act:17-今夜がヤマです【破の章】空中戦艦ヤマデス発進!暗黒肺炎帝国との死闘
前回までのお話 ↓
ウゥーーー!ウゥーーー!ウゥーーー!
緊急警報のサイレンが艦内にけたたましく響き渡る
「隊長!敵影多数!オイオイどーすんだコレ?やたら多いぞ!」
操舵手のユーイチ上等兵が叫ぶ。物凄い数の機影をレーダーが捉えたのだ。
大多喜町の杉山に偽装したオレたち漢の艦「空中戦艦ヤマデス」に向って、今とんでもない数の敵戦闘機がグングンと接近してきていた。どうやらこの入念な偽装もあまり役には立たなかったようだ。
敵の総数は凡そ1,000。今日までずっとオレを散々苦しめてきた巨大な敵、ヤリター総統率いる暗黒肺炎帝国と、いよいよ最終決戦の時がきたようだ!
レーダーの機影から、敵は「大咳55式-重爆撃機」と「高熱44式-急降下爆撃機」を中心とする混成部隊のようだった。その他にも、このオレの肺炎罹患直後から今に至るまで散々苦しめられている「悪寒011式-格闘戦闘機」を筆頭に、「喉の痛み型キ20式-雷撃機」「鼻水ヲ10式-水陸両用艦上戦闘機」「痰100式-駆逐戦闘機」なども勢ぞろい。おやおや「呼吸困難00型強行偵察機」もご丁寧に何機かやってきているぞ。
現在敵は四方に別れて急速接近中だ。その圧倒的な数と力で、上下左右から爆弾の雨をドカドカ降らそうという魂胆か。オレたちを袋叩きのなぶり殺しにするつもりのようだな、全く容赦ないな。
しかしどんなに巨大な敵であろうともひるむことはない、オレは静かに上等兵に指令を下した
「よしユーイチ上等兵、まずは我々の力を見せつけてやろうじゃないか、スギの木ミサイルで全方位ミサイル発射だ!(キリッ」
「おい隊長ちょっと待て」
いきなりユーイチは疑問の声をあげた。
「俺が上等兵?ふざけんなもっと上だ!かっこいいから特務士官がいいぞ!隊長もキャプテンと呼んでやる!」
おいおいそこか、いつもは何も考えずイノシシみたいに突っ込んでくのに、こういうところはいちいち気にする男だ。
「よし分かったユーイチ特務少尉よ、スギの木ミサイル全方位ミサイル発射準備!」
オレの号令にユーイチは復唱!「よし了解だキャプテン!」
急にウキウキになったぞ現金なやつだ、そしてユーイチは吠えた
「ケンちゃん聞いたかぁー!特務少尉のオレから命令伝えるぞ!スギの木ミサイル全弾発射準備だぁぁぁ!」
一拍置いて、どこからかスピーカーを通じ、お面のケンちゃんの声が入る
「各敵影の座標設定ヨーシ!スギの木ミサイル全弾発射準備完了!」
早いなぁーさすがだ!でもお面のケンちゃんはどこにいるんだろう?‥あぁそうか、この山の中が電子頭脳(※1)でいっぱいの戦闘分析室だったっけな。あの電子頭脳を使えばこんなの一瞬だよな!
