死した明治期の詩人・北村透谷に取材した楽曲だ。友川の眼前に映る北村透谷に対する畏怖を垣間見える楽曲と言えるだろう。その散り際さへも音楽に昇華させる技はまさしく匠という他ない。

友川カズキの内奥へ誘う「三鬼の喉笛」。俳人・西東三鬼の俳句が散りばめられている本楽曲は目眩く友川的世界のさらにディープなところへ落とし込まれる一曲だ。勿論、引用された西東三鬼や波田野紘一郎、間村俊一の俳句を絶唱する友川は素晴らしいが後半の言葉の氾濫は新たなる境地と言っても差し支えはあるまい。そして何より自死せられし弟・及位覚の詩も引用されているのだ。友川の詩を山崎春美が淡々と朗読する。少しづつスピードを上げながら。フルスピードで輪転する景色の真ん中に立たされている感覚に陥る。

友川カズキの背中はこのアルバムにおいてさらに大きくなった。いかなる形容も跳ね返す独り立つ人間たる彼は以後今日に至る六年間、新たなるアルバムをリリースしてはいない。此の長い沈黙は或いは過去最長ではないだろうか。然しだからと言って創作を辞めているわけでは決してない。『立川グランプリ2019』『イカを買いに行』『馬喰が来た朝』『けいこちゃんの歌』これらの楽曲は『光るクレヨン』リリース後に創られた物だ。
この六年、友川カズキをそして私たちを取り巻く環境は著しく変転した。大災害、疫病、戦争、そして暗殺。果たして今、今しかない、今しか見てはいない友川カズキの目には何が映るのだろうか。そして彼はどんな言葉を投げかけるのか。そのスピードはどれ程の物なのか。
我々は刮目すべきだ。

(了)

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