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ライブレポート『菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール@STUDIO PARTITA』

実に、11年振りの邂逅。

図らずも仕事のオフと公演日が重なって、この度11年振りの対戦が実現しました。足のわるい主宰にはちと辛いオールスタンディング現場とはなりましたが、駒野逸美さん加入直前期のダブ・セクステット以来となる成孔さんとあって乗っけからテンション高めでお送りしてまいります。幾多の名演が生まれてきた名村造船所跡地、本当に長年憧れの地でした。

その前は2009年『花と水』ツアーの大阪公演で相見えました。全編生音で成孔さんのステージを堪能できたことは、本当に心の底から財産だと感じます。氏の徹底したスタンディング/シッティングの使い分けが、ジャズの持つ両対応性を余すことなく引き出していた。立って聞けるジャズがあっても良いんじゃないか、なんて当時のMCが今も鮮明に焼き付いている。

Emma-Jean Thackray公演の興奮が蘇る。

まさかサービスエリアでヘドバンが起こるだなんて、15年来のビルボード通いにはとにかく前代未聞でした。しかもそれが現役ジャズ研勢ではなく、壮年世代を中心に繰り広げられた光景だった事実はこれからも深く記憶に刻まれ続けることでしょう。人間いてもたっても居られなくなったら後先考えずとにかく体を揺らすべき、そんな至極当たり前のことに気付かされた9月。

迷わず、別連載での東京遠征を思い立ちました。想像以上に予算をオーバーしましたけれど、一切後悔はないです。この勢いのまま突き進んでしまう方が長い目で振り返った時間違いなく正しいのだろうなと。彼女のステージを観て確信した、コロナだインフルエンザだと塞ぎ込んでいる場合ではない。観たい人は観たい時に観ておかないと。人は突如死ぬ、いとも容易く。

腹ごなし。

北加賀屋駅前の「大衆酒場 おく」にて数千円分たっぷり堪能しましたぞえ、せっかくの機会ですのであくまで観光客向けでなく地元民が愛する店にお金を落としたい所存。一皿200円〜という衝撃的な価格設定と確固たる美味さに酔いしれた、本戦前にこんな呑んで大丈夫!?ってな具合には酒が進み是非再訪したい店ランキングの最上位に挙げる極上のひと時。ごちそうさん。

とかく無口な大将が恐らく14時開店時から大酒を煽っていた。生鮮メニューを頼むともれなく親父さんの手に渡りますので、コロナ禍の中抑えきれない気持ちを是非注文にぶつけていただき当店を余すことなくご堪能下さいな。スマホ御免の銘店、カツオのたたきを手渡す至極の表情よ。筆舌に尽くせぬエクスタシーが味わえました。住之江区なら絶対的にここの店。

ライブ前にセットリスト公開。

これはかなり強気の一手、しかしクラシック音楽のコンサートでは当たり前の光景でもあり。勿論ジャズ界隈に片足突っ込んだ経験のある主宰ですからその場その場でドラマが起こり、またバンドの化学変化でもって当日は全く別物が並べられても全然不思議ではなかった。その期待にもしっかり応えてくれるのはさすが成孔氏、「踊れるセットをご用意しました」の言葉通り。

極東は千葉県銚子市の生まれ。大阪好きを公言し天王寺ドン・キホーテ上のホテルに宿を取った一方、あんまり土地勘がないまま名村造船場跡地を3年振りの帰阪公演に引いた辺りはさすが天性の勘といったところか。呑み過ぎた余り階下でよくわからない買い物を沢山しちゃったなんてMCで漏らす部分も含め、11年振りの邂逅を心の底から満喫できました。

僻地だからこそ曲者が集い、集客の伸び足は鈍化。

四つ橋線の果てに位置する北加賀屋駅へ当日券含め平日19時半に辿り着けた少数精鋭はやはり歴戦の強者ばかり。ポリリズムもなんのその、スタンディング現場をフルに活用し各人がマスク完備で好き勝手踊る。まさしく現代アート。終始踊りっ放しでした、どの場面で誰に目をくれて良いのかわからずキョロキョロ。このオルケスタのメカニズムを探るべく。

本番直前、真っ先にステージへ上がったのはハープ奏者の堀米綾さん。もうドキドキしましたね。職人の表情で調律に勤しむ傍ら、ドリンクチケットを引き換え観客達が我先にとアルコールの缶を開ける音。アンサンブルは開場時点から既に始まっていた、造船所だろうがオペラ・バレエ用ホールだろうがぺぺファンは総じて高いリテラシーと着こなしでもって迎え撃っていた。

大儀見元のバンド、と敢えて断言しておきます。

田中倫明氏、はたけやま裕氏を差し置いてこんなこと書くの忍びないのですけれど。やっぱり大儀見さんは凄かった、しかしそれでいて結成20年近くのオルケスタでも予定調和や二番煎じの感は一切なく。曲を演奏し終える度に大きく息を吐く大儀見さんの表情はとても印象的でした、あっぶねーみたいな。それだけスリリングな音楽だということ。単なる癖なのかも。



小松亮太氏の一番弟子で知られる早川純さん、椎名林檎ワークスでお馴染みの林正樹・鳥越啓介両氏。また弦楽四重奏チームがとにかく隙をうかがっては譜面にない、またリハでも披露していないまだ見ぬ秘密技を繰り出して。ジャズのようでジャズでない、クラシックのようでクラシックでない。瞬間芸術と再現芸術のハイブリッド、非常に鮮度の高い2時間弱。

小学生時代に見た夢、あれは夢じゃなかった。

KBSホールでなく、大阪の地で観られたことは今後の財産になるでしょう。30数年生きてきてまた小学生の時分から知る菊池成孔の舞台を、今回晴れてスタンディング現場で初めて目の当たりにできたこと。さっきまで呑んでたアルコールなんて全部吹き飛んでしまい見事帰り道、梅田の行きつけの店で閉店ギリギリまで語らいでしまった。時に、音楽は人を狂わせるもの。

得てしてそういう場面で盟友と再会し、また同じ出身校のかわいい後輩さんとも知り合えたこと。時に、音楽は人と人とを繋ぐもの。氏もMCで桃太郎になぞらえ不思議なご縁が現在までの音楽活動を支えてきた経緯を感慨深げに話していましたが、アマチュアジャズドラマーの主宰とて同じで。ピアノに挫折し、失意の中辿り着いた進学先で運命的出会いを果たしたこと。

偶然は必然、必ずまた会いに行きます。

腐れ縁と一言で表現してしまうのは余りに無粋かもわかりません、それでも今日まで続く関係者の多くは音楽を愛しまた音楽に愛された人ばかりです。昨今のコロナ禍以降しきりに氏が語りかける言葉は「音楽があれば、きっと大丈夫」主宰もその通りだと考えています。一見出口の見えないトンネルもやがて終わりが見え、本当の意味で音楽を楽しめる世界線がやって来る。

今日起こった全ての音楽全ての出来事はその前兆だったのかもしれません。11月から続く買い足しに次ぐ買い足し、主宰はますます貧乏生活に陥る一方ですがしかし満たされたい気持ちは加速。入稿時点Dry Cleaningの大阪公演とVaundy、乃木坂5期生の神戸公演に堂々名乗りを挙げさらには年明けのRina SawayamaやPavementさらにはHarry Stylesのツアーも視野に。

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