準備完了の声を聴き、オレは徐に叫んだ
「スギの木ミサイル、全方位ミサイルはっしゃぁぁぁーーー!!」
途端にこの杉山全体に鈍い振動と籠った噴射音が響き渡る、ミサイルに一斉に火が灯されたのだ。‥そう、まさしく山が吠えているのである。
この艦は、通常は大多喜町に無駄にたくさんある杉山のひとつに偽装しているのだが、それはあくまでも敵を欺く仮の姿だ、実はこの杉の木の1本1本は高性能なミサイルで、正確に敵を追い、そして確実に仕留めるのだ。
そして今、山体を覆う杉の木の枝が綺麗に跳ね上がり、いよいよ発射スタンバイ!次々と木の根っこから炎が溢れたかと思うと轟音を立てて煙の尾を引き虚空に舞い上がっていったのだ。
当然1本や2本なんてケチな数じゃないぞ、何百という数のスギの木ミサイルがほぼ一斉に敵を目指して飛んでいくのだ。その光と煙の軌跡は、宙に浮くこの山全体を、まるで巨大な火の玉のように、辺りに煌々と浮かび上がらせた。まぁ傍目には山火事にしか見えないだろうけどな。
「第一弾ミサイル280基、仰角方向に発射完了!全弾目標に着弾確認!」
「第二弾250基、俯角方向に発射完了、着弾予想時刻は15秒後」
「第三弾240基、右舷方向に発射開始!」
「続いて第四弾230基は左舷方向狙え、発射準備よーし!」(※2)
若菜のヤッチャンとお面のケンちゃんから次々に報告が入る。彼らはこの艦の内部にある戦闘分析室で、ミサイルの軌跡と敵の破壊状況を大きな電子頭脳を使って随時チェックしているのだ。
いくらハリネズミのようにスギの木ミサイルを装備する我が艦とはいえ、大量のミサイルの推力の負荷はバカにならない。ミサイル発射の反動で我らが空中戦艦の浮力に悪影響が出るとも限らないのだ。故に一度にまとまった数のミサイルを射出する際は、慎重の上にも慎重を要するのである。第一こういうのは一気にやっちゃうと、みんなが盛り上がらなくてつまらないじゃないか。花火ってのはそんなものだ。
本艦の安全な航行は勿論のこと、乗務員の精神ケアまで常に考える、それがキャプテンであるオレの務めなのである。
そうこうするうち、左舷の敵集団を狙った230発のスギの木ミサイルも、炎と煙の尾を長くなびかせて飛んでいった。
オレが指令を発するこの杉の柱で組まれた櫓、別名「戦闘指令艦橋」からは、遥か彼方で光の塊が幾つも湧き上がるのが見える。目視出来ないほどまだ遠方の敵機に次々とミサイルが命中しているのだ。その撃墜の証の閃光なのである。
程なくして艦の奥にある戦闘分析室のお面のケンちゃんから伝令が入った
「スギの木ミサイル1,000基、全弾目標に命中確認!」
よしよし優秀じゃないか我々は。これで敵は全て殲滅だな(ニヤリ)
「ただし‥」
え?ただしってなんだ?あのサイコ野郎のタダシくんのことか?不吉なその名を言うんじゃない!(※3)
「ケンちゃんボクが伝えるよ‥、ワカナです。キャプテン!実はミサイルの数より敵が多かったみたいです。」
げ!いまさらなんてことを!?しかもその攻撃を逃れた敵戦闘機が、なおも我が艦に向け、体制を建て直しつつ接近中らしい。
急遽ミサイル発射を指示したけど、ワカナのヤッチャンがいうには、どうやらさっきの攻撃で、スギの木ミサイルは全部撃ち尽くしちゃったようだ。まぁーこの櫓から見渡す限り、確かに杉の木が全く生えてないな、すでに我が艦はハゲ山になってたわ。
「はぁー、こりゃまったくおいねぇわ‥(房州弁翻訳:あぁ、こりゃ全くナンてこったい!)」
だがしかしオレは負けない、負ける気がしないのだよフフフ、フフフフフ。
敵は既に目視で確認できる凡そ5km程度まで近づいているようで、前方の視界に黒い点がポツポツと見えてきた。いよいよ来るぞ!
ヤツらの武器は単なる機銃や爆弾だけじゃない。我々がもっとも警戒するのは新鮮な肺炎ウィルスを仕込んだ爆弾「50kg投下あお弾」、これは致死性の肺炎ガスで周辺一帯を汚染するもので、うっかり吸いこんだ生き物は、途端に40度の高熱が出て死ぬまで咳が止まらなくなるという恐るべき兵器だ(※4)。
このような生物兵器の使用については、つい先ごろ1975年3月に多国間条約として発行された生物兵器禁止条約に対する明らかな違反だ、なにより日本も1975年4月に署名しているのだ!それなのに平気でこのような卑劣な兵器を使うとはなんと人道に反する敵であろう、それだけでも許せん!
