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とことこショート

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5分で読めるショートストーリー
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#絵本作家

絵の向こう側

絵の向こう側

今日も良い天気だ。降水確率0%、最高気温27度。
私は天気予報を確認したら、四つ切サイズのスケッチブック、絵の具、筆が入ったカバンを肩から下げ、イーゼル片手に海へと出かける。歩いて15分で海岸へ着く。
海といっても砂浜ではない。船やボートが停泊している港へ行く。白い船は太陽の光を浴びて眩しいくらいだ。そこで私は絵を描くのが日課になっている。

私の夫は、同じ会社の同僚で2年先輩だった。会社の仲間内

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ヤングケアラー

ヤングケアラー

6時に起床。朝ごはんの支度をする。
夜に炊飯ジャーのタイマーをセットしていた。ごはんの炊けた匂いがする。
手と顔を洗って、鍋にお湯を沸かし、ネギをきざみ入れ、出汁入りの味噌を溶く。おかずは、昨日の残りの鮭。

それから、母を起こし、リビングまで手を引いて椅子に座らせる。
私は、母の隣に座る。
一緒に『いただきます』をして、母の様子を見ながらご飯をかきこむ。
母はゆっくり食べる。前をじっと見つめて何

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お母さんに会いたい

お母さんに会いたい

「お母さんは寝ているの?」
「お母さんはおしゃべりしないの?」
「お母さんはもう…笑わないの?」

3歳の ことちゃんを残し、お母さんは病気で亡くなってしまいました。

大勢の大人たちが、真っ黒な洋服を着て、お母さんの写真を見てシクシク泣いてお辞儀をしています。
ことちゃんには、不思議な光景でした。

「お母さんはどこにいるの?」
お父さんは、静かにお母さんの遺影をさしました。
ことちゃんは、お父

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カフェ・ソスペーゾ【最終編】

カフェ・ソスペーゾ【最終編】

マーラが亡くなって2年が過ぎた頃、今度はイタリア全土にインフルエンザが流行った。
その頃、同じくして双子の兄弟サミュエルとジョバンニもインフルエンザにかかってしまった。薬を買おうにもお金がなく、相次いで亡くなってしまったのだった。

『なぜ、神様は私達をこんなにも苦しめるのか』

残された自分と小さな子供……生きる希望を失いかけ、アンドレアはマティを抱いて当てもなく山を登っていた。辺りはどんどん暗

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カフェ・ソスペーゾ【後編】

カフェ・ソスペーゾ【後編】

ソフィアはアンドレアの話を静かに聞いていた。どこまで続くとも分からぬ戦争に心を痛めていた。辛く悲しい体験をしてきた人が目の前にいる…ソフィアは神妙な面持ちで聞き入った。

終戦後、アンドレアは無事に帰還した。心待ちにしていたマーラを強く抱きしめ、子供達と一緒に再会の喜びを分かち合った。戦場では味わえない人の温もりがそこにはあった。
長く苦しい時代が終わったのだ。
これからは希望を持って生活ができる

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カフェ・ソスペーゾ【中編】

カフェ・ソスペーゾ【中編】

イタリアの片田舎にあるカフェ・スペラーレ(希望)
店主マティがソスペーゾ(助け合い精神)で一人の女性を雇った。
その女性の名はソフィア。
ソフィアはマティに恩返しをしようと一生懸命働き、彼女本来の明るさを取り戻しつつあった。
ソフィアが店先で掃除をしていれば、彼女見たさに近所の野郎どもが集まってくる。
つかさず、「おはようございます」と笑顔いっぱいで挨拶すると、途端に彼らは蜂の巣を突いたかのように

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『お母さん、どうしちゃったの?』~キッチンドランカーになったわけ~

『お母さん、どうしちゃったの?』~キッチンドランカーになったわけ~

なっちゃんのお父さんとお母さんは、同い年で学生の頃からお付き合いしていた。
そして、二人とも同じ年に大学を卒業した。

お父さんは、成績優秀で上場企業の会社に入社。
お母さんは、大手の広告代理店に勤めたが2年後、結婚を機に寿退社した。

順風満帆な新婚生活。
お母さんは、とっても幸せな気分でお父さんに食事を作ってあげたり、
スポーツジムに行っては、身体を鍛えプロポーションを維持する。
洋服もハイブ

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必ず、想いは通じる

必ず、想いは通じる

その頃、茜は離婚をした。
『この世はみんな打算でできている。自分さえ良ければそれでいいのか?』と
絶望に苛まれていた。

仕事を探さなければ生きていけない。
子どもを残して死んではいけない。
そんなプレッシャーの中、ハローワークの職業支援を目にし、勉強しながらお給料がもらえるシステムを知った。
”ヘルパー2級講座” 
茜に迷っている暇などなかった。3ヶ月間介護のことを学び、就職に繋げていくというも

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ドラレコとあおり運転と俺

ドラレコとあおり運転と俺

最近、”あおり運転”の影響もあって、会社の車にドライブレコーダーが設置された。
前後に一つずつカメラが付いている。おまけに、運転技術が採点される機能付き。
毎日運転するたびに、誰かに見張られているようで緊張する。

今日も取引先を回るため、車に乗らなければならない。
乗車する前には、必ず点呼をする。
『お酒を飲んでいませんか?アルコールチェックお願いします。』
『薬を飲んでいませんか?』
『睡眠時

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