「キャプテン!敵残数は、50機程度の模様です!」
ヤッチャンがレーダーで読み取った敵の総数を教えてくれた。最初の1,000機越えからは大分減ったが、それでもかなりな残存戦力だな。
そして今、敵機は一塊りになり、我が艦の上空から攻撃を仕掛けようとしているのか仰角から侵入しようと、つまりこの艦の上を取ろうと展開しはじめているようだった。
「総員は敵の生物兵器(あお弾)に備え、直ちに防毒マスクを着用!」
うむ、いよいよヤマデスの、真の姿を見せる時がやってきたようだな。
「ユーイチ特務少尉、偽装解除だ山の土砂を吹き飛ばす!この無慈悲で凶悪な空中戦艦ヤマデスの雄姿を、敵に見せつけてやろうじゃないか!」
オレは、背後の櫓で舵を取るユーイチに振り向き叫んだ。するとユーイチは不敵な笑みを浮かべ、両腕を頭の上にあげて○を作って答えた。
「偽装の爆破解除だな、敵を十分ひきつけてからやってやろうぜ!」
そう、このヤマデスの偽装された山肌は、本体との間に細かく敷かれた炸薬を爆破させることで四方八方に吹き飛ばして外す。偽装とはいえ本物の重たい土砂だ、それを爆発の威力で一気に吹き飛ばすのだ、これはこれで強力な武器になるのだ。
「きっとあいつらビックリしてションベンもらすぞウハハハハ!」
ユーイチの物言いはどこまでも下品だが、まー確かにこの破壊力はナメられないものがある、すかさずオレはユーイチに我が艦の新たな進路を指示、我が艦はこれから仰角30度で、敵群の真ん中に特攻だ!そして敵の中心部で、土砂の偽装に発破をかけて敵機を全部撃ち落としてやる!
「敵を待たずに突撃だな!いい作戦だ全くホレボレするぞ了解だ!」
そうしてユーイチは舵輪を水平に戻したあと、徐に右脇のミズノの金属バットを模した大きなレバーを手前に引いた。
同時に艦首がグバァッと持ち上がり始める。
「空中戦艦ヤマデス!仰角30度で全速前進!」
この艦の下部に2つ覗く大きな反重力場発生装置が、それぞれ鈍い振動を纏いながら低くブーーーン!と唸りだした。まるで冷蔵庫のモーターのような音だ。
空中戦艦ヤマデスは仰角30度で、つまり上向きに30度ほど傾いてはいるが、まるで電車の加速のように滑らかに滑り出した。
自然の重力を巨大な電磁場で人工的に抑制・もしくは無効化させて飛行する原理だ、例え艦が逆さまになろうとも、この装置のお陰で乗員は全く傾かないのだ。どうだスゴイだろう!
ついでに空中戦艦ヤマデスのエネルギー源について少し触れておこう。2つの反重力発生装置をブン回す電力の供給源は、超技術が生み出した常温核融合炉だ。詳細に関しては、この艦を作った人物との密約で21世紀まで公開はできない。さらにオレはこの仕組みを詳しく聞いた筈だがそもそも難しすぎて既に思い出せない、フフフこれ以上こんなオレから聞き出そうとしても無駄だ諦めるんだな!
でも覚えている範囲では、なんでもその昔、アメリカの牧場にUFOが墜落して、そのとき乗ってた気のいい宇宙人から色々教えてもらった技術だそうな。ただし、この核融合炉は、実は取扱注意な代物でもあり、万一爆発でも起こしたら、大多喜町が地殻ごとそっくり消えちゃうぐらい酷いことになるから気を付けろと念を押されていたんだった。でもそんな物騒な心臓を持つこのヤマデスは、今から敵に特攻するのだ。非常にスリル満点だが、これも正義のためだ仕方がない。
そしてもう一つのエネルギー源は大型トラックやバス、そして我が町を走る国鉄 木原線のキハの燃料と同じ重油だ。実はこの艦には左右2本の足が収納されており、重油は二足歩行で歩く際の燃料なのだ。いつかその雄姿をお見せできる日がくるかもしれない。
さぁ無駄ばなしはここまでだ、残った敵は目の前、総員戦闘配備!
ジャーンジャーン!ジャンジャカジャンジャン!ジャジャジャジャジャーーン!
その時、突然大音響で軍艦行進曲が流れ出した!まるで政治結社の街宣車かパチンコ屋の新装開店のようだ。
「キャプテン、こういうときは景気よく行かなくっちゃね!」
おぉ!従弟のコージが流してくれたのか、軍艦マーチ!勇ましいな最高の選曲じゃないか!今の我々にピッタリだ、ちなみにこの曲には歌詞があるんだオレは歌えるぞ、なによりコージよ大都会の千葉市からわざわざ来てくれてありがとう!
軍艦行進曲を大音量で轟かせ、敵陣にグイグイ突進する我らが空中戦艦ヤマデス!
敵の機銃掃射や爆弾が、この艦めがけてまるで雨のように降りそそいでくるが、そんなものじゃ今のオレたちを止められない!偽装された分厚い山肌がバリアー代わりなのだ、痛くもかゆくもないんだぞ!心配していた敵の生物兵器、肺炎ガス(あお弾)も何発も喰らったが、オレたちみんな防毒マスクをしたままなので、なんということもない。やはり風邪や肺炎、インフルエンザにはマスクが重要だということを再認識させてくれる。ただこの防毒マスクは呼吸が非常に苦しく、独特の匂いがあってときどき咳きこむのと、視界が少々曇るのが難点だがな‥。
そんなときだ、勇猛果敢なオレたちに怯んだのか、正面の戦闘機たちが左右に散った、おぉ!敵は間違いなく逃げ腰じゃないか!オレはこの瞬間を見逃さなかった!
すかさずオレは叫んだ「今だ!偽装解除!」
「OK、ヤマデス偽装解除!発破かけるぞぉぉぉ!!」
ユーイチは、舵輪の脇に取り付けられた大きな赤いボタンを、ゲンコツで力いっぱい殴るように押した。
ミシミシミシミシ・・ドッカーーーン!
空中戦艦ヤマデスは敵戦闘機部隊のまさに真ん中で、轟音と共に大爆発を起こした!そして偽装した大量の土砂を、マッハの速度で四方八方に吹き飛ばしたのだ!
ヤマデスを取り囲むようにしつこく旋回していた敵にとっては、これはさすがにたまらないだろう。大量の土砂と爆発の衝撃派が、いきなり至近距離から襲いかかってきたのだ。
みるみる墜落していく敵の戦闘機たち、かろうじて難を逃れた2~3機は、こりゃ分が悪いと尻尾を巻いて逃げていった。
爆発の煙が徐々に晴れるに従い、偽装を取り払った空中戦艦ヤマデスの真実の姿が露わになった。
杉山の偽装に隠されていたのは、実はオレたち大多喜小学校の校庭奥にある巨大な人工の山だった。そう、あのトラックの古タイヤでうず高く組まれた大多喜小キッズの最高の遊び場「モモトセ山(※5)」だったのだ。
そしてモモトセ山の下には、異様な機械の構造物がギッシリと詰まっている。なにより目立つのは、敵を威圧するかのような巨大な出っ歯と口だろう。まるで深海魚のようなこの異形の戦艦は、あのアクマイザー3のザイダベック号(※6)にも勝るとも劣らない、そんなケレン味あふれる不気味さなのである。
・・さぁどうする?逃げた戦闘機を追うか?
‥と、そのときだった
「フッフッフッ、フッフッフッフッフッ」
どこからともなく不敵な笑い声が辺りに響き渡ったのだ!
「ヤマデスの諸君、ワタシだ、暗黒肺炎帝国 ヤリター総統だ」
はっ!敵の親玉がとうとうきたか!‥総統なんて大層な名を語りやがって、おまえは弱い者いじめが大好きなヤリタじゃないか!もっというと謎の伝説のオオダコ猿(※7)だ!おまえの正体はとっくにお見通しだ!
「なんのことだ?私はオオダコザルなどではない、人の話をちゃんと聞くんだサナダ、私はヤリター総統だ。」
「諸君の戦いぶりに敬意を表して、私自らが諸君たちを葬るべく、わざわざやってきたのだよ」
ヤリタ―総統は一方的にそう言い切ると、なんだか両手を斜め上に揃えながら振り上げて、そしてひと言叫んだ「ヘ~ンシン!」
ぼわん!と紫の煙が立ち上り、そこには巨大な怪獣が‥
やっぱりヤリター総統は謎の伝説のオオダコ猿だった!嘘つきヤリタめ、とうとう本性を現したな!しかもオレがたったいま苦しめられている肺炎の親分だというのがますます許せない、全てきっとオマエのせいだ!やはりオマエは極刑に値する!
しかし巨大化したその身の丈は20mほどか?マジンガーZと同じぐらいの大きさだな、少々手ごわいかもしれん。。
オレはマイクを持った
「キャプテンだ。これまで大多喜町の愛と平和のために人知れず戦ってきた我らが大多喜無敵探検隊、そして我らが空中戦艦ヤマデスの、これが最後の戦いだ。敵は巨大だ、実際本当に大きくなった、だがしかし我らは負けない。なぜなら我々が正義だからだ!正義は常に勝つものである!諸君、勝機は我にあり!」
オレの演説にあわせるかのようにヤマデスの「百」と書かれた左右の眼玉の部分が外側に開き砲座がせり出す。中世の海賊船さながらの、鋳造製のレトロな大砲が2門覗いたのだ。
ヒロツン、クニオ、いよいよおまえたちの出番だ!あの憎たらしいオオダコ猿に、大多喜の杉山で苦心して集めた特製の杉花粉弾をお見舞してやれ!これは先に日本が署名した生物兵器禁止条約に触れないから大丈夫だ!
「アニキ―!今は秋だから杉の花粉はないよ!」
あぁそうか!確かに杉花粉は春だったな、我が弟クニオはしっかりしている。‥ではアレだアレ、ほれ!セイタカアワダチソウにそっくりのアレ、秋のブタクサ!あの花粉をたっぷり詰め込むんだ、あれならイケる!
ヒロツンから返事がくる「了解キャプテン!こんなこともあろうかと大多喜の空地で集めといた特製ブタクサ花粉弾装填するよ~!」
フフフ苦しむがいいヤリタよ。オマエが花粉症だってことは毎年この季節のオマエを見てて知ってるんだ。そしてどれだけ苦しいのかもオレにはわかる、何故ならオレも花粉症だからな!
装填完了し次第、各自発射だ!敵はオオダコ猿のヤリタ!花粉症効果を最大限に発揮するため、ヤツの顔を狙うんだ!
なぁーに巨大化しているので的はデカい。
間髪入れずクニオが一発目を発射!
ドゴォォーーーン!
続いて二発目、ヒロツンが大砲から延びる引き金の紐を強く引っ張った
ドゴォォォーーーン!!
特殊弾薬は綺麗な放物線を描き、オオダコ猿の顔に見事命中!その瞬間、ブタクサの花粉色をした黄色いモヤが辺りに広がった。
「ん?なんだこれは?‥ヘーックション!ヘックション!ゲホゲホゴホ、あぁ目が、目がぁー!目がかゆい!!」
フフフどうだ恐れ入ったかヤリタもといオオダコ猿め!
クニオ!ヒロツン!どんどん撃ち込んでやるんだ!
オオダコ猿が苦しむのを面白がるように、笑いながらありったけのブタクサ花粉弾をドッカンドッカン次々と撃ちこむ漢2人。
うむ、中々サディスティックで宜しい!
「うおー、こりゃタマラン!お前ら本気でゆるせねぇ!」
怒りに狂ったオオダコ猿は、いきなり生臭くて真っ黒なタコの墨をオレたちに向けて噴射した!そしてタコ墨シャワーに紛れるようにタコの触手がいきなりスルリと延びてきたかと思うと、なんとオレの防毒マスクをはぎ取った!
途端にオレも目がかゆくなり鼻水ダラダラ、そしてくしゃみと咳が止まらなくなってしまった!ゲホゲホへっくしょん!こりゃタマランなんてこったい!
「キャプテン!大丈夫か!?」心配したユーイチが背後の操舵室という名の櫓から声をかける。
いやいや大丈夫なわけがないだろう、これが大丈夫に見えるかユーイチよ!
オオダコ猿は今やこのヤマデスに貼り付いて、その怒りのままにタコの触手をゴムのように延ばしては、この艦をビッターン!ビッターン!と叩いている。こんな攻撃では早々壊れやしないだろうが、それでも時間が経てば分からない。なによりこの大きなタコ足が不快で鬱陶しいことこの上ない!
かくなる上は、もう最終兵器を使うしかないようだ。
オレは涙と鼻水を垂れ流しながらユーイチに伝えた
「‥ユーイチ、歯動砲だ!(げほごほ)」
一瞬、ユーイチの顔から血の気が引いたのが見て取れた。
「キャプテン、ここで歯動砲を使うのか?第一敵が近すぎる!」
今使わずしていつ使うというのだ、一気に後退してオオダコ猿を振り払い、間合いを取るんだ。そして歯動砲をお見舞してやろう!
質量兵器でもある重金属の巨大な歯を、荷電粒子ビームと一緒に亜光速で撃ちだす歯動砲だ、必ずや敵を完膚なきまでに殲滅できる!
だがしかし歯動砲の破壊力は凄まじい、こちらも安全な距離を取らないと巻き添えを喰らってしまうのだ。
「やめたほうがいい。どんなに距離をあけようと怒ったアイツは必死に追いかけてくるぞ、そんなに距離は開かないぞ」
そう全くその通りだユーイチ、大分賢くなったな成長したな。しかし男には、やらねばならない時があるのだ!
オレの真意が伝わったのか、ユーイチは黙って頷くと声をあげた「クニオ、ヒロツン、ありったけの弾を撃ってアイツを振りほどいてくれ!そしたら全速後進かける!」
追ってオレがみんなに叫ぶ
「キャプテンだ!今から本艦はオオダコ猿を振り払い間合いをとる、そして準備出来次第、アイツに歯動砲をぶちかまし分子レベルにまで粉砕する!」
一瞬ヤマデス艦内に緊張が走ったが、次々に返事がくる
「クニオ、了解!」
「ヒロツン、了解~!」
「コージです了解です」
「ヤスヒロ了解しました!」
「ケンイチ了解!」
OKみんな優秀だ!
早速クニオとヒロツンの激しい砲撃が始まった。0距離での砲撃とは、砲手としては中々テクニックがいるものだが、撃たれた側も至近距離故にその衝撃が半端ない、現にオオダコ猿は苦しみ、のたうちまわっている。
そんな中、まだ必死に本艦に貼り付いてるオオダコ猿の触手に、従弟のコージが大きな包丁を振りあげて、いきなり斬りつけたのだ!
途端にオオダコ猿のタコ足が2~3本スパッと斬れて、辺りに転がった!
実はコージはオオダコ猿に気付かれないよう静かに死角から接近し、手にした大きな包丁で、見事にその触手を斬り落としたのであった。
コージよやるじゃないか一撃必殺だ!まさに決死のゲリラ部隊、あの忍者部隊月光(※8)も真っ青だぞ!
「実はねボク、タコのお刺身が好きなんだー、さっきからおいしそうでおいしそうで我慢できなくって、つい‥」
えぇっ!それ喰うの?そのタコ足ってヤリタだよ?いいのかそれで?
ご丁寧にワサビと醤油皿も用意してきて、コージは食べる気満々だ。
コージよそんなにタコの刺身が好きだったのか、まぁいいかオレが喰うわけじゃない、分かったヤリタのタコ足の処分は貴様に任せよう。結果よければそれで善しだ!
一方、コージの包丁でいきなり斬りつけられたオオダコ猿のヤリタは「ギャッ!」と声を出すと、よっぽど驚いたのか、本艦に貼り付けてたいくつもの触手を全部放したのだった、これはまたとないチャンス到来だ!
「今だ!全速後進!」ユーイチの声と共に、艦がスルスルスルーッ!と真後ろに向って滑り出す。
「イテテテテ・・ひでぇことしやがる」容赦ない砲撃に加え、包丁で斬りつけられて怯んだオオダコ猿は、しばしその場にとどまっていたが、どんどん離れるヤマデスに気づき、思った通り全速力で追いかけてきた。
しかしこっちは最新の科学を結集した艦だ、早々追いつけず、そしてジワジワとだが距離が広がっていった。‥よし、そろそろ頃合いか。
「歯動砲、発射準備!各自、対ショック対閃光防御!」
左右の大砲が仕舞い込まれる。艦の上でオオダコ猿のタコ足を刺身におろし醤油をかけてムシャムシャ食べてたコージも、残りのタコ足を急いで拾いあげると艦内に滑り込んだ。そしてオレとユーイチは櫓の上で黒いゴーグルを下ろした。
オレの前にはピストル型の照準器がせりあがってきて、その中央には徐々に引き離しつつあるオオダコ猿の姿が投影されている。とはいえ、まだまだ危険な近さではあるがな‥。
「歯動砲、エネルギー充填120%!キャプテン、撃てます!」戦闘分析室のヤッチャンから連絡が入った。
よし!やるしかない!
オレは照準器の引き金を引いた
「歯動砲、発射ぁぁぁ!!!」
ヤマデスのアゴが開き、上下の歯の間から目もくらむような光が溢れ出した。次の瞬間、ヤマデスの上下の歯茎がまるで入れ歯のようにガクンと外れたかと思うと、強大な出力の荷電粒子ビームを纏い、一気に飛び出した!
雷にも似た大音響と激しい衝撃派を伴い、光と歯茎はオオダコ猿に向け、一直線に突き進んでいく。
オオダコ猿がその身に迫る異変に気付いてからは一瞬だった
「あれ?なんだあの光は?」
その次には目の前に大きく迫った歯茎、そこでオオダコ猿は光と熱で霧のように細かく粉砕されて消えてしまった。
やったか?やったぞ!!
これで暗黒肺炎帝国は全滅、親玉のオオダコ猿も完全無欠に殲滅できた!これでオレの肺炎もきっと治ることだろう!オレたちは勝った!
しかし事態はまだ落ち着いてはなかった。歯動砲を撃つにはあまりにも敵との距離が短かったためか、辺りの空間に大きな歪みが生じてしまったようだ。歯動砲の軌跡の先には大きく黒い渦が発生してしまい、それが徐々に大きくなっている。‥間違いない、あれは次元断層だ!
そしてこの次元断層の渦のせいなのか、さっきから艦の反重力発生装置が不安定になっている。まるで艦全体が嵐の波に揉まれるように、前後左右に大きく揺れるようになっていたんだ。さらに悪いことに、どうやらヤマデスはゆっくりとあの黒い渦に引き寄せられているようだ。
こりゃいかん!どうにかして脱出せねば!あそこに引きづり込まれたら一巻の終わりだ、次元の狭間で、永遠に漂流を続けることになるぞ!
《あれ?‥そういえば、いったいここはどこなんだ?》
こんな緊急事態の中だからなのか、今になってオレは非常に重要なことに気づいてしまった。
そもそも、ここはどこだ?
さっきまで夢中で戦っていたので全然気づく暇がなかった。
辺りは朝でもなく夜でもない、全体がボンヤリとした夕暮れのようで、上も下もよく分からない、右も左もあるようでないようなヘンテコリンなところだ。
そんなことを考えている間にも、艦の揺れはますます激しくなってきている。ユーイチ!艦内から操縦しよう、櫓は危ないぞ!
背後を振り向いてユーイチに声をかけたあとに、オレも艦内に入ろうと櫓の縄梯子に足を下ろしたときだ、いきなりドン!と、一際大きな揺れがきた!
その瞬間、オレは櫓からあっけなく放り出されてしまった。
宙に投げ出されたんだけど不思議と怖さは感じない、
その代りになんだか急に眠たくなってきた。
‥遠くからオレを呼ぶ声がする
あぁ本当に遠いな。
おやおや?あれはユーイチの声かな?
なんだか歌を歌ってるようだ
海行かば~♪ 水漬く屍~♪
山行かば~♪ 草生す屍~♪
大君の~♪ 辺にこそ死なめ~♪
顧みはせじ~♪(※9)
「‥キャプテンは名誉の戦死をなされた、乗員、英霊に対し敬礼!」
いやオレしんでねーし、
助けにこないのかよ
やっぱりユーイチはひどいやつだなぁ。
なんだか体がふわふわする、
どうやらオレはあの黒い渦に引き寄せられてるみたいだぞ
そのうち吸い込まれるんじゃないかなコレは?
‥やだなぁ。
そんなことをボーっと考えている間にも、ますます渦が近くなってきた、
近くなってきた‥。
でも瞼が異様に重くって、もうあけてられないや。
しばらくしたら静かになった。
気付いたらオレを渦に引き寄せてた流れも止まったようだ。
とうとうオレは渦に吸い込まれちゃったのかな?
たどり着いた場所は、やけに静かだった。
耳が詰まったように全く音がない、とても静かなところだった。
1977年(昭和52年)の冬が近づく11月頃、
肺炎を拗らせた小学5年生のオレの病床の記憶はいよいよ終章へ‥、
次回、act:18-今夜がヤマです【急の章】 ↓
【大多喜無敵探検隊-since197X 今夜がヤマです(序/破/急)Link 】
今回お話が長くなってしまい、3部に分けました。
見づらくて大変申し訳ありません ↓
大多喜町MAP 昭和50年代(1970年代)